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異端の君  作者: ストロングノット
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第五話 ターシャ・ナイトロード

ターシャは美しい女性だった。

ただ、外見は非常に物々しいものだったということを、ここに記しておかねばなるまい。名前だって、ナイトロードという仰々しい。

見た目に恐らく、彼女は胸も大きい。そして腰は細い。

だから抜群のプロポーションだと言って差し支えはないだろう。

しかし彼女は自分自身の美しさなどに興味はないようだった。身に着けていたのは女性用のプレートメイル。それは機能性を最も重要視し、美しさを醸し出してはいたものの、やはり実用性がそれを上回る。

そして腰には細い剣レイピアをさし、いかにもといった風情の女戦士然とした雰囲気を放っていた。

「ユーリ、この人たちは?」

「この人たち?」

月影はユーリを見る。

彼女も困った表情を浮かべており、

「皆さん、ユーリとお会いするのは初めてですか?」

「あぁ、ここに来て一週間になるが、姿しか見たことはなかった。挨拶などは全くだ」

ユーリは美しい顔をしかめながら、大きなため息をついた。

「ターシャ、少しはみんなと仲良くしたら? そんなことだから、戦士学科でも浮いちゃうんだよ」

「ふん、他の連中と一緒にしないで。あいつら、ここに剣を学びに来たはずなのに恋の話にしか興味がないみたいなんだもの」

「へぇ、真面目なんだな」

月影が言ったことが気に障ったのか、ターシャの美しい大きな目が、すっと細められた。

「あなたも奴らと一緒なの?」

「いいや、そいつらがどんな奴らか会ったことがないからわからないが、俺はそこまで色恋沙汰に興味があるわけでもない。もっぱら、今まではこれしか握ったことがないものでな」

月影も腰に差してある刀の鍔に手をかける。ガチャリと鈍い音が鳴った。

「そうそう。お前も刀一筋だからな。また刀馬鹿が上乗せされたんじゃないか?」

「刀馬鹿とはひどいな。恋も少しはやる。お師匠さんから、言われてな」

月影の師匠、風穴舎人は風来坊で自由な人間だった。その昔は月影の住んでいた国、秋津島で剣術指南をしており、多くの剣術者を輩出してきた。その実績で城にも招かれ、秋津島家専属の剣客となったが権力闘争に嫌気がさし出奔。それからは世界中をブラブラ旅しながら、日銭を稼ぐ冒険者として日々を過ごしている。彼は女もやるし、酒もたくさん飲むという、剣術の腕がなければろくでなしと呼べる人間の種類だった。

「それで先生は?」

一時期は舎人の元で、ともに剣術を習ったことのある主水。彼も先生のことを気にかけている。

「今は魔大陸をブラブラしているさ。これから獣人が住む深緑の地、そして神聖大陸と流れ続けるんだそうだ」

「先生らしいな」

「なかなか高名な先生に師事してきたのね。それじゃあ当然、あなたも戦士学科に所属するんでしょう?」

「そうなるな。ただ、この際剣術は二の次だ」

彼らが通うことになるアクアディオス共同大学では、数々の学科が存在する。魔術学科、鍛冶職人育成学科、戦士学科、そして政治学科や商売学科などである。だから様々な種族から多くの学生がやってきて、専門的なことを学んでいく。

戦士学科はその中でも戦士を育成することに力を入れており、その多くは貴族の子息が通う。ターシャのような女性もいるが、彼女たちの多くは親を冒険者に持ち、自らも剣の腕を磨いてのし上がってやろうとする野心家たちだ。

しかしターシャの話を聞くに、全員がそういうわけでもないようだが。

「何が目的なの?」

「戦を研究すること。これに尽きる。無論、自らの剣は高めつつとなるが」

「お? お前も殿から戦術戦略を学ぶように仰せつかったのか?」

「いいや、お師匠さんから。お師匠さんがこれまで参加した戦争の話はよく聞いたけど、どうもこれからは一人の英雄だけで戦争に勝てるような時代でもないみたいだからな」

風穴舎人は凄腕の剣術者であるだけではない。彼は有能な参謀としての側面も持っている。

日銭を稼ぐ傍ら、国家間の戦争に参加することもしばしばあったようだ。月影もその補佐として、魔大陸で修行をしていた最中は、幾度となく参戦している。

「後でいろいろと話を聞かせろよ」

「後でな。ところで、あんたは何を学ぶためにここにいるんだ?」

「ターシャっていう名前があるから、それで呼んで。あんたじゃない」

「そりゃすまなかった。で、ターシャも聞かせてくれよ」

ふんと、彼女は鼻を鳴らした。

「あんたたちみたいな、悪いハエから身を守るため」

「ちょっと! ターシャ!!」

ユーリが諌めるが、月影は思い切り吹き出してしまった。彼はこういうはっきりモノを言う人間が嫌いではない。特にターシャに対しての興味は、先ほど以上に高まった。これで四角四面の答えが返ってきたら、それこそ興ざめというものだ。

「そうだな。冒険者や戦士ってのは、俺たちみたいに育ちの悪い奴らも多い。戦士学科で腕を磨けば、手籠めにされることもねぇだろうよ」

「育ちが悪いというのはやめてほしいな。私たちはこれでも、王子ですよ」

アルフォンスが苦笑しながら言ったが、カストも月影も、そこまで自分の出自にこだわりはない。彼らは家を継ぐわけでもないから、その分蜂蜜色の髪をした青年よりも考え方が自由で豊かだ。何より、長年家を離れて旅をしているとそこら辺のことを全然気にしなくなってしまう。

「あまり実感ねぇな」

カストが肩をすくめる。

「それで、どこの出身なんだ? 俺たちの故郷じゃもちろん、魔大陸でもあまり見ない顔だ」

「神聖大陸のソードランドが出身地よ。父は宮廷で王を護衛する親衛隊長を務めてる」

一瞬、場が沈黙した。

「ってことは、お貴族さんか何かか?」

「そうだけど、変?」

「ターシャが貴族っぽく見えないからな。いや、貴族のご令嬢っぽくないといったところか?」

彼女の端正な顔に、白い肌に、ポッと紅が差す。

「わ、悪かったわね! これでも精一杯、令状らしく振舞っているつもりなんだけど? それとも何? ドレスでも着ておいたほうがよかった?」

ものすごい剣幕で詰め寄ってくるターシャ。初対面ながらに月影は彼女とよくしゃべっていることに気付く。彼はターシャのことをもっと知りたいと思っていたが、これは脈ありといったところか。

いや、この状況でそれを考えるのは、少々お気楽すぎるともいえる。

「イメージだよ! イメージ!! そう怒らないでくれ」

「ふん!」

そっぽを向くと、ターシャはさっさと食堂から出て行ってしまった。

「怒らせちゃいましたね」

苦笑いを崩さず、アルフォンスが言う。しかし月影は笑っていた。

「堅物だけど、いい女だな」

「そうか? 扱いにくそうじゃん」

しかめっ面をしているカストはおそらく彼女のことが苦手なのだろう。

「俺たちのことを見て、差別しなかった。混血種である、俺たちのことを見てもな」

「それもそうだな」

四人は顔を見合わせて、それぞれの特徴を確認する。

彼らは多くの種族とは違い、混血だ。それぞれの混じった血を、その姿に色濃く反映している。

そしてこの世界で、混血は最悪の選択とも言われていた。魔術師はそれぞれが信じる神に祈りをささげる。そしてその力を得て魔術を形成することができる。そのためには神から洗礼や、それに代わる何かを受けねばならない。

ところが、混血はそれができない。神とのコンタクトができないと言われている。

しかも時代の風潮として、純血は守られるべきだという考え方がどこでも強かった。混血は穢れの象徴とみなされていた。

だから、もしも混血の子供を産んでしまった両親は勘当され、追い出され、深い森の中でひっそりと暮らしていくくらいしか生きる道がなかったのだ。

あるいは昔から混血に対しての差別がない、ディビルレイで生活するという選択肢もあった。

つまり、ディビルレイ以外の世界は月影のような人間たちにとって、とても住みにくい世界なのだ。ところが、彼らを前にしてターシャは差別しなかった。

単純に彼女にそういう意識がないのか。

それとも心のうちに秘めているだけなのか。

今は、まだ理由など分からない。







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