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ひとしきり茶番を終え、ギルドメンバー内の雰囲気も良くなってきたところに、棚ぼた的に見つかった39階層への境界。


ここまで来るのに約半日という、相当に無茶な行軍だったが、ユイやリュウの抱える問題やカケルの出張キャリーなどを考えれば、攻略に残された時間はそれほどに余裕があるわけでは無い。


「ここで体力と時間を節約出来たのはかなりデカい、この流れは悪く無いな。」


39階層へと踏み入れたカケルが早速、猿神の加護を通じてチカラを発動させ40階層主への道筋を指し示す。


斥候役のメグが素早く駆け出して索敵へと向かえば、戻ってくるまでの間に魔力が枯渇気味のカケルの回復を待ちつつ各々が全力疾走の疲れを癒す。


ユイが荷物から取り出した携帯食料をポリポリと口に運びながら、メグが帰ってくるのを待っていれば視界の隅でワーウルフの接近を確認する。


(境界付近はモンスターは近寄りたがらないのに真っ直ぐ向かってくるって事は、メグが釣ってきたのかな?)


そんな事を思いながら口の中の物を水で流し込み戦闘準備。


さらに接近したワーウルフを観察すれば、いくつかの細かな傷と首元に突き立った一本の矢を見て先程の考えが正解だったと確信し、体内に巡る魔力を高めていく。


高密度の魔力を高速で循環させる事で成る、普段より一段上の身体能力強化。

習得したのは鬼の呪から解放されてからの為、発動すれば他の魔法は使用出来ないし、発動時間も1分程度と未だ不完全だが、強力。


ワーウルフの強力な毛皮を焼き切る程の火力を生み出すのは、手間とコストが掛かる為に普段とは違った立ち回りをするハジメの新しいチカラ。


踏み込んだ地面が陥没するほどに強烈な踏み込みの後、一足飛びでワーウルフへと迫れば、反応し切れないワーウルフの懐に潜り込み拳を分厚い胸板へと叩き込む。


その強烈な一撃はワーウルフをその場で半回転させ、強敵の顔に泥を塗る。


加速する思考のままに地に伏せるワーウルフへと追撃を加えようと拳を握れば、研ぎ澄まされた感覚が危険を察知する。


その感覚を信じて半歩身を引けば、眼前を通り過ぎるワーウルフの鋭爪。


ヒヤリ、と背に流れる冷たい汗を理性で抑え、必殺の一撃を外し隙を見せたワーウルフの鳩尾につま先をめり込ませる。


呻き声を上げながら転がるワーウルフの先に待つのは、紫電を纏う最速の剣士。


まさしく紫電一閃。


この身体超強化された状態ですら完璧には捉え切れなかったその一振りは、メグが付けていた矢傷を起点にワーウルフに袈裟懸けの一閃を刻み込む。


流石のワーウルフも首筋からばっさりと斬られてしまえばタダでは済まない。


傷口から溢れ出す金の粒子がワーウルフの気力を、命を、存在を、その全てが流れ出す。


それでもなお、地に倒れ伏さないのは強者の意地か、貪欲なまでの破壊衝動が為す邪悪か。


「双蛇-絶掌-」


無慈悲に響く決着の一撃。


まるで風船の様に膨らみ、そして弾けたワーウルフの残滓が周囲に降り注ぐ中、軽い調子で魔石を回収するリュウの顔に浮かぶ笑みがなんともいやらしい。


「はは、良いとこ取りしてスマンな。」

「なははっ、俺の一撃で決着ついてたって。」

「まぁ俺のフォローありきって言うのが前提だけどね?」


...。


「「「あ゛ぁ!?」」」


「まだ動き出しそうなのに気抜いてるからわざわざトドメ刺してやったんだろうが、感謝しろ感謝。」


ドヤ顔で二人に迫るの巨漢がパキリ、と拳を鳴らす。


「いやいや、俺の一撃で既に勝負は決まってたし明らかなオーバーキルじゃん?むしろ魔力の無駄遣いを責めなくちゃいけない位だし?」


飄々とした態度で聖剣を肩に担いだ英雄がパチリ、と紫電を散らす。


「まぁまぁ二人とも落ち着きなって、この戦いじゃワーウルフに大きな隙を作った功績が大きいのは一目瞭然、誰がトドメを刺したとか重要じゃ無いでしょ。」


ふふん、と鼻を鳴らし悠々と歩むオタクが二人を宥めようと火に油を注げば、振り下ろされた鉄拳に仲良く撃沈し、あっという間に反省会へ。


「バカ三人は置いといて、メグどうだった?」


魔石を専用のホルダーへと収納しつつ、索敵から戻ったメグに飲み物を渡すユイ。


「ん、ありがと。ワーウルフは後二体。階層境界もそう遠くなかった、かな。」


それなりに走ったせいか、脚に溜まった疲労を揉みほぐしながら僅かばかりの休息をとるメグが索敵の報告をすれば、先程の戦闘では出番の無かったタモツが意気込みながら大盾を背負い直す。


「ほらバカ三人もいつまでも寝てないで準備しなさい、晩御飯も携帯食料にされたいの?」


人類未踏の地でありながら、どこか気の抜けた会話を繰り広げる彼らの快進撃は止まらない。


投げ出した荷物を背負い直し、攻略は進む。



続く。

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