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想定した以上の激戦となったワーウルフ三体同時を相手取った戦いは、メンバー全員が魔力が底を尽きかける程に疲弊し、身体もボロボロと称するのがぴったりなほどに消耗していた。


そんな彼らの攻略の道を繋ぎとめたのは、ユイの使役する白蛇、レピィ。


最後に残ったワーウルフを、ハジメを除くメンバー全員でどうにか討伐したところでタモツ、カケル、リュウの前衛三人が崩れ落ちる様に意識を失った。


残されたメグ、ユイの二人も魔力をギリギリまで使っていた為に意識を失うまではいかなかったが、その場で座り込んで立ち上がる気力も残っていない。


いつ新手のワーウルフが現れるとも知れぬ状況に死を意識した二人をそっと支えたのが、ワーウルフの魔石を喰らい、全長20m超えの大蛇へと変貌を遂げたレピィ。


以前ハジメを丸呑みにして回復を行なった様に、気絶状態の四人をバクバクと呑み込み、戦闘が始まる際に放っていた荷物を器用に尾で纏め上げて担ぐ。


そして、ユイとメグの二人を器用に背に乗せた状態で40階層へと続く境界付近まで送り届けた後、不甲斐ない男性陣に代わり守護を任されたと言わんばかりに意気込み防衛を買って出たらしい。



手渡された食事を摂りながら、そんな話を聞かされたハジメの心境といえば針の筵、といったところか。


一番に意識を失ったのはハジメであり、曖昧な記憶を辿れば、蛇纏-豪掌-を放った際に超強化で至る所の筋肉断裂、炎塊を放った際には至近距離で業火に晒された所為で全身に火傷を負っており、それ以外でもワーウルフとの戦闘ではそれなりに怪我を負っていた自覚もある。


(自分の事ながら、とんだ無茶をしたもんだ。魔力枯渇はケセラセラと超強化の発動を考えると仕方ないと割り切れる部分はあるけど、それ以外は反省する事ばっかりだなぁ。)


傷は癒えても失った血は戻らない為、普段の制限された食事の何倍も食べるハジメの隣では、何だかんだ言いながらも嬉しそうに世話を焼くユイから懇々とどれだけ無茶をしたのか、自分達を守ってくれていたレピィの勇姿を語られながら食べる食事の味は味覚を失ったハジメに少しだけ塩味を感じさせるものとなった。


ーーーーーーー


一夜明け。


レピィのお陰で全快した身体の調子を確かめる様に軽い組手を行なうのはハジメとリュウの二人。


魔法に関しては先生役のハジメも、こと格闘となれば立場は逆転して指導を受ける形となる。

ハジメがワーウルフ戦で使用した蛇纏-剛掌-は、リュウが編み出した蛇拳-纏式-を攻略の最中に教わりながら磨いて身に付けた技の一つでもある。


師であるリュウの戦闘スタイルは今でこそ流水の如き柔拳であるが、元々は烈火の如き剛拳である。

かつてゴブリンを沈めた一撃に焦がれ憧れた姿を基にしたハジメの戦うスタイルに、それはもう色々と思うところがあったらしいリュウからのテコ入れが行われている最中である。


「踏み込みが甘いからブレるんだよ、強く拳を振るうより先ずそれを意識して動けっ!大体、武術ってのは腕力だけで振るうもんじゃねぇんだよ。あ?オレは魔法有りきで編み出した邪道に近いスタイルだからあんまり参考にすんじゃねぇ。」


言われた通りに力一杯踏み込んで拳を振るうハジメを軽い調子でコロリと転がしながら、荒い呼吸を繰り返すハジメとは対照的に懇々と説教をかますリュウの目は活き活きとしており、実に楽しそうである。


「はいはい二人共、本番前に疲れちゃ困るからその位にして早いとこご飯食べて作戦会議に参加してねー。」


ユイに声を合図に早朝訓練は終わりを告げ、差し出された濡れタオルで身体を拭きながら、心地良い冷たさにひと息つく。


「食うのも強くなる一歩だぞ。動いたらすぐ食う、そうすりゃ身体は強くなる。」

「まだダイエット計画の途中だからリュウは口出し厳禁。ちゃんと栄養バランスを考えて作ってるからハジメも脳筋に惑わされないのっ!」

「誰が脳筋だ馬鹿野郎。」

「自覚が無い所が既に脳筋。ほらハジメ行こ。」


仲が良いのか悪いのか、ハジメ救出の際には共に行動することの多かった二人の間にある絆に少しだけ嫉妬しながら、手を引かれるままに歩き出す。


その先で待つカケル達と食事をしながら、階層主戦での行動方針を決めておき勝率を高めていく。


40階層を前にした中層部では空気中の魔力も濃い為か、魔力は既に回復しており身体の調子も悪くない。

道中で不安要素だった連携も再確認出来たし、リュウとユイに残された時間もまだ余裕がある。


「うしっ、前哨戦じゃなかなかに苦戦させられたがこうして全員無事にここまで来れた。米国支部からの依頼の達成まであと一歩だ。階層主戦はこれまで以上に激戦になるだろうが、俺たちならやれる。気引き締めいて行くぞっ!!」

「「「「「応っ!!」」」」」


鈍色の輝きを灯した聖剣を携え英雄は往く。

どんな困難が立ち塞がろうとも、その歩みを止める事なく彼らは進む。


彼らを待つのは、鬼か蛇か。

はたまた希望を喰らう絶望か。


物語は続く。

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