あれから五年…
今更ですが、この話に出てくる家名や国名は全部勝手に作ってるので、胡桃割り人形とはまったく関係ありません。
…それに、確かクララって市長さんの娘だった気がするし!
目の前で行われている嫌味合戦に主人公・クララはうんざりしていた。
クララがいるのはルベルト伯爵の屋敷。
社交シーズンということで、三年前にデビューを果たしているクララも当然のことながらパーティーに参加していた。
チラリと男たちの集まる方を盗み見ればクララ同様に兄のフリッツもうんざりした顔をしていた。
もちろん、顔は笑ってはいる。
兄妹だから分かることで、他の誰も気づいている様子はない。
クララの視線に気付いたらしいフリッツは笑顔で周りの男たちに「失礼」と挨拶し、クララの方へやってきた。
「こんばんは、お嬢様方。クララの体調が芳しくないようだ。失礼させて貰っても?」
「ま、まぁ!フリッツ様!わたくしたちとしたことがクララさんの事に気づけなくて…」
「本当にお辛そうだわ。クララさん、また別のパーティーでお会いしましょう?」
「えぇ、また」
クララはフリッツと腕を組み、にこやかにルベルト伯爵邸から立ち去った。
馬車の中、二人は同時にため息をついた。
両親はクララとフリッツとは別の馬車で帰宅している。
「…なんかさ、また激化したよね」
「…本当にな」
現在、王が病床にあり、そう長くはないという。
そのお陰で、貴族達が二つの派閥に対立していた。
片や、病弱だが切れ者と噂の第一王子。
片や、頭は良くないが健康な第三王子。
この社交シーズンではこの二人のどちらかを王にするために貴族が嫌味合戦を開催しているのだ。
「死ぬなら皇太子を指名してから死んで欲しいもんだ」
「本当だよね」
ついでに、クララとフリッツの家であるアルディオ侯爵家は第二王女派である。
…殆ど知られていないが。
なので、アルディオ侯爵家を仲間にしようと画策する貴族達はアルディオ家をパーティーに引きずり回し、目の前で嫌味合戦を開始するのだ。
「…ところで、」
「お兄様、私あと百年は結婚しないので」
「お前それ死んでるから。どうしてそんなに嫌がるんだ」
「えー、だって私が嫁ぐならお友達で同じ王女様派のクディル家かメディカ家でしょう?嫌なんですよ、あの家に入るの」
「どうして?仲はいいだろう?」
「仲はいいけど。仲が良すぎるっていうか。あの二家のお母様達とは仲が良すぎてお人形さんにさせられる」
その二家には娘がいないので、物凄く可愛がって貰えるのは分かっている。
が、服や宝石に興味のないクララには苦行なのだ。
「あのな、いい加減昔のことは忘れろ。お前のそれは全部夢だったんだぞ」
「それでも、忘れたくないの。幸せな記憶を忘れるなんてお兄様だって出来ないでしょう?」
「…だが、お前は傾倒しすぎている」
「だから百年は結婚しないって言ってるでしょ」
フリッツはため息をついた。
どうしてこの妹はこうも頑ななんだろうか。
クララは五年前のクリスマスに見た鮮やかで不思議な夢が忘れられない。
大切にしている胡桃割り人形が王子になり、お菓子の国へ行ったなどと、夢にしか有り得ない話。
恋の一つでもすればクララも変わるかもしれないが…
「…あぁ、そういえば…」
「なぁに?」
首を傾げたクララにフリッツは少し罪悪感を感じ、苦笑した。
「他国から縁談が来ていたんだ。一週間後に相手がいらっしゃるから、準備しておくんだぞ」
「…お兄様のお相手?」
「…お前のだ」
「…他国?」
「ああ。うちと同じくらい大国のイルリオンの第二王子様だ」
それを聞いたクララは卒倒できないかな、と思った。