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隣の芝生は青いと言う前にうちには芝生がない

作者: あさがお

独り暮しに慣れてくると自由な行動をとりたくなるものである。

実家に居る時にそんな事をしたら親に怒られることは間違いない。

取り込んだ洗濯物の上に寝てみたり、敷布団を干してる間にベッドマットに直に寝転がり昼寝してみたり。

最近ネットで見た事だが、布団を敷かない方が正しいベッド使い方だそうだ。

今さらどうでもいいことである。


一番のお気に入りはベランダで寝る事だ。

本当はテントを建てれたらさぞ楽しいだろうが、普通のアパートなので敷布団の横巾程度の奥行きしかない。

横になると柵が邪魔で夜空は僅しか見えないが、星が動いてる事がよく分かり悪くない。

しかし一つだけ不満がある。

隣人の話し声だ。


勝手にベランダで寝てるのだから、音量については文句を言える立場ではないが、話し方が非常に気になる。

ずっと一人の男の声しか聞こえないので電話であるのは間違いない。

問題なのは本当にずっと男が話してる事なのだ。

一方的に話をして相槌らしき声を一度も聞いたことがない。

キャッチボールではなく、ほとんど壁当である。

話好きと言えど限度があるだろう。

嫁さんか恋人かわからないが話を聞いてやれと、そう思うと少しイライラするのだ。


それにしても黙って話を聞いてくれるなんて、とてもできた嫁さんだ。

あぁ羨ましい。





独り暮しに慣れてくると独り言が多くなるものである。

実家に帰った時には親にうるさいと怒られほどだ。


テレビのアナウンサーに向かって挨拶はもちろん、芸人と一緒に突っ込んだり、クイズに答えたり。

たまに居なくなるリモコンに出てくるようにお願いしたりもよくある事だ。


もしかすると私は思ったより寂しがり屋なのかもしれない。

しかし私には毎晩電話できるような様な相手はいない。

世の中にはチャットと言うものやSNSなどがあるそうだが、生憎その方面には疎く、始めようとも思わなかった。


ふっと、ある収容所の捕虜の話を思い出した。

架空の少女を想像し、その少女を慈しむことで苛立ちや悲嘆を乗り越えたという話だ。

だが私はそこまで嘆かわしい精神状況ではない。


嘆かわしいと言えば中東には嘆きの壁なるものがあるそうだ。

"嘆き"というのだから壁に向かって懺悔や祈りを捧げたりするのだろう。

そのくらいならば試しても大丈夫であろうと、壁におでこを押し当て話してみると、これが何となく楽しいのである。

いつの間にか日課になっていた。

最近わかったことだが、嘆きの壁は神殿や文明の栄枯盛衰を嘆いてるのであって、壁に対して嘆いてるわけではないそうだ。

今さらどうでもいいことである。


今日もいつものように私は壁に嘆く。


「隣の人またベランダに締め出されてるよ。また何か悪さでもしたのかね。それにしても良くできた嫁さんだよな。何度も悪さしても締め出すだけで許してもらえる、しかも律儀に布団まで用意して・・・・・・」


「「あぁ羨ましい」」

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