私は好きな人と一緒になりたい
あー、ラブラブしたい!
誰かにずっとくっついて、いちゃいちゃしたい
くっついて、いっしょに溶けてしまうまでふれあいたい。
…しかしそんな相手はいない
「なぜだー」
女に生まれたからにはイケメンで優しくて包容力がある男を恋人にしたいものだ。というより憧れの相手がいた。
頭が良くて、笑顔が眩しくて、おかん級の包容力があるイケメンだった。
ただすでに彼女持ちであることを除けば完璧に理想の相手だったに違いない。
普通は諦めるしかないこの場面。一週間前の私はそんなこと構わず、告白をした結果、見事に振られただけでは済むことは無かった。
「あ、ゴミ虫がいる。」
とまあ、彼の彼女から罵られ、他のクラスメイトは罵りはしないものの、嫌な空気が伝染して、近づいて貰えず、半ば孤立状態に陥っていたのだった。
ただただ好きな人に振り向いてもらい、いちゃいちゃしたいだけなのに!
自分の体を抱きしめるしかないなんて寂し過ぎるよ!
そうして今日この朝、一人の転校生がこのクラスに訪れた。
「御剣つとむです。今日からよろしくお願いします」
一般的な挨拶だけど、言葉遣いはハキハキしていて、好青年を思わせた。
空き時間にみんなが興味津々に質問する中、これまでのしこりがどうしても胸の中で残っていたため、入りたいのにどうしても動くことが出来なかった。
(はー、鬱だ)
この日の授業は終わり、帰ろうとする中、雨がざぁざぁと降っていることに気がついた。
傘なんて用意しておらず、いつもは一緒の友人達は部活だの読書などしていたし、早く帰りたい気持ちが大きかったため、濡れるほか無かった。
(孤独な女にゃ、雨風がちょうどいいくらいさ)
と出ようとしたとき、
「ねぇ、傘いるか?」
と転校生君に話しかけられた。
「いいの?」
と答えると、
「ただし、あいあい傘だけどな」
と返された。
急に体が熱くなった。ドキドキした。
「いいの!?やるやる!」
とがっつり食いついてしまった。
普段なら詐欺だろ、とか冗談半分じゃね、と疑う場面かも知れないが、今の寂しさよりイケメンと物理的接触が何より大切なのだ。
「おう、入れ」
と案外動じない態度で私を横に入れてくれた。
(ふわぁ、誰かの近くにいるだけですごくドキドキする)
「そういえば君とはほとんど話してないよな」
「うん…そうだね」
ドキリとする質問だった。
「でも、俺のこと見てただろ。覚えてるぜ」
「え!?」
「興味はあるけど近寄り難しって感じだった」
「…まぁそんな感じだったかもね…」
「もしかして…」
…ゴクリ…ハブられかけてるなんて思われたくない…
「俺がイケメン過ぎたからそうしていたんだな」
…思っていたのとは違って、安心したけど…ナルシストが入っているタイプかー…
………あえて乗ってみよう。
「そうだね!よく分かったね!」
「ふ、だろ」
「もしかして、モテモテなんじゃない?」
「当たり前じゃないか」
「すっごーい!」
ちょっと踏み込んだ質問をしてみよう
「もしかしてぇ、彼女持ちぃ?」
「もちろん。10股くらいしているよ」
「え?!」
「冗談。いないよ」
「ははっ、んもー」
なんだかラブラブできてるし、楽しかった。傘の大きさから、二人分を引いたほどの距離感でも遠いように感じてしまった。
もっと、近寄りたい。もっとくっつきたい。そういう感情が芽生えていた。
許してくれるかな?大丈夫かな?………ええーーい!
びとぉ!
私は転校生の腕に抱きついた。
「おおーびっくりするなぁ。やけに嬉しそうじゃないか」
その顔は嫌がっている顔じゃなかった。嬉しかった。
「こーしてると幸せな気持ちになるからね!」
最高の雰囲気だった。もうこれは告白するしかないと思った。
「ねぇ!」
「ん?」
「よかったら…私と…こ、こ、」
次の言葉が出ない。そしたら転校生君がフォローの言葉をかけた。
「もう俺ら、友達だろ」
「ちゃうわい!」
深呼吸してもう一度。
「私の恋人になってください」
「え…」
どうなるかもう分からないけど、熱い気持ちが全身に流れて思いは一つだった。
彼は先程の驚きからいつもの表情を見せ、こういった。
「お前…男じゃん。」
男じゃん…男じゃん…男じゃん…
グサッ!それは一週間前と同じ断れ方だった。
「こ、こ、ろ、は、乙女よ!恋する乙女なのよー!」
心からの叫びは雨音と混じりながら町中にきえていった。
私が女として生まれたのは性別があるという意識を持ったときからだった。
やはり、女のなり損ないは駄目なのか。男の体は駄目なのか。
愛に飢えて、優しさに飢えて、私の心はボロボロさ。
「でも、嫌いじゃないぜ」
「え…」
「甘えられるの。誰かにこうして横に居てくれて、俺のこと必要としてくれるのが、好きなんだよ」
「…じゃ、じゃあ!」
「ああ、一緒だ。俺たちは」
「うれしい!」
私達は抱き合った。雨はあがっていた。
太陽は私と彼の二人同士をいつまでも照らしていた。