第七話 王様は十人十色、今夜はどんなに悲惨な罰ゲームが飛び出すか
「フラッペくんよ、ぼかぁ考えてみたんだがね。ここはいっそユナの言う作戦でいってみようと思うんだよ」
ふんぞり返ってたっぷり自信を取り戻した俺は、散々しし鍋を堪能したあとで自分のテントに帰ってきてから、フラッペと会合を持った。
俺としたことがすっかり取り乱してしまったが、もう充電は完了。
ブーストゲージフルチャージでぶっ飛ばすぜ、チェキラ。
「……うんまあええけど。それで具体的にはどういう作戦でいくんや?」
「合コンだよ」
「合コン? あんたの口からそんな言葉が出てくるとは思いもよらんかったな。一生縁がないどころか憎悪の的やろ。そんなもんに出る女なんか絶対嫌ってそうやけど」
「確かにそんな前世もありました。だーが、今の俺は合コンでお持ち帰りだってできる、超々々イケメン」
そうなのだ、そんな簡単な事実を、お前のおかげですっかり忘れるところだったぜ。
これからの俺は攻めの姿勢でいく。それでだな……
「ふんふん?……ええ、そんなあほな」
「まだなんも言ってねえよ。だからだな……で、こうして……」
「うーん……大丈夫なんか、それ。あんたにそんな器用な真似できるとは思えんけどなあ」
俺たちは夜が更けるまでとっぷりと作戦を話し合った。
最後までフラッペの懐疑的な視線は消えなかったが、だが俺は自信たっぷりに毛布にくるまった。
見ていろよ、悪徳転生者め。俺が正義の天誅を下してくれるわ、わーっはっはっ。
そして次の日の朝、まとわりつくリオン(仄かに血の匂い)を振り切って、俺はまずユナの元へと駆けつけた。
「あ、こりゃユナ先輩。あっしでございます、昨夜の英雄ティクシーでやんすよ」
「……これからはそのキャラでいくの。なに?」
「ちょいと相談がありまして。ご褒美と言うわけじゃあないですが、今夜一つユナ先生のお力で宴席を設けてやっちゃあくれませんでしょうか、はい」
少々悔しいが、すっかり逃げ腰が身についた俺は、揉み手でユナにへこへこ頭を下げた。
「宴席?」
「はい、参加メンバーはあっしとユナ先輩、ヒロ、エンダ、そして装甲兵の女の子だけ……いやいやお三方で。リオンのやつに異国の手料理を振る舞わせますんで、初戦闘を無事怪我人を出さずに勝利した、ええほんとに内輪だけのお祝いということで一つ」
「いいけど」
「いや別によこしまな欲望などありません、合コン気分で女の子口説いちゃおうとかそういう……ええ、お許しいただけなさる? そりゃあよござんした」
「合コンてなに?」
じとーっとした目つきで見られると、心の奥底をえぐり抜かれているようで辛いのは何故だろう。
あんなに嫌いだったのに、何故か今はちょっとだけユナが可愛く見えて、そのユナを裏切るのが少しだけ辛い。
これって恋? なわけはないよな。
というか俺はいつまでこいつにへりくだって、丁稚奉公ごっこをしているんだろう。
もしかしたら前世に一瞬逆戻りしたおかげで、脳の回路がおかしくなってしまったのかも知れない。
「気持ち悪い」
黙っているとユナにはっきりそう言われてちょっとムっとしてしまったが、なんといっても大人な俺は動じない。
そう、俺には余裕たっぷりの成功すればあ、くうと子供だって言っちゃう大作戦がある。
合コンなんて行ったこともやったことも嗅いだこともないが、どうせこの世界ではみんな初心者なんだから、少しくらい失敗したところで誰も気づきはしないのだ。
そう、これこそが我が奸計。そして最後の落とし穴だ。
さあ、待ってろよ極悪犯人、俺がきっちりはめてやるからな。
俺はそそくさと前かがみのまま尻を振りながら後退してユナの元を去ると、まずリオンのところに行って、昨日の残りの食材で料理を作るように、ユナの名前を使って命令した。
リオンは大張り切りでまた肉をさばけると片腕を振り回していたが、周囲の同僚たちは正直ちょっと引いていた。
あいつの猟奇趣味は、現代なら確実に規制が入る領域であろう。
次に俺はヒロのところに行った。
「と、いうわけで、ヒロには盛り上げ役を務めて欲しい。それからこれこれ、こういう細い棒の頭に数字を書いたものを用意しておいて欲しい」
「うんわかったよ。でもなんに使うの? そんな変な道具」
「それはだな……」
「へえ、そんな遊びがあるんだ。初めて聞いたけど、どこの遊び? それ」
「リオンの故郷、結界の外の町に古くから伝わる伝統の遊びらしい。俺も最近リオンのばっちゃんに聞いたんだ」
「さすがレジーさんは物知りだね」
レジーさんとはリオンを育てたばっちゃんの名前だが、どうせもういい歳で俺のハーレム計画には関係しないので、細かいことはどうでもよかろう。
ようはこの情報が、ヒロ経由でリオンから伝わったことにしておけばそれでいい。
直接俺からソースが出たことが知れれば、こちらが転生体であることに勘づかれてしまうかも知れないから、カモフラージュに使わせてもらうということだ。
俺はそこを物わかりがよさそうで、実はちっともよくないヒロに言い含めておいた。
さて、これで準備は整った。あとは夜を待つだけだ。
俺は自分のテントに帰るとごろりと横になって、片膝を立てながら余裕の表情で昼寝を始めた。
「ほんまにそれで大丈夫なんかいな……知らんで、また失敗しても」
「どの口がそんなことを言うかな、正しい情報なに一つおろさなかった無能のカトンボが。まあ天才のこの俺に任せておけば、もはや事件は解決したも同然よ。お前ものんびり午睡を楽しんでおけ。俺って博識、こんな難しい言葉もさらりと出ちゃうんだぜ」
「午睡ちゅうよりこすいおっさんにしか見えんがなあ」
「こいつぅ」
高笑いしながら、俺はフラッペのふくよかなぱいぱいをつっついてやろうとしたが、その指は華麗にかわされた。
まあよかろう。
今の俺はノリノリだぜ。
ほんとはなにも考えてないけどなっ。
「あかん、この根拠のない自信は絶対なんも考えてへんけど、行き当たりばったりでどうにかなるわいう顔や」
その通りだよ、ふんっ。
その夜、小さな木箱のテーブルを囲んで、ささやかな宴が催された。
果実を絞って作られた、アルコールに似た刺激性の強い飲料ヴァジュルーヌの壺が特別に出され、テーブルの中央に置かれている。
これはわかりやすく言えばフェイアリンのようなものだ。と言ってもさっぱりわかるまい、ようするにコーラとコーヒーのいいとこどり飲料だと思っていただきたい。炭酸は入っていないがな。
もちろんこの果実も貴重品で、本国でも中々口にできない。
今回特別にユナの厚意で、新品の封が切られることとなった。
そしてリオンの用意したしし肉料理の大皿が並べられる。
「なあリオン、これはなんだ?」
「それ、お肉のりんごパイ。ご馳走を用意しろって言うから、はりきってありもので一品でっちあげたよ」
はぁ!? でっちあげるの方向間違えすぎだろう!
俺はつい立ち上がって、リオンのぷるるんお胸のそばまで指を伸ばしてつっこんでいた。いや指をつっこんだわけではない。危ない危ない。言葉一つでえらい違いだ。
「ま、まあまあタカシ。えーそれでは、本日はぼくたちの初勝利を祝って、ささやかな打ち上げを催したいと思います。ではまずキャラバン隊隊長、ユナさんから開会のお言葉を」
それ人選思い切り間違えてんだろ。
案の定
「……はい」
などと無表情で言うものだから、周囲がかくんと古典的にひじを折ってしまった。
「それでは続きまして、自己紹介を……」
「みんな顔見知りなのに、改めて自己紹介するの? おばちゃん変な気分だなあ」
早速エンダのツッコミが横合いから入った。
ちなみに席順は末席にヒロが座り、俺が上座。
右横に俺のほうからユナ、エンダ、リオンが座り、対面に装甲兵の三人、俺のそばからマリミ、その隣に実は顔を見るのは初めてな男と、これも新顔のちょっと可愛い女の子が腰かけていた。
この席順はなにかおかしいって?
上座下座のルールはこの世界にはないから、問題はないのだ。俺がヒロにそう着席させるように指示しておいた。
本当は両端に女の子を配して、肩なんか抱きながら騒ぐのが理想ではあるが、今回はハーレムが目的ではないから、このほうが都合がいい。
「うまいこと言うて逃げてるだけやん」(タカシ裏声)
とかフラッペが言いそうだが、それは徹底無視である。
「ま、ここは一つよりよい人間関係のためということで。まずは一番、今回の大殊勲賞、最強無敗のゴッドスレイヤー、白の智天使、身長百七十八セート、甘いマスクの貴公子……」
「ユナです」
俺の名乗りを無視して、いきなりユナが割って入ってきた。いやユナさん、俺の自己紹介がですね。
しかし周囲はユナが名乗ると、わーと拍手する。
そして総合司会(俺任命)のヒロが、さりげなくエンダのほうに振ったので
「いやーおばちゃん照れるなー。えーとエンダですよろしく」
などとガラにもなく照れながら自己紹介が始まったので、俺は大人しく着席し直した。
「白はセラフィムやろ。ケルヴィムは黒やで、大体あんたのそれはプロレスラーかボクサーの名乗りや。シシリーの種馬もいれといたらどうや。いっこも種馬なってへんけどな」
ちなみにセートとは、ほぼセンチメートルと同じ、この世界の単位である。
くく、俺は人知れず血の涙を流していた。
この女ども、血も涙もねえ。お前らの血はなにいろだ。もう緑の液体でもいれとけよ。フラッペも含めてな。
挨拶はリオン、ヒロと続いて、俺が見たことがない女の子に移った。
そういやリオン、お前しれっと混ざってるけどいいのか。周囲がなにも言わないからいいけど、お前は今回の祝宴には関係ないし呼ばれてないんだぞ。
口にすると総攻撃を受けそうだから黙っておく俺は利口だ。世渡り上手だ。
「卑屈根性染みついてるだけやろ……」
ええい、さっきからうるさいうるさい。
大体お前、こんなところに出てきて平気なのかよ。
「姿はちゃんと隠しとるで。見えとるんは波長を合わせとるタカちゃんだけや」
今さらご都合主義だなおい。そんなことができるなら最初からしておけよ。
「どうしたんだいにーちゃん、なんかいるの?」
「ちょっとうるさい虫がね」
「誰が虫やねん」
ゲシッと俺の頬にフラッペのぶっとい足が食い込んだ。ひたい……。
「よろしく、マリミンです」
「私はオノノよん」
「あ、マリミアートです、よろしくー」
ん?
「今なんかおかしくなかったか?」
「なにが?」
全員の視線が俺を向く。
代表してユナが口を開くも、そのあと言葉が続かずに、一瞬しんと周囲の空気が静まる。
「いや、さっき……」
「あらん、私のことが気になるの? 私は……」
「いや黙れ生物。そうじゃなくて、今マリミが二人いなかったか?」
俺は中央のごっつい兄ちゃんのことをしっしと追い払うと、美少女二人に視線を向けた。
失礼しちゃうわね、とか言っているが、多分このあともこのおっさんは特に本筋と関係する可能性は皆無なので、ここでは心理的枠外に置いておこう。
俺はそこだけ心の中でブラックアウト処理をしておくことにした。うんもう見えない。
「タカシ知らなかったの? こっちがマリミちゃんで……」
「ども」
リオンが紹介すると、俺の知っている水辺でエロエロアタックを繰り出してきた打算的少女、マリミが相変わらずの爆裂胸をぷるんと揺らして会釈した。
体はいい、体はいいんだがなあこの娘。
しかし童貞に積極的な女の子は過ぎた毒なのじゃよ、わかっておくれ、世の淑女たちよ。
押すのは好きでも、押されて動揺しない童貞はいないのじゃ。
なんにしてもこの娘は本当に苦手だ。
それはともかく、
「こっちもマリミちゃんだよ」
「はーい」
とさらに紹介されるのは、遠くにいるほうの女の子である。
しかし装甲兵というのは、何故こうも薄着なのか。みんなリオンに負けず劣らずの肌着姿である。
現代社会で言えばキャミでうろうろしている女の子とよく似ている。
本来は下着なはずのキャミソールで外をうろうろなんて、痴女と変わらないからお父さんやめなさいって何度も言っているんですけど、何故か誰も聞いちゃくれないんで本当に困っています。
見ているほうもそれで嬉しいという感情は全然なく、むしろ破廉恥、恥ずかしい、○○○○、○o○、そんな感じです、はい。
※ タカシくんはファッションとは無縁のおっさんなので、普通の服としてデザインも替えてアウターとして広まったキャミソールのことは知らないんですね。
間違った知識をそのまま転生して異世界に持ち込んでしまいましたが、そこはお話ということでご了承ください。
「いやそれ全然説明になってないぞ」
「貴方のそばにいるのがマリミアートで、奥にいる娘はマリミン。偶然だけど、どちらも愛称はマリミ」
ユナがぼそっと言うもんで、俺はさらに困惑して二人の顔を見比べた。
俺が元々知っているマリミアートマリミと目が合うと、彼女の瞳の奥がきらんと光って、まるで俺を餌のように見る、あの狡猾な視線が絡みついてきた。
それから無理矢理逃れて視線を外し、今度はもう一人のマリミンマリミを見ると、彼女はあどけない瞳で俺を見つめる。
色素が薄いわりに朱の混じった、つまり桃色に近い髪をツインテールにしていて、いかにも逢いたくなる人懐っこい顔つきである。
「それマリリンやろ、犬にしてどうすんねん」
なんかもう、御しきれそうにない暴走エロ娘より、この娘のほうがいいんじゃないだろうか。
お兄ちゃんとか言って懐いてくれそうだし。
「あほ、見かけで判断すんなや。鼻の下伸ばして隙見せたら終わりやで」
やだいやだい、この娘のほうが絶対純朴そうだもん。
「あかん……ここであの時のショックが蘇ってくるんか、この男は。童貞はしつこいなほんまに」
うるせー、お前だってどうせ俺のことはなから馬鹿にする女と一緒じゃないか。
「せやけどこの中に一人、そのあんたを散々馬鹿にしてきた女の転生体がおるんやで」
俺は改めて全員の顔を見比べながら、背中にいやな汗をかいていた。
いやだ、年増はいやだぁ。
「せやな。自分のハーレム守るためにも、異物は消毒して排除しとこ。ええな?」
「はい……」
「どうしたのにーちゃん? はいって?」
「いやなんでもない。それじゃヒロ、進めて」
「う、うん……それじゃ全員の自己紹介も終わりましたので、ここでまずは乾杯の音頭をキャラバンの代表、ユナ隊長にとっていただきたいと思います。では皆さんグラスをお手にどうぞ」
うむ、宴会なんぞ全くやったことも誘われたこともないが、とりあえず俺の指示通り、親父くささ全開でヒロが幹事となって進行してくれている。
さてこの違和感に気づく人間はこの中にいるだろうか。
俺は特に二人のマリミを中心に徹底的にリサーチをかけてみたが、どうもこの二人は反応が薄い。
真ん中のおっさんは相変わらず意図的に無視するのは、俺の優しさだ。
一応言っておくと、このおっさんも装甲兵らしくやたらと薄着だが、そう言われて喜ぶ人間は万に一人もいないだろう。
全員がグラスを手に取る。飲み物がひんやりと冷えているのは、ユナが直前に熱を奪うグロウンを使っているからだろう。
グロウンの力は冷蔵庫にもなるんだぜ。
しかしユナの冷血鬼畜ぶりは、少しくらい温めておいて欲しいもんだが。
「では、乾杯」
らしいと言えばらしい、やけにあっさりした挨拶とともに、全員がグラスを合わせる。
もちろんグラスといっても割れ物ではないので、ぶつかっても硬質な音がするだけである。
さすがに旅をするのに、すぐ割れるガラス製品を持ってくる奴はいない。
全員がグラスを傾けると、アルコールとは違う、ツンとした刺激を受ける飲み物を口に含む。
おのおのがリオン謹製の食事に手を伸ばし、食事が始まる。
歓談のフリータイムである。
しかし今さらながらに席順で失敗したことを思い知る。
右を向けばユナである。しかし彼女は肉を手に取り、小柄な体には不似合いな食いっぷりで、黙々と食事をしている。
それでなくてもこの娘と会話など楽しめるはずはない。
だからといって迂闊に首を左に向けようものなら、女毒サソリがにたりと笑いながら俺に迫ってくるので、これもまずい。
救いを求めてさらに遠くに視線を向けても、
「どうしたんだいにーちゃん、アメ食べるかい?」
と頼りにならないエンダ。なんで食事中にアメが必要なのか、せめて食後にしてくれよ。
そして左には転回せずにそのままリオンのほうを向いても、これは遠すぎる。ヒロもだ。
そして一番可愛い今回の狙い目新人娘であるマリミンは、一番遠いところにいる。
しかもよく考えたらマリミン、左右を男に挟まれているじゃないか。こんなに可憐で大人しいマリミンが、俺ではない野郎に囲まれているのはどうにも納得いかない。
「あんた合コンで席順にやたらこだわって、みんなからうざがられそうやなあ……」
そんな奴いるのか?
行ったことないからわかんねーよ。
俺はなんとかヒロに目配せをして合図を送ったが、それを見たヒロはなにを勘違いしたのか、いきなり起立した。
「えーでは宴もたけなわとなってまいりましたが、ここでみなさんと交流を深めるために一つゲームに興じてみたいと思います」
おほんと咳払い一つ間を置くヒロに、周囲がちょっとおざなりな拍手をする。
「えっと、ではまいりましょう。ひとめあったその日から、見事かぐや姫を射止めることもあるでしかし。恋する誰かと恋する誰かの、仲を取り持つ大だいダイDAI、王様ゲーム!」
俺が教えた通りのセリフである。ややとちっているのと、大分照れが入っているのはご愛嬌ということで許そう。
「どうでもええけど宴もたけなわの使い方まちごうとるで。やっぱあんたと宴会は縁遠すぎるみたいやな」
この際細かいことはいいんだよ、どうせこの世界の人間だってわからないことだらけなんだから。この妖怪ツッコミ羽女め。
俺はさっとまた周囲を見渡して、ほかのメンバーの顔色をうかがう。
もちろんこの世界にこんなゲームはない。
知っているのは俺と、もう一人の転生体だけだ。そして転生体なら、この誘いに必ず反応を示すはずだ。
まずユナ、無表情全く動じず、問題外。
次にマリミアート。胸がぷるんぷるんな以外動きなし。
カマ男はスルーしてエンダ、なにやら嬉しそうだ。こいつの反応はよくわからん。だが違和感はない。
リオン、普通。
そしてマリミンは、どうやら頭の上にクエスチョンマークを浮かべているようだ。
ここでヒロのゲーム解説が入る。
ようするに王様ゲームのことである。
「……というルールになってます。ではみなさん、順番にくじを引いてください」
全員よくわかっていないのか、首を傾げながら考えている。それでもくじを引き終わると、自分の番号を確認する。
俺は六番だ。
「ではみなさんご唱和をお願いします。さんはい」
「王様だーれだ」
全員の声が一つになる。しかしやたらでかく一人だけ声が通っているのは、やっぱりというかリオンの声である。
……
おい、王様誰だよ。
たっぷり間を置いてから、ユナがこそっと木の棒のくじを上げた。そこには王冠を示すマーク。
じゃあ名乗れと言いたい気持ちをぐっと堪えて、またヒロに合図を送る。
「はい、ではユナ隊長が王様ですので、何番が何番にという感じで命令をお願いします」
「……一番が六番に本気でビンタ」
おいっ!
「はいはーい、一番だよ。六番だーれだ」
俺だぁ。よりにもよってリオンかよ。この中では一番加減を知らん女じゃないか。
まるで足を動かさず、テレポートでもするように俺のそばに素早く近寄ってきたリオンは、もちろんなんの遠慮もなくそのバネのよく効いた腕で、思い切り俺様の高貴な頬をビンタしてくれた。
くそっ、昔の劇画だったら唾と一緒に歯が折れて吹っ飛ぶ威力だぞ。少しは手加減しろこの怪力女め。
しかし威勢よく派手な打撃音がしたにも関わらず、誰一人俺に心配そうな視線を向けるでもなく、ほかのメンツは棒をヒロに返していて俺を見てすらいない。
ちくしょう、なんて友達甲斐のない奴ばっかりなんだ。王様ゲームなんて友情破壊の権化でしかない。
痛む頬をさすりながら、そんなことを考えている間に、もう二巡目は終わっていて、俺の前に最後の棒きれが回ってきた。
今度は三番かよ。頼むぜ。
「ではごいっしょに、はい、王様だーれだ」
「はい」
おぅい! またユナかよ。王様ゲームってのは王様がいろいろかわるから面白いんじゃないのか。
「二番が三番にタイナフ」
また俺か!
ちなみにタイナフというのは、ようするにしっぺのことだ。
「あらん、二番は私よ。色男さんよろしくね」
気持ち悪いしなをつくって、オカマのおっさんがそばに寄ってくる。
そばにくると、なんかちょっといい匂いなのがまたむかつくぞこいつ。
ぺしっと打たれたしっぺは腕力のわりに大したことはなかったが、手を押さえるためにしっかり握られたところが異様に熱いぜ。勘弁してくれ。
「王様だーれだ」
「あ、やっと回ってきたよおばちゃんの番だ。じゃあ四番が二番にキス。場所はどこでもいいよ」
「四番あたし」
「二番は私だよー」
「じゃあ……はい」
四番になったマリミンマリミが、リオンの額に軽くキスをすると、ひゅーと声が飛んだ。
飛ばしたのは大体想像はつくだろうが、マリミアートマリミとエンダだ。
本人じゃなければリオンも騒いでいただろう。というかそのリオンは何故か照れている。そんなキャラじゃないだろお前。
「王様だーれだ」
「五番が六番にぐーぱんち。手加減なしで」
「またユナかよ、しかも六番俺だし、何度もダメージ系とか勘弁してくれ」
「ごめんタカシ。なるべく手加減なしで加減するよ」
「意味わかんねーよ、ぐへっ」
「王様だーれだ」
「二番が一番に膝枕」
「二番はぼくだよ」
「一番は私だねえ、じゃあにーちゃんちょいとお邪魔するよ」
「はい、どうぞ」
いいじゃねえかヒロ。おいしいところ持っていきやがって。
「王様だーれだ」
お……やっと俺に王様が回ってきたようだ。
王冠マークのついた棒を振り上げて、巻き舌気味で俺は叫んでいた。
「俺だぁぁぁ!」
「はいじゃあタカシ。なにを命令するのかな」
……あれ、どうしよ。
やっと王様になれたのに、俺の中にはなんの発想も思い浮かばない。
仮に二番が三番にキスなんて命令をしても、俺はただ見ているだけだ。
下手を打てばヒロやカマ男と、俺の女たちがいちゃつく姿を見させられてしまうことにもなる。それだけは絶対許さん。
そういえばこれって、王様にキスしろとか、そんな命令もできたんだっけ?
しかしそこでも七分の二の確率で自爆してしまう可能性がある。
せめてカマ男さえ、カマ男さえいなければ、まだ俺のハーレムは守られたまま、超がつく過激でエッチな命令もどんどん出せたというのに。
「ヒロくんはええんか……あっ」
うるさいぞ腐れ女め。にやにや笑いすんな。
思った以上に夢が広がらなかったことにがっかりする俺。焦れて命令を待っている周囲の期待の視線が痛すぎるぅ。
「あ……七番が王様と三十秒手を繋ぐ」
それでも俺はお色気展開を期待して、リボルバーが弾を発射しないように祈りながら、かつ暴発した場合もダメージが少ない命令を下した。
来いよ、ラッキーセブン。
「はい」
そう言って棒を上げたのは、なんとユナだった。
最悪の展開は避けられたものの、なんとも微妙なキャスティングだなあ、これは。
仕方なくといった感じで伸びてきたユナの手を、俺はそっと握る。
それはやはり小さすぎて、俺の手にすっぽりと収まるくらいしかない。
なんだか微妙な空気の中で、三十秒間だけそのまま空中で手を止める俺たち。
その背後では、若いカップルを見て嬉しそうに頷いているエンダの老人みたいな顔が見えた。
暖かく祝福されてもあんまり嬉しくないんだが……。
そして俺たちは特別カウントしたわけでもないタイミングで、どちらからともなく指を離して、静かに命令を終えた。
なんだ、この重苦しい空気は。
これも恋なのか、いや全然違うだろ。
「ヒロ、次いこうか」
「うん、それじゃ続けましょう」
粛々と進行を再開するヒロ。
「照れんでもええがな」
「照れてねーよ!」
思わず声を出してフラッペに反論してしまった俺に、周囲の視線が集まる。そう、フラッペの声は俺にしか聞こえていないわけで。
いまいち機嫌が悪そうなリオンに、嬉しそうに口元を押さえて笑っているエンダ、あらあらとカマ男も笑い、指を咥えて自分もと物欲しげなマリミアート。特に感想もなさそうなマリミン。
誰か俺を思い切り殴って、記憶を飛ばしてくれ。
その後の視線に耐えられず、俺は頭をがっくりと垂れた。
「王様だーれだ」
「あらん、私よん」
うるさい汚物さっさと命令しろ、と口に出かかっていた言葉をなんとか止めた。
不意にまたブラックアウトしていたはずの部分がクローズアップされて、あのカマ男の顔が滲み出てくる。
もう出てこなくていいのに、ちょいちょい出てきやがるな。
「○○トラ○ンのオープニングかいな」
待て、その伏せ字はちょっとおかしいぞ。
「それじゃ三番が四番の服を脱がせるっていうのはどうかしら?」
「えー」
周囲のブーイングに近い困惑の声とともに、四番の札を上げたのはマリミンマリミだった。
……そして三番の棒を持っているのは、
俺だぁぁぁぁっ!




