表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

第五話 なにを狙っているんでしょうか、さぁみんなで考えよう

 かなり酷い目にあいはしたが、これで大本命であり最難関でもあったユナが候補から外れてしまったのは、幸運と言っていいだろう。

残るはエンダとリオンのみ。

だが俺の感触では、十中八九リオンはない。

あいつとのつきあいはとにかく長い。ずっと一緒にいてその片鱗さえつかめなかった彼女が、まさか俺と同じ転生体なんてことはあり得ない。

万が一そうだとしても、あいつなら出し抜くのはわけもない。

「それは甘いんちゃうか? それでのうてもあんたをずっと騙すのなんかわけないのに、今まで完璧に偽装してきてんで。それどころかあんたの天才ぶりずっと見てきてんから、逆に手の内知られ尽くしてんちゃうか」

む……だとしたら、どうしろというのか。

「まあ相手が舐めてかかってるうちに、はよ押し倒してまうんやなー。それしか方法ないやろ」

う、うーん……。


まあ確かに、リオンは押し倒したくなるくらい可愛いことは可愛い。

しかしその可愛いは、どうも触れてはいけない、遠くから愛でる可愛さでもあるんだよなあ。

踊り子さんと小さいお子さんには、手を触れてはいけない気持ちのほうが強い。

うかつに触ると、巻き込まれて事故になってしまう。

「なんやねんそれ、大人も子供もあかんのやったら、誰に手出すちゅうねん。まあそばにこんな魅力的なレディがおるから、よそに女作る気ないいうんやったらわからんでもないけど。けどうちに惚れてもええことないで?」

何故か自分の体を手で隠すような仕草を見せるこの暴力女……頼まれたってお前には惚れてやらんぞ。


 さて、ではどのタイミングで攻めるべきか。

しかし思ったよりも早く、その勝負のチャンスは訪れた。

「おはよータカシー。もうすぐ出発だよー。テント畳むよー」

元気よく部屋に乱入してきたリオンは、以前たしなめられたことなどもう完全に忘れた様子で、俺が腰を上げるよりも早くテントの片づけを始めていた。

てきぱきと簡易型のシートを外していく姿は、健康的な美に溢れている。

胸を大きく覆って隠す上衣から、雫のようにこぼれそうな柔らかい膨らみ、そしてその下は腰のあたりまで素肌が丸出しになっていて、褐色の背中が薄布の淡い色調とコントラストを生んでいる。

長く下方に伸びるスカート風の衣装からは、絶えず生のちょっと太めの足が剥き出しになっている。

男たちを魅了する健康的な素足が……


なんだ、簡単じゃん。


「リオン、背中にごみついてるぞ」

俺はなんでこんな簡単なことに気づかなかったのか、という顔をしながら、すいっと極自然に手を伸ばしていた。

え? と反応しながら首を後ろに向けるリオンの体がしなる。

本当にこいつの体は頑丈かつ柔らかである。

触り心地も決して悪くはない。これだけ肌を露出して、あれこれ飛び回っている割に、肌が硬くてごわごわしているなんてこともないから面白い。

俺はつい、と指先を触れさせると、親指と人差し指でふわんと肉をつまんでやった。もちろん軽くだ。

「ひゃんっ」

変な声を上げて跳び上がるリオンが、少し恨めしそうに俺を見た。

背中は俺から隠れてしまったが、めざとくフラッペがふわふわとそちらに飛んでいくので、問題はない。

「変なところさわっちゃだめだぞー、えっちな子は嫌われるよ」

「ははは、すまんすまん。綺麗だったからつい」

俺は適当に言いながらフラッペの様子を眺めたが、あかんと言いたげな顔で、首を横に振るのが見えて、がっかりしたと同時に、やっぱりなと納得もしていた。

そのおかげで、目の前のリオンの瞳がハートマークになっていることには気づかなかった。

なんとももったいないスルーをしたものだが、まあそれは本題ではないのでいいだろう。どうせリオンが俺に惚れていることはもうわかっているのだから。


「さて、ということはもうエンダで決まりだな」

「せやなあ、どやって攻める? 今度こそ押し倒すか?」

俺が瞬時怯む様子を見せると、フラッペはケタケタと笑い出す。コイツは俺をからかって遊んでいるに違いない。



 キャラバンは宿営を終え、荷物をまとめて既に先頭集団から順番に出発していた。

昨夜は嵐だったためかなり砂埃にやられたが、それもユナの対処で直接的な被害はなかった。

その代わりユナのせいで俺は嵐以上に酷いことになってはいたが……。

それはともかく、次の目的地に印を置いたらやっとこの旅も終わり、無事聖都へ帰ることができれば、魔法師団入団のための研修は終わりである。

馬に似た動物、いやらくだと言ったほうが近いかも知れないオンローンに引かれたほろつきの車が、数台ぞろぞろと群れを作る。


 俺はオンローンに一人で乗り、部隊の後尾をゆったりとした速度で進んでいた。

オンローンに慣れて、一人で乗りこなせるようになるのも、入団する者の義務の一つである。

先を行くオンローン車、ようするに馬車には、即時に解体が可能なテントを初めとする各種野営装備、そして先に収穫した食糧、水などが所狭しと積まれていて、人間の占める割合よりも遙かに容積を取っていた。

一台だけ異常なくらいに車体が沈んでいるのは、装甲兵団の重装甲鎧を積み込んでいるせいだ。

今回装甲兵は三名しか隊に参加していないが、あの装備は本当に重い。

もし夜盗が現れて戦いになったとしても、展開する暇などあるはずもない。

まあそもそも、こんなところに夜盗などいるはずもないのだが。

ここで夜盗などしても、ヤ○チャ一味よりも稼ぎが少ないことは間違いない。

しかも姿を見せるキャラバンは魔法師団のエリート候補生だ。こんな割に合わない商売もないだろう。



 不意に俺のオンローンのそばに、一頭のオンローンが寄ってきた。

騎乗しているのはエンダだ。

「にーちゃんにーちゃん。なんだか空気が湿っているような気がしない?」

ん、空気が? そういえば、砂漠にしては随分と空気が澄んでいるような気がしないでもない。

「どうも鼻先がひくひくするんだ。おばちゃんの気のせいかと思ったけど」

誰がおばちゃんか。

そのにーちゃんってのもやめてくれよ。同い年だろうに。

「いやつい若さが足りなくて……年食うとすぐ疲れるようになるし。にーちゃんもおばちゃんみたいなんより、若い子のほうがいいんでしょ」

だからほぼ同い年だっての。

このどこからボキャブラリーを得たのかよくわからない、関西のおばちゃんが標準語になったみたいな女がエンダである。

キャラとして作っているにしてはやけに自然だが、それほど達観しているわけでもなく、たまーに年頃の女の子らしさも出ることは出るところが、変な人気になってもいるらしい。



 ……それが全て、自分の精神年齢を偽るための偽装工作だとしたら?

ない話とは言えない。というか現時点で、彼女以外に候補はもう残っていないのだ。

やはりここは疑ってかかってみるべきだろう。

となれば、迂闊に切り込むのは得策とは言えない。彼女がこちらの手を読んで行動していないという保証は、どこにもないのだから。

しかしこの若々しい肌、つやつやの顔の中身が、俺と同じ本物のおばちゃんだとしたら……。

うーん、それはそれでありなのか?

中身はともかく外見は若い女なわけだし。むしろ共通の話題、ジェネレーション的な問題はないのかも知れない。

なにをそんなにこだわる必要があるのか、俺にもわからなくなってきた。

おかげでひゅんひゅんと空を舞うつぶてに気づかなかった俺は、一人惚けて対応が遅れてしまう。


「なんだ、あれは!」

オンローン車の先頭を走っていたキャラバン隊隊員の声が上がる。

馬車が軋む音とオンローンのいななきが、他に騒音を奏でるものがない場所で響く。続けて馬車が足を止めていく。

俺は自然と鈍足の装甲兵団の馬車を通り越して、前に出ていた。

「あれは一体……?」

すぐそばにぴったりとついてきたエンダが声を上げる方向には、俺たち以外に立てるものがいないはずの砂埃がもうもうと上がり、なにかがこちらに一直線に近づいてくるのが見えた。


「全員戦闘態勢! 装甲兵は用意できるもののみ装甲を着けよ、非戦闘員はマニュアルに従い後方に下がれ!」

普段からは想像もできないほどに厳しく声を張り上げるユナの、凛とした命令が飛んだ時も、俺はそれを半分も聞いていなかった。

「あれは本気でやばそうやで……どうやら本物の敵さんがおいでなすったみたいやわ」

耳元で聞こえる羽音を掻き消すような真剣な声音が、俺に急を告げていた。



「タカシ! がんばってね」

いつになく真剣なリオンの声が遠ざかる。鈍重で邪魔な装甲入りの馬車を残して、非戦闘員の乗った馬車と邪魔なオンローンは後方に下がっていく。

俺は馬から降りると、それを迎えに来た馬丁兵に渡して、ざらついた地面の感触を踏みしめていた。

周囲に続々と魔法士の面々が集まってくる。といっても今回の参加メンバーで戦闘に耐えられるのはグロウラーだけなので、メンツはいつもと同じだ。

装甲鎧の詰まった馬車を盾にする形でこちらに向かってくる何者かに身構えるが、その正体はかなりの距離に近づいても、高く舞い上がる砂埃に隠れて、まともに視認することができない。

「一体あれはなんなんだろう。こんな場所に一体なにが……」

不安そうに呟くヒロは、それでも慌てて術書を開いて、最後のチェックを始めた。

エンダもユナも、言葉もなくそちらを凝視している。

俺も唇を引き締めてそこに立ち尽くしていたが、それは敵に備えるためではなく、フラッペの奴の言葉を聞いていたからだ。

「どうやら敵さん、うちとあんたらのことが邪魔らしいで。怪しいと睨んだ途端にこれや。もう既にはめられとったんやな」

その敵ってのは一体なんなんだよ。

俺は他人に聞かれないよう、できるかぎりの小声で喋る。

「……詳しくは言われへんけど、敵の目的は転生体による世界の混乱と破壊や。そして、そういう勢力を抑えて倒すんがうちらの使命や。あんたは邪で嫌な奴やけど、世界の破滅までは望んでないやろ? せやからうちもパートナーとしてあんたを選んだんや。ここはなんとか切り抜けてや」


どうも想像を越えた展開になってきたようだが、俺は不思議と落ち着いていた。

ここまで三枚目すぎたが、どうやら俺の見せ場もきちんとあるようだ。

こうなれば超絶最強美形主人公として俺の凄技を見せて、がっちり女どものハートをつかんでやろうじゃないか。

「動機がどうも怪しいけど、まあ今はそれでええわ」

その代わりお前は……わかってるな?

「もちろんや、しっかり見張っとくで」


このタイミングで起こって困るのは、内部の反乱だ。

となればエンダは信用できない。

それを見張る役がいるのはありがたい。

俺は自然と指をぱきぱきと鳴らしていた。

「どちらにしても、このタイミングでこの場所で、こんな仕掛け方をしてくる時点であれがこちらの味方なわけはない。先制攻撃を仕掛けても問題はないだろう。ユナ隊長、敵の足をつかまえたい。エンダはそのサポートを。ヒロはみんなを守るために防壁を」


くるりと俺のほうを振り返るユナが、若干嫌な顔をした気がするが、俺はそれをさらっと無視した。

数秒後には不満ながらもしっかりと頷くユナが、両手を開いてまるで巫女の舞いのように軽く両手を振って、その場で跳躍した。

ブツブツと呟く言葉は、長大な魔法言語を数秒に圧縮した、無意味な単語の発音とメロディの合いの子といった調子のセリフになって、その小さな唇から紡ぎ出されていく。

こういう時に、かっこつけた日本語のセリフが出てくるわけはない。

それは中二バトル漫画か小説だけの仕様である。


「水源、ワタ、どちらも大丈夫」

ユナが探索の魔法の結果を口答で伝える。

それを聞いたヒロが大きく頷いたあと、ユナに敬礼を返す。


ワタというのは、砂漠の砂地の中に生息する植物だ。

地球にも砂漠に生息する植物はいくらかあるが、ワタはもっと特殊で、砂地の地面の中で少ない水分を得て繁殖し、地表には現れない。

そうやって自身を強烈な太陽光から守るのだが、今はその太陽がほとんど照らないため、その防御行動もあまり意味はない。

俺たちグロウラーが砂漠で活用できる、数少ない天然素材というわけだ。

ちなみに水はこの世界でもミズと言う。

まあ細かい翻訳は適当ということで納得いただきたい。何度も言うが、翻訳リストを作るつもりはない。

大体今の俺に、とうに過ぎ去った過去、前世のことを振り返る必要はないのだから。


「見えてきた……なに、あれは?」

エンダの声がすると、全員が一斉にそちらを見た。

もうもうと砂塵を巻き上げてやってくるそれは……人ではない。オンローンでもない。

一個の魔獣とも言うべき巨大な怪物だった。

「なんだあの硬質の体つき……しかもなんて長い牙なんだ」

「重心が低い、あれではワタでつかめるかどうか」

「まっすぐこちらに突進してくる。スピードも速いな!」

「黒光りして……とてつもないサイズ。あんなの初めて見たよ」

口々に感想を口にするメンツ。最後がなんかおかしいぞ。


 ようするに、こちらに向かってくるのはでかいイノシシである。

こりゃあ今晩はしし鍋だな。

俺は軽く脱力して、向かってくるイノシシを眺めていた。

もはや余裕すらうかがえる俺の表情になにを思ったのか

「顔緩みすぎ」

とユナがたしなめる。

まあ、無理もないが。

俺は美形に戻るように顔をきりっと引き締め直すと、

「フォーメーションを替えよう。相手が獣なら全力でぶつかってもしょうがない。エンダ、ユナと一緒にあいつが落とせるくらいの落とし穴を掘って欲しい。ヒロは俺と来てくれ。それと装甲兵は今回は出番なしだ、危険だから下がるように言ってくれ」

また俺に仕切られたのが不服なのか、ユナの眉がきりっと寄るが、俺はそれに構わずに前に出ていた。慌ててついてくるヒロ。

俺は向かってくるイノシシの縦の線に対して、ヒロとそれぞれ横に広がってから、地面に手のひらを突き立てた。

ちらりと見るとエンダとユナが、俺たちと馬車の後方の地面に細工をしかけようとしている。

これでスパイの可能性がある邪魔者の意識は、あちらに向かっているだろう。

なら俺の仕事は簡単だ。

こいつが直進するだけの馬鹿だということはよく知っている。


俺は詠唱を始めると、地面の奥から感じるワタの意識をつかまえて、それに向かって俺の意志を語りかける。

直訳するなら

「ワタさんワタさん、ちょっとこっち向いて俺のお手伝いしてくれませんか、少しでいいんです、言うこと聞いてくれたらあとでご褒美あげますよ」

と言ったところだが、こんな言葉を翻訳しても楽しくはないので、忘れてもらってくれて構わない。

「つかまえたぞ、ヒロ、いいか?」

それから随分遅れて、ヒロもやっとワタの意識をつかまえることができたようだ。

「ああタカシ、こっちもつかまえたよ」

と返事が返ってくる。


「荒涼たる世界の住人よ、水の恵の啓示を受けて、今こそ我が命に従え!」


俺が高らかに声を発すると、俺とヒロの間にワタが一気に繁茂した。それを束ねて引き出すと、二人の間に一本の太いロープができあがる。

「タカシ、さっきのなに?」

俺の無意味なセリフに驚いたように、ヒロが声を張り上げる。

「決まっている、このほうがかっこいいだろう」

と言う俺の返答に、ヒロはなにやら曖昧な顔をしていた。

このかっこよさがわからんとは、ヒロの奴もまだまだだな。

俺の決めゼリフの数々は、オリジナルホールドとしてこの世界の歴史に残るだろう。

この世界ではこういうセリフが恥ずかしいものだという認識もないのだから、やりたい放題だ。

さあ、あとはこのロープで直進しかできないイノシシを思い切りこかしてやれば、仕事は終わりだ。

今夜はすき焼きよー。


「タカシ!」

悲鳴のようなヒロの声とともに、俺の目の前に巨大な豚鼻が迫ってきた。

生意気にも途中で転進しやがったのかこいつ! なんでまっすぐ走ってこないんだ、わざわざ避けてやったのに。


「そら引きつける役おらんかったらそうなるやろ……向こうがただまっすぐ走るだけや思てたんか」


エンダのそばを飛びながら俺のほうを見たフラッペが、呆れ顔でそう言ったらしいが、当然その時の俺はそれどころではなかった。

ああ、なんてこった。

こんなゲームオーバーはいやだああ!

俺は思わず地面にひざまづいて身を丸めていた。

哀れティクシー、荒野に死す……そんな、ハーレムもまだだったのに。

ぐおおと巨大な体躯が、轟音を立てて俺のすぐ上を通り過ぎていった。


そいつはでかすぎて、簡単に止まることも軌道を修正することもできない。

俺のすぐそばにできた地面の隆起に、まんまと乗り上げたそいつは、そのまま空中に跳び上がっていた。

空中でもがく奴が、俺の真上を通り越していったわけだ。


そのほんの一瞬前、俺のすぐそば、先の隆起とは反対側の地面から、鋭くワタの木が地面を貫き空を裂いて伸びた。

あと一歩踏み込んでいたら、俺も串刺しになっていたところだ。その長くそびえ立つ枝が、ほんの少しそいつに当たるだけで、均衡は崩れた。

綺麗にくるりとひっくり返る体が、バランスを崩してそのまま俺の少し先の大地に激突する。

唖然としながらそれを見送った俺は、地面にひっくり返るそいつが、起きあがろうとする姿を見ていた。

不気味に赤く光る瞳が妖しく輝く。


その腹に、ドスンとさらに巨大な重量がのしかかっていく。

馬車の中で装甲に身を包んで待機していた装甲兵たちだ。

真っ先に飛び出したマリミと、さらに他の二人が、手に巨大な槍を構えて、その巨体の腹を突き裂いていた。

暴れる両足がガシィン! と音を立てて装甲に食い込む。

「ぐっ」

と声を発する一人。

しかしそれでも怯まずに槍を突き立てる六本の腕が、少々グロテスクにその切っ先をえぐると、やがてそれは息絶えて、静かに暴れる身を横たえた。

永遠に訪れる静止。


「た、タカシ、大丈夫?」

事の次第を見届けてから、ヒロが俺のそばに駆け寄ってくる。

まだ地面に四つん這いになっていた俺は、平静を装って起きあがると、手足の砂を払いながら、にこやかに流れるような髪を掻き上げた。

「ああ、どうやら俺が囮になってあいつをひっくり返す作戦はうまくいったようだな」

「え……? ああ、そうだったんだ。道理でエンダとユナ隊長がうまいタイミングで入ってきたよね」

「ああ、あの地面の盛り上がり、エンダがやってくれたのか」

ということは、このついでに俺を亡きものにしようとするかのような枝は、ユナの仕事だな……。

「打ち合わせたんじゃないの?」

「いや、ははは、まあ気にするなヒロくん」

ぽんぽんと奴の肩を叩くと、俺は顔をそらしてから、はぁと溜息を一つ吐いた。

「よう言うわほんま。フォロー入らんかったら絶体絶命やったやないか」

「うるさいぞまりっぺ」

「誰やねんそれ。適当に名前呼ぶな」

俺は適当に妖精のおばはんをスルーすると、ほっとして力を抜いた。

そこにユナとエンダが駆け寄ってくる。

「絶妙のコンビネーションだった」

何故かやけに嬉しそうにグッと親指を突き立てる無表情のユナ。かわいげのない奴だ本当に。

それとは逆に心配そうな瞳を向けるエンダ。

「いきなり前に出た時は驚いたけど、すごいこと考えるねえにーちゃんは。おばちゃん驚いちゃったわ」

またおばちゃんだよこの人は。しかしそれよりも次の言葉が衝撃的だった。


「なにも話していないのに、ユナ隊長がにーちゃんの考えを読んで適切に対処してくれたのがよかったね。二人は名コンビなのかも。息ぴったりだよ」


「なっ!?」

「……!!」

俺はすっとんきょうな声を上げ、ユナはユナで不服を態度に丸出しにして、顔つきを険しくさせた。左右の頬に不 服と書かれているのが見えるようだ。

この生意気な小娘は、一体俺に気があるのかないのか、そろそろはっきりさせてやりたいところだ。

「しかし埃だらけだね、おばちゃん拭いてあげよう」

そう言ってエンダが俺の背中に回った。さらりとちょっと骨っぽい指が俺の服を払う。

横を向くと、すぐそばで体勢を崩すエンダの背中が、ほんの一瞬だが俺の視界に入ってきた。

「あ、エンダも汚れてるぞ」

俺は迷わずその背中に指を伸ばし、服の中に手を滑り込ませると、直接柔肌に指を滑らせる。

「ぎゃっ!?」

これまた偉い声を上げて跳び上がるエンダが、俺から離れていく。

じりじりと恥ずかしそうに顔を赤らめながら、なにかとんでもないことをされたように俺を見つめる顔。

「さらっとすごいことしないでくださいよ。あぁ……これでもうお嫁にいけない。嫁入り前の肌を汚されるとは。しくしく」

しくしくって、自分でそのまま発音すんなよ。

見るからにわざとらしい嘘泣きをしているエンダは、しかしすぐに顔色を替えると、俺の顎先に指を触れさせてくる。

「ここまでしたからには、ちゃんと責任とってくれるんでしょうね。うふふ……」


あれ、俺またなんか変なフラグ立ててる?

いや別にエンダなら構わんけど。

というか普段からほとんど表情を見せないユナが、ものすごい顔で俺を睨んでいるんだが。

なんなんだ一体。


いやそれより背中だよ。

俺はすかさずフラッペのほうを見たが、その顔は怪訝に歪んでいた。そして横に振られる首。

どういうことだ……? せっかくチャンスを最大限活用して、何故かユナに睨まれてまで確かめたのに、どうしてエンダも違うんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ