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異端の君  作者: ストロングノット
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第七話 ギルド登録

学内には派閥があり、それぞれが争っているということはよく分かった。

教頭は彼らと争いにならないようにと忠告した。

しかし、それ以上に深刻な問題が月影たちには存在した。

「さて、次は俺たちの日銭を稼ぐ方法だな」

実際のところ、国から支給される毎月の仕送りはスズメの涙程度。月影の親父はケチではなかったが、国を継ぐことがない次男坊に多額の仕送りをしてくれるほど太っ腹でもなかった。

他の貴族の子息子女がどれくらいもらっているのか分からないが、月影たちは日銭を稼がなくちゃならない。そうでなければ食うにも事欠く。

「何か、いい方法があるってか? ここじゃ商売くらいしか稼ぐ方法がなさそうだけど?」

カストの言い分はもっともだ。しかし、ここでは学生が卒業後に冒険者としてすぐに独立できる方法がある。

「ギルドに登録するんだよ。お前たち二人は特に、この手のことは勝手がわかっているだろう?」

「まぁ、あなたよりは分かっているでしょうね。ここに来るまでは冒険者ギルドに登録していましたから」

「しかし学生でギルドに登録なんて話、聞いたことないぜ?」

「そうだろうな。ただ、知り合いに聞いたところ、ここでは普通らしいぜ」

知り合いとは例のごとく海賊船の船長だ。虎髭の船長は海のことにも詳しいが、様々な街の仕組みにも詳しい。その中でアクアディオス共同大学の『学生ギルド登録制度』を教えてくれた。

この制度は卒業直後に冒険者志望の学生が、すぐにでも独立できるように設けられたものである。アクアディオス共同大学は基本的には4年制大学である。この制度には1年生のころから登録することが可能で、親から仕送りがない学生でもバイトができるような、最低ランクの依頼から引き受けられる。

ギルドと言ってもアクアディオスには複数のギルドが存在しているから、どこのギルドに所属するかという話になる。しかし大体の場合、鍛冶学科を除いては冒険者ギルドへの登録となるのは間違いない。

「冒険者ギルドの依頼ランクも色々あるぜ?」

「そうだ。だから最低ランクから引き受けられる。しかし最大でも大学に依頼が来るのはCランクくらいまでじゃないかな」

依頼にはランク分けがされている。

F~Aまでに分けられており、Fランクは人探しやペットを探すこと、あるいはネズミ退治など正直誰でもできそうな依頼まで飛び込んでくる。しかしそこからランクが上がるにつれて、依頼内容の難易度と危険度は上がっていく。

Cランクから上はそれまで害獣対策までが関の山だったものから、モンスターを相手にした本格的な内容になる。Cランクはゴブリンなど下位のモンスターが相手となるものの、Aランクに近づけば近づくほど、ドラゴンなどの巨大なモンスターを相手にすることになる。

Aランクの冒険者など、この世界には一握りだけだ。

「ちなみに、お前たちはランク付けで言うとどれくらいの冒険者なんだ?」

「BとAの境目くらいかな? いや、実際のところ依頼は1人で受けていたからアルフォンスの実力はよく分からない」

「同じギルドに所属していたんだろう?」

「同じギルドに所属していても、活動拠点が別々という話はよくあるんですよ」

カストとアルフォンスの話を聞いて、そんなものかと納得する月影。彼らは互いの実力まで把握してはいなかったが、魔術師が単体で依頼をこなせるということ自体が示しているのは、それなりに実力があるということだ。

「お前とお師匠さんだって冒険者ギルドに登録していただろう? そこら辺のことは分かるんじゃないか?」

「俺たちは冒険者としてというより、傭兵として活動していることのほうが多かったからな。それに多分主水は、このあたりの知識が皆無だ」

「察しが良くて助かる。ディビルレイのギルドはこっちとは全く違う運営方法をしているからな」

ディビルレイにもギルドは存在するが、魔大陸や神聖大陸で運営されているもの全てにつながりがあるのに対して、彼らのそれは独立している。つまり冒険者ギルドアクアディオス支部がアクアディオスの冒険者ギルドを運営しているのに対して、ディビルレイの冒険者ギルドは大本に属していない独立した機関なのだ。

「まぁ、とにかく。俺たちはここで少しでも稼がなくちゃならないな。ここでの推薦状も受け取ってきたから、特に問題はないだろう」

推薦状はそれぞれ、風穴舎人とシャイローズ伯、そして主水の場合はディビルレイギルド本部である。これがあればわざわざFクラスから始めなくても、Cクラスの依頼から受けることが可能となる。

「しかし今必要かねぇ? どうせなら後からでもいいんじゃねぇか?」

「ここでの授業は忙しいと聞きますよ。あまり遅くて時間が無くなったらまずいでしょう?」

「まぁ、そういうことだ」

学生ギルドは学生たちが自主的に学内で決まり事を作る場所、学生自治寮内にある。

学生自治寮といえば仰々しいが、要するに学生たちが学生生活を円滑に過ごせるように、そのサポートなどを行う機関のことだ。学内で問題が発生すればそれの解決のために動くし、何か行事を行おうということがあればその承認を大学側に掛け合ったり主催者側と協力したりもする。

これらは一種イベント的な側面があるため、普段の学生自治寮が何をしているかと言えば、それが学生ギルドの運営である。

アクアディオス共同大学から冒険者ギルドのアクアディオス支部に就職した人間は多い。彼らを通じて、ギルド内の依頼を振り分けてもらうのである。そしてそれらを学生自治寮内のギルド支部で公表する。依頼を受けた学生は成功の報酬としてギルドと学生ギルドの契約金の2割をもらう。

はじめは小遣い稼ぎ程度の金しか手にすることができないため、数をこなすしかない。あるいは他のバイトと掛け持ちだ。

だが、レベルを上げていけば一回の報酬で十分に生活ができるほどになる。

多少の危険は伴うが、金銭面を考えれば非常に魅力的なバイトであることは確かだ。また難易度が高すぎると自治寮側が判断した場合には、経験豊富な戦士学科の教官がサポートにつく。

ともあれ、まずは登録である。

「すまない。学生ギルドの登録はここでいいだろうか?」

「えぇ。ここで間違いないですよ」

「それにしては、えらく人が少ない」

「皆、今は授業に行ってますからね。あなたたちは行かなくても大丈夫なんですか?」

受付にいた女性は背が低く、笑顔がとても可愛らしい女性だった。あまり表情を表に出さないターシャに比べたら、こちらはとても愛嬌が良い。瞳の色は赤、瞳孔に縦線が入っていることから恐らくは魔族だろう。それに人間なら病的に白いと言われそうな肌も、彼女が魔族ということであればうなずける。

「今日から大学に編入してきたんだ。それまでは各地を旅してまわっててね」

「へぇ、私はジルバレイからやって来たの。そこにも行った?」

「あぁ、デカい国だよな。数年前、ナルヴィル王国とジルバレイ王国が戦争した時にジルバレイ側についたからな」

「あなた、傭兵?」

「いや、傭兵みたいなこともしていたが、傭兵じゃない」

「・・・・・・そう」

突然、女性の顔から笑顔が消えた。それを不審に思いながら、月影は彼女に向けて手を差し出した。

「俺は秋津島月影だ。ディビルレイの中の秋津島から来た。よろしくな」

「同じく、フェローレから来ました、アルフォンス・フェローレ」

「同じく、ガルツから来た。カスト・アーカイムだ」

「俺は月影と同郷でな。神楽主水という」

「私はミリア・フリーダよ。これからよろしくね」

しかしそれでも彼女の顔は浮かない表情だった。腑に落ちないながらも、月影たちはギルド登録の手続きを踏む。彼らは推薦状が受託されて、Cクラスの依頼から開始することとなった。

「いきなりCクラスって・・・・・・。この様子じゃ、そうとう修行を積んできたんじゃないかしら?」

「そういう意識はない。過信するとあっという間に死んでしまうだろうからな」

ミリアが学生ギルドに登録しているかどうかは分からないが、きゅっと表情を引き締めたところを見ると、何らかの経験はあるのだろう。しかしこれは月影たちの本音であって、恐らく長生きしている冒険者のほとんどが同じ考えを持っているに違いなかった。

「さて、どんな依頼があるかな?」

「おい、これなんかどうだ? すげぇ実入りが良さそうだ」

カストが依頼書の紙を指差しており、それを見るために仲間が集まった時だった。

「ふざけないで!! 何であなたたちがこの依頼を受けているの? 最初に依頼を受けたのは私だったのよ!!?」

テーブルを思い切り叩く音とともに、怒号が聞こえてくる。しかしそれに答えたのは男の嘲笑だった。

「怒るなよ、ターシャ。まだ君にはこの依頼は早すぎる。それにお父上にはくれぐれも君のことを守るように言いつけられているのだ」

「私より少し年上だからって・・・・・・いい気にならないで」

声の方向を見てみれば、ターシャが同じように乳白色の髪をした青年に食って掛かっている。男は髪を綺麗に撫で付けており、身なりにも気を使っているようだった。月影とは対照的だ。無論、彼も清潔に保っているつもりではあった。風呂には毎日入れるようになったし―――。

「よぉ、どうした?」

「てめぇは何者だ!!?」

それまでターシャの後ろで事の成り行きを見守っていた男子学生がターシャを庇うように、月影の前に出る。その数3人。

「何者って・・・・・・。あぁ、確かにこちらから名乗らないってのもおかしな話だな。ディビルレイは秋津島からやってまいりました、秋津島月影と申します。以後、お見知りおきを」

礼節にのっとり、丁寧にお辞儀した月影を見て、それまで気が立っていた3人は面食らったようだった。そして自分たちも名乗り始める。

「ドン・フィーリアです」

「マティス・ラウド」

「クルス・ライアームと申します」

「突然すまない。同じ寮に住むターシャが何やらもめている声が聞こえたものですから」

「ふん。何ももめてはいない。それよりも、君たちにどんな関係があるのか知らないが、黙っておいてくれないかね? 混血種が」

明らかな差別的な意思を込めて、その言葉は放たれた。瞬間、月影は金色の瞳を映した目をスッと細める。

場の空気が、一気に張りつめた。

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