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叩くだけの簡単なお仕事ですっ

太陽は天辺へと昇り、容赦なく照り付ける陽射しがじりじりと体温を上げてゆく。


海水浴やBBQを愛するアウトドア派の人間にとっては歓迎すべき天候だろうが、生憎とこちとらガチもんのインドア派なんだよっ!!


「はぁはぁ、くそっ、どーすりゃいいの!」


野外で活動なんて昨日ぶり、その前は三年前が俺の活動日誌なわけで、いきなりこんな状況はハード過ぎるぞコンチクショー。


事の発端は一時間前に遡る。


カケルの軽い出発の合図と共に、検証班一行はスタンピード目指して歩き始める。

先頭ではカケルとメグが索敵を務め、後方ではリュウとタモツが周囲を警戒しながら進む。

その間に挟まれる形で、現状はただの荷物持ちとして同行するハジメ。


時折、一人先行する形で隊列を離れるメグは、身のこなしからして普段から斥候役を担っているのだろう。


一キロほど歩いた頃から息が上がり始め、後方にいるリュウからは、情けねぇ、相応しくねぇ、だのと罵詈雑言が飛んでくるが相手にしない。


こうなる事は事前に分かっていたし、それを承知でカケルは来いと言ってくれたんだ。

見返してやる、今に見てろよ、と心に鬱憤を蓄積させながらカケルの背中を追いかける。


-ギャオギャオ


少し離れた場所から聞こえた声に反応し、身を隠す様に動くカケルに追従する形で、物陰にしゃがみこむ様にして姿を隠す。


「ハジメ、モンスター相手に尻込みする様なら俺がその尻蹴っ飛ばしてやるから安心しとけっ、なははっ」


少し声を抑えて激励を口にするカケルに頷きで返事を返せば、震える手をグッと握りしめる。


才能を持った実力者に援護される形で、初戦闘に挑める俺は贅沢者だ。

このチャンスを逃すわけにはいかない!


心が滾る。


子供の頃から主人公に憧れていた。

アニメで活躍する姿に羨望を抱き、日曜の朝に特撮アニメを見ては友達と成りきって遊んだ時期もあった。


歳を取る毎にアニメや特撮のヒーローを見る事は減ったが、代わりに文献-ラノベ-の中で無限に広がる空想に想いを馳せた。


自分もそんな主人公達の様になれるかもしれない。


そんな幻想を抱き、スコップを握る手には普段以上に力が篭る


その様子を見たカケルは苦笑いを溢し、ハジメから離れた位置で潜んでいたリュウはニヤニヤしながらハジメを眺めているが、肝心のハジメはそんな態度には気が付かない、気が付けなかった。


「...おしっ、気張らず逝ってこーい!!」


カケルの掛け声と共に事前に説明された通りに飛び出しメグの連れて来たモンスターと対峙する。


(初めての戦闘では気持ちを確かめる為に、一人で挑むんだっけか。やってやるさ!!)


モンスターを目の前にして先程まで妄想していたかっこいい自分は吹き飛んでいった。


本能が恐怖し対峙する事を拒絶するのだ。


醜悪な面構えのソレは、薄汚れた腰布を身に纏い、肌は深い緑色をしている。

背丈は一メートルも無い程度と小柄ではあるが、存在感と言えばいいだろうか。

見た目以上に大きく感じてしまうソレの存在に、気圧される様に一歩後ずさってしまう。


(やっばいな、画面越しでも怖かったのに直接見ると迫力が半端ねぇ!!)


ガクガクと震える手から取り落としそうになった万能武器シャベルを握り直す。


逃げ出しそうになった心を支えてくれたのは、両親を救いたいという強い思いと背後で控えるカケルの存在。


尋常じゃないほどにかいた汗が頬を伝い、滴となって地面へ滴り落ちた瞬間、ソレが動き出す。


姿勢を低く、出来る限り小さく身を屈め、震える切っ先を思いっきり突き出す。


運良く喉元に突き刺さる様に当たったシャベルの先は、そこを軸にして半回転する様な形でソレの体勢を崩してくれた。


仰向けに倒れるソレ、動揺と興奮でわけが分からなくなったハジメ。


立ち上がろうとするソレを、必死で阻止しようとするハジメ。


現代の武器や道具では殆ど傷付かない特性をもつソレに、鬼気迫る顔でシャベルを叩きつける様はモグラも真っ青な程に必死さを見せるハジメ。


立ち上がれないソレに、非力故に決定打の無いハジメの攻防は徐々に混沌と化し始めた。


-三十分経過。


既に持ち上げる事も困難なほど疲弊したハジメではあったが、多少の落ち着きを取り戻し、どうにか現状を打破しようと奮闘していた。


だが、身体能力という点において一般人の水準を大きく下回るハジメの非力さは戦いを泥沼へと変貌させる事しか出来ない。


文字通り泥沼だ。

隙を見て背負い鞄から取り出したのは、強力な接着剤である...それも工業用の大容量のそれを地面へとぶち撒けたのだ。


地面で起き上がろうと足掻くソレは、足掻く程に接着剤を身体に纏う事になり、次第に粘性を失い強力な接着性を発揮され身動きが取れなくなる。


一方で、決定打を持たないハジメも必死に足掻いてはいるが、疲弊し切った身体はただでさえ低い攻撃力を更に下げ、振り上げたシャベルは自重で生み出した威力しか出せていない。


延々と続く進展の無い攻防に終止符を打ったのは、タモツの一言だった。


「もう十分ではないか?俺はハジメを認めるよ」


その一言を皮切りに物陰から姿を現す検証班の面々だが、ハジメは周囲に目を向ける余裕が無いほどに絶賛奮闘中である。


「ん、情けないけど根性はある」

「あぁ!?まじかよ、ったくありえねー」

「なははっ、満場一致で合格って事でっ!」


必死でソレと激戦?を繰り広げるハジメの側へのしのしと威圧する様に歩き出すリュウ。


手を伸ばせば触れるほどの距離になって、ようやくリュウの接近に気が付いたハジメは困惑するも手を緩める事なくソレを叩き続ける。


どけっ、と押し退けられ更に困惑する中、鬼が吼えた。


「オラァァぁぁああああぁぁ」


ぐしゃりと凹むソレの顔面を怒涛の連撃によってあっさりと押し潰した。


その威力に口をあんぐりと開いていれば、後ろから軽く肩を叩かれ振り返る。


「なははっ、ないすふぁいとじゃんハジメっ!」

「ん、根性だけは一丁前。」


掛けられる労いの言葉にようやく肩の力を抜いて、どうにか終えた初戦闘にため息を吐く。


「早いとこ対策見つけないと身体が持たないや、レベルアップしてもあんなパンチ出せそうにないし...魔法使いたいなぁ」


そんな言葉に苦笑いしながら、期待してるぜっ、と突き出された握り拳に、同じ様に苦笑いを浮かべ握り拳をぶつける。


その際にわずかに発光する拳を見て、テンションは急上昇。


「レベルアップ、キタァぁあぁああああ!!」


呆れ顔の検証班に小突かれながら、一行は一度拠点へと戻るのであった。


ニートのダンジョン攻略記、念願のレベルアップを経たハジメは、魔法の発現へ辿り着けるのか!

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