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第二話 だいじなおおごと見破るチャンス

「なんだと……? じゃあリオンやヒロやユナ、マリミにエンダ、あの中に俺と同じ転生体がいるっていうのか」

俺は目の前が真っ暗になる気がした。

まさかリオンやヒロがそうだとは思いたくない。

まあユナは完全にどうでもいいとして、マリミやエンダだとちょっと困るな……。

もしあの中に転生体がいるとしたら、俺の中から一人ハーレム要員が減ることになってしまう。

「誰がハーレムやて? それにヒロやんは男やんか。あ……お察し?」

にやにやしながら下世話な顔つきで口元を隠すこの女……というかお前が転生体じゃないのか。この腐女子め。

「失敬な。うちは転生界の妖精や。どんな世界にも行き来して、あらゆる知識を吸収しとる。当たり前のことやないか」

あらゆる知識を吸収するのが当たり前の割に、デフォルト言語が関西弁なのは何故なんだ。

「当然これは記憶バンクの中のデータの一つや。親しみを覚えやすいよーにつこてるだけやで。子供の頃、タカシも○りん子の再放送見まくっとったやろ? ろりん子ちゃうで」

なんでそんな関西人限定情報なんだよ。

一時期半永久リピートしていたことなんて、もう誰も知らねーよ。

「まあそれはともかく……なんとかして向こうから転生の記憶持っとるゆうことを認めさせんとな。ここが頑張りどころやで、タカちゃん」

「誰がタカちゃんか。しかし、なにか方法はないのか。転生界の妖精ならあるだろ。便利アイテムとか見分ける方法とか」

「それは私のやり方やない。目の前に百パーセントの証拠を突きつけて、負けを認めさせるんや。惨めな気分を存分に味わせてからお縄にかける」

お前はなにかを継いでいるのか。


 しかしどうすればいいんだ、これは?

なんの手がかりもなしに転生体であることを暴露させるなんて、それこそノート持ち並の天才でも中々難しいぞ。

下手をすればこちらの正体がばれてしまう。

まあ最悪それは構わんかも知れないが、かえって警戒されてしまうことになる。

「あ、それあかんで。タカシもこの世界の人間に転生体って知られたら、それでアウトや。せやからそれは重々気ぃつけてや」


なんだと? そんな話初耳だ!

「言わんでもわかる思てたわ。せやけどもしこの世界にあり得ない事実を漏洩させたら、そらあかん。一発で時空から消去処分かもな。本来なら前世の記憶を持って転生なんて、あり得へんことなんや。そうやないと世界の秩序がぶっ壊れてまう。もちろんうちの正体もばれたらあかんねん。せやからあんま大きい声でひとりごと言わんほうがええで。変な奴や思われるから」

ぐっ、俺はそれを聞いて口を噤んだ。

確かに大分やばい人だ。


そういうふうに見られていた前世のあれこれを思い出して、心がしくしくと痛み出す。

寂しいと人はひとりごとが増えるものなのだ。

いいじゃないか、誰とも喋れない分、空想の中で鏡の中の自分とお話ししたって。

少女小説でなら許されるのに、何故大人の男がやったら危ない人扱いなんだ。不公平すぎる。

「そら純粋にキモいからやろ。ここやとお芝居の練習のフリもできんしな」

思春期の女子高生か、俺は。

「ええな、やっぱ本体属性のボケツッコミキャラのほうが、美形気取りキャラよりにおてるで、タカちゃんは」

本体言うな。それはもう過去に捨ててきた記憶だ。

そもそも美形気取りってなんだ。気取りじゃねえ俺は間違いなく美形キャラだよ。


ちくしょう、こいつと話していると、辛かった日々が次々思い出されて胸が苦しくなるぜ。

切なさ止まらなくなっている場合じゃない。なんとかして転生体の正体を暴き出して、こいつを追っ払って再び平穏なハーレムルートに乗り直さなければ。

「ええで、やる気スイッチ入ったな。あ……あるかも知れん。見分ける方法」

突然ぽんと古典的に手のひらを拳で打つフラッペ。

お前も大概関西のおばちゃんだな……と、いきなり体をぶんと震わせたかと思うと、また七色の霞を降り出しながら、えらく豆粒サイズな本をどこからともなく取りだした。

一瞬ウ○コでもするのかと思ったぞ。

その豆本をぺらぺらとめくりだしたフラッペ。

「あった、これや。最近の研究結果によると……転生体は、背中に文字を書かれると、光り輝くことがあるらしい」

「背中に文字だと……? 本当か」

「試してみるか、ちょい後ろ向いて背中出してみい」

お、俺がか……?

「別に左右対称で動くんやない。美少女に背中かいてもらえんねんから、じっとしとき」

仕方ない。

俺はその場に座ると、魔法師団見習いの制服の上着を少しずらして、背中を露出した。

適度に鍛えられた美しい背中……一度外で半脱ぎした時に、女の子たちがキャーキャー黄色い声をあげたことを俺は思い出していた。

我ながら惚れそうな美しさだ。

これが前世ならギャーと叫ばれていたなんて、もう思い出したくもない。

だがそんなことを全然気にしない女が相手では、この美しい肌も見せ甲斐がない。

「ちょっとじっとしときや……ほないくで」

ぼん、となにやら大きな音が背後でしたが、じっとしておけと言われた俺は、逆らうこともできず上着に手をかけたままでじっと動かずにいた。

不意に触れる指のサイズは、マッチ棒じゃない、なんだこれは。人間の指じゃないか。それも細い女の指だ。

「こっち見んな言うてるやろ。人型サイズは服ないんや、振り向いたら記憶なくなるまで殴るで!」

そう告げる声も妖精のか細い声じゃない……? まさかこいつ、今本気で人間サイズなのか。


これはうれしはずかしの、雪山全裸シチュエーションもどき?


振り向けばこいつを押し倒してなにごとか……いやいや、その時はこいつ、また小型化して逃げるだけだろうな。

細い指がきゅっと背中に立って、まず横に線を引く。次はそれが斜めに降りてきた。そして指が離れたかと思うと、また反対に斜めの線を引く。

小さく斜め、離して横、そのまままた下方に斜め。

今度は下から斜めに上がった線が、そのまま斜めに下がる。そしてちょんちょんと指が二度肌をノックする。

「いつまで書いてるんだ、そもそもなにを書いた」

「あんたのことやで。お、光っとる光っとる……綺麗に色んな色になって、字ぃが浮かび上がっとるわ」

「ほんとか? 俺も見たいな……」

まるで医者に体を見せている時のような格好で、俺が間抜けに呟いていると、またテントの入口がさっと開く。

「ティクシー……ちょっとお話が、あ、失礼」

俺はそのエンダの声に慌てて振り返る。

解りやすく解説するなら、この時テントの入口にはエンダ、そして裸のフラッペ、背中を向けている俺という構図になる。

そう、その時フラッペ(多分全裸)のことは完全に忘れていた。俺の振り返る挙動が完遂されるよりも早く、フラッペの平手打ちが俺の頬へと飛んできた。

それは俺にインパクトを与えながら、途中から拳による攻撃に変化した。まるで最初の打撃で抵抗力を殺してから、次の一撃で完全に破壊する必殺技のように、それはよく効いた。

「ごふっ……!」

吹っ飛んだ俺は、結局かすかな肌色さえ見ることもできずに終わった。

いや今はそれどころではないのだ。そもそもそれは偶然であって、狙ってしたことではないとここではっきり弁明しておきたい。

慌てて起きあがって、俺はエンダを追いかける。

その横で、もうフラッペは元のサイズに戻り、ちゃっかり服を着込んで俺にあっかんべをしていた。

昭和の子供かお前は。にしても痛すぎるぞおい。

「ま、待ってくれエンダ……いやこれは、違うんだ」

俺が背後から声をかけると、エンダはびくっと反応してぎこちない動きで振り返った。

全裸の女と半裸で一緒にいたことがばれれば、さすがにただでは済まない。

「いや……お邪魔しました。まさかこんな昼間からあんな場面に出くわすとは思っていなかったので」

「違う誤解だ、聞いてくれあれは……」

「でもわかります。疲れた時はお灸が効くんだよね。おばあちゃんも好きだってよく言ってたから」


……は?


「え? 自分でお灸しようとしていたんじゃないの?」

横で羽をひらめかすフラッペが、けたけた笑っているので俺は理解した。

エンダは別にフラッペの姿は見ていないんだな。

ただ間抜けに背中を出している俺が見えただけだ……ほっとして俺は胸を撫で下ろした。

「そ、そう実はそうなんだ。最近割とこってて……今度エンダも一緒にどうだ?」

「いいですね、考えておきます」

そう言って笑いながら去っていくエンダを力無く見送ると、俺はギッとフラッペのほうを睨みつけた。

「まあええやないか、これで口実できたで」

「ああ、俺のイメージ台無しだがな」

ギスギスした声で言いながらも、エンダが背中を向ける姿を想像して、俺はまあいいかと思うようになっていた。

どうもこの小悪魔、いやそんな可愛いもんじゃないな、鬼畜悪魔に飼い慣らされている気がしないでもないが。


 しかしこれで方針が立った。背中に文字を書けばいいわけである。


……ん? それすげー難しくね。


「やれやれ、非モテ童貞らしい貧しさ全開の発想やなあ。ええやん、この際やから片っ端から押し倒して脱がしたったらええねん」

……冗談じゃねえ。そんなことしたらどうなるか、結果は見えている。

「ええかっこしいのくせに、そういうとこは相変わらず弱いんやな。ほんま呆れるわ。ええか? やられる前にやるんは戦の常套やで」

いやいやいや、待て。俺はここでは品行方正な白の熾天使として通っていてだな……。

「なにがセラフィムや、あんたなんかエロ爺穢ジムで十分やろ。色男や言うなら根性見せたらんかい。それともこの世界から追放されてもええんか?」

くそ、完全に俺を尻に敷くつもりだな、こいつ。

蚊みたいに思い切りひっぱたいてやろうか。

「できもせんこと試さんほうがええで。あんたの顔色はよう読めるようになったからなー。それよりまずは誰からいくんや? というか誰が怪しいと思う?」

いやそれ調べるのお前の仕事じゃないのか。

俺ははたと立ち止まって考えてみた。


 これまであの中の誰かから、怪しいと思える兆候を感じたことはあるか……いや、ない。

少なくともリオンとヒロに関しては、そんな素振りさえ感じたことがない。

もし奴らが俺と同じように転生体で、裏に前世の記憶を持っているとしたら、相当な策士なんだろう。

さすがの俺でも、この韜晦は見抜けない。

だが長年過ごしてきて、あの二人にはそんな影は見られない。以後慎重に接するように注意はするが、やはり除外すべきだろう。


となれば、怪しいのは俺に敵意を剥き出しにするユナ。やはりこいつが怪しい。

なにより若き頃からの天才児だ。それも俺さえいなければ、恐らくこの世代ではナンバーワンと言ってもいいほどの逸材だ。

年齢よりも大人びた物腰と冷めきった性格、そしてなにより俺を警戒していると思しきあの態度。

思えば思うほど、怪しいなんてもんじゃなくなる。だが……。

「そやな、あの嬢ちゃんがほんまに転生体やとしたら、これはかなり厄介や。向こうも事情知っとって、こっちを警戒してるちゅうことやったら、簡単に尻尾はつかましてくれへんで」

フラッペの言うことも正論だが、だからといって対決を避けるわけにもいくまい。

尻尾をつかまれないように、向こうの尻尾をつかむ。これに賭けるしかない。

なにしろ俺には四十四年間の経験がある。

これを活かして……

「部屋にずっとおった四十四年じゃ頼りないなあ」

「お前さっきから一々うるさいぞ。俺を傷つけてなにが楽しい。パートナーなんだから少しは俺のことを認めてだな」

「きもっ。なにがパートナーやねん。全然ぱーっとせん奴が」

こいつの節穴のような目は、俺のことを前世の姿で見ているのか。

俺の胃とこめかみが、きりきりと引き締まる音が聞こえてくるようだ。

今の俺は天才グロウラーから生まれた最強の次世代グロウラー、グロウンの中のグロウン、ティクシー様だぞ。

「タカシーご飯よー」

ええい、そのトラウマたっぷりの言い方をやめろ!

「うちには見えるで。あんたには故郷もなければ家族もない。人を愛してもいなければ愛されてもいない。最悪の塗り重ねや」

だからなんだっていうんだ。俺は未来を変えようとしたんだ、ドス暗い過去を切り捨ててなにがいけない!

「タカちゃん、その咳はようないで」

咳なんかしてねえよ。


 こいつと会話していても、話がいつまでも進まない上に、俺のキャラが崩れていく一方だ。

ふっと大きく息を吐き出して、俺は額に手を当てながら、考えを整理するために唇を閉じた。

我ながら、この愁いを帯びた表情の作画が美しいと思うがどうだろう。

この姿を見た人間は、爽やかな効果音とBGM、きらりと輝く汗の表現の演出を脳内で加えざるをえまい。

ナルシストと笑いたくば笑え。こんな時どんな顔をすればいいか、真のイケメンとなった俺にわからないということはないのだ。


だがしかし、今後の目算は立たない。

なんと言っても相手はあの生意気憎たらしさ三十倍のユナだ。

フラッペの奴も大概だが、やはりあいつ以上の天敵はいない。

ここはどう考えるべきか、先にユナを相手に切り込むべきか?

それとも外堀を埋めるためにエンダ、マリミというノーマークの相手にまず狙いを定めるべきか。

どちらにしても情報が圧倒的に足りない。

ここは任務にかこつけて、やはり色仕掛けを活用すべきなのか。

そんな静寂を打ち破るように、ガションガションと例の音が外から聞こえてきた。

俺は素早く立ち上がると、テントの入口を開けてマリミの姿を視線だけで追った。

どこに行くんだ?

「これはチャンスかもな。あの鎧女の尻尾、つかめるかも知れんで」

言われるまでもない。


ならば最初のターゲットはマリミ、お前だ。


あれ、俺いつの間にかフラッペに協力することになってる?

「考えすぎたらまたハゲんでタカちゃん」

ええいうるせい! もうこうなったらなんでもやったらぁ。

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