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「ケ・セラ・セラァアァァアっ!!」


英雄を英雄たらしめる願いの魔法。

手持ちの魔石を注ぎ込んで意識を失わない程度に抑えた、ハジメの奥義とも呼べる魔法が発動してもギリギリの戦いを強いられる。


強烈な力によって弾かれた聖剣を再度押し込もうと、その場で踏ん張るカケルから頬を伝うのは血の混じった汗が宙を舞う。


無理を通して踏ん張ったのはいいものの、そこに生まれた隙は致命的。

迫る鋭爪を紫電を纏い驚異的な反射速度で躱すが、後衛への道が通る。


「こ、なくそっ!!」


崩れた姿勢を立て直しながら駆け出すも、戦場全体を通して援護を行なっていたメグに迫るワーウルフの姿。


「ーー伏せろっ!!」


超高速の世界で振り抜かれた一蹴。

いや一閃と称してもいい程の鋭さを持ったハジメの蹴りが、ギリギリ所で防衛ラインを死守するも状況は好転しない。


先程までリュウとハジメの二人掛かりで抑えていたワーウルフが、リュウを吹き飛ばしこの戦闘を陰から支える二人に迫ろうとしている。


「ハジメっ、跳ね上げろ!雷霆で決めるっ!!」

「溜め時間はっ!?」「30秒っ!!」


口には出さなかったが、この目まぐるしく回る戦場で30秒稼ぐのは相当に困難で、安請け負い等したくはないが他に打開策も浮かばない。


「タモツ、30秒堪えてくれっ!!」

「ぅううぉおおおおおおっ!!!!」


ギリギリの状況に返事をする余裕も無いのか、タモツが抑えているワーウルフを更に押し込みながら咆哮。


「リュウサボってんじゃねぇー、とっとと戦線復帰しろや!」

「うるせぇよ、テメェこそきっちり決めねぇと拳骨程度じゃ済まさねぇからなっ!!」


だらだらと血を流しながら大地を跳ねる様にして駆ける巨漢が、ワーウルフに一撃貰いながらも掴み上げ吹き飛ばす。

更に噴き出す血を抑え、傷口に意識を向ければ既に治癒し始めた怪我に頭の上でフラフラと揺れる小さな白蛇に感謝を告げ、再び駆け出す。


雷霆発動まで22秒。


脚の筋肉がミチリッ、と嫌な音を立てる。

すぐさま戦闘開始時に付与された白蛇が治癒をしてくれる為、その場で動けなくなるわけでは無いが、このままでは厳しいことはひしひしと感じていた。


ハジメの超強化に残された時間は既に無い。

都合良く限界を超えてくれれば全て丸く収まるのだが、そこまでうまい話等無く身体の節々に不調が生じている。


「メグ、ちょっと多めに援護宜しく。」


ぎりり、と弓を引き絞る音とほぼ同時に眼前に迫るワーウルフの首スレスレを矢が通り過ぎる。


この乱戦の中でも的確に、かつ高速に援護を送る狙撃手たるメグの支援がなければ抑えきれない。


ふっ、と超強化された視界と思考が解ける。


ハジメが選んだのは破綻する事が見えている超強化を捨て、弱者なりの戦い。


ふらりと揺れる身体を捉えたかに見えたワーウルフの鋭い一撃は、陽炎を搔き消す。


大きく距離を取れば鋭い嗅覚で看破されてしまう陽炎だが、半身程度の距離を誤認させるのは可能だったようで、本物は右か左か、五割の確率でどうにか命を繋ぐ。


自分の命をチップにした危険なギャンブルを二度潜り抜けた先でようやく一呼吸。


安堵する間も無く、次の致命の一撃が振り下ろされるのをあえて更に下へと潜り込む事で射線を通す。


弾かれる様にして上がったワーウルフの姿勢は隙だらけ、そこに叩き込むのは現状の魔力ではほんの数秒しか発現出来ないハジメの火炎魔法。


-炎塊。


低く、深く、敵の懐にまで潜り込んだゼロ距離からの大質量の火炎魔法。

かつてゴブリンの要塞を壊滅させたこの魔法ですら、ワーウルフを多少焦がす程のチカラしか持たないが、生み出された質量は流石のワーウルフと言えども無視出来ない。


膨れ上がった炎はハジメとワーウルフの間で行き場を求めて荒れ狂い、爆発的な運動エネルギーを生み出す。


雷霆発動まで13秒。


上空へと吹き飛ぶワーウルフ。

地面に倒れこむハジメ。


そんな状態でも描いた先の未来を掴むために声を枯らしながら拳を握る。


自身を地面へと叩きつけた勢いそのままに、ゴム毬の様に跳ね起きれば碌ば踏み込みも無いままに解き放つ。


「「蛇纏-剛掌-」」


自身に付与されていた治癒用の魔力を時間稼ぎの為の一撃に注ぎ込む。


同じタイミングで上空へと打ち上げられたワーウルフが、身体に纏わりつく形で動きを制限する白蛇相手にもがきながらこちらのワーウルフと上空でぶつかり合う。


本家であるリュウの放った一撃に比べると、直接殴ったわけでも無しに一段も二段も落ちた様に思える一撃だったが、拘束と滞空時間の延長という部分ではしっかりと仕事をしてくれた様で、上空でもがく二体のワーウルフを一呼吸入れながら眺めていれば、煌めく閃光。


雷霆発動。


かつて、あの大鬼を呑み込んだカケルの必殺。

放出された魔力の規模で言えば、あの時よりは抑えられている様だが、それでも決着を付けるには十分すぎる程の一撃。


金の粒子を散らしながら解ける様にして姿を失くす二体のワーウルフを見届けた後、ケ・セラ・セラの発動と超強化の多用、おまけに陽炎と炎塊という魔法を使った代償にフッと意識が途切れる。


最後に思った事は、タモツ生きてるかな?という割とガチで本気な案件だった。



続く。

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