土曜日の朝6時30分に、職場の人からの電話だと思って出たら、明らかに合コン帰りの男からの間違い電話だった件について、の段【その二】
さて、心機一転、本題に入ると致しましょう。
なんというか、日常はドラマに溢れていますね。衝撃の程度には差こそあれど、考えもつかないことは起こるものです。そう、それが麗らかな休日を過ごそうとしていたわたしを襲った悲劇。事件の名は、『土曜日の朝6時30分に、職場の人からの電話だと思って出たら、明らかに合コン帰りの男からの間違い電話だったクソな事件』である。
掛かってきたんですねえ、こんなクソでアホな電話が。「あっ! もしもしぃ? さっき番号交換したやんなあ?」という謎の馴れ馴れしさと高いテンションでもって。しかも朝っぱらからチャらそうな男の声。ええ、このときのわたしの心情を一言で表すなら「詰んだ」ですね。(※『ネットスラングに溺れる、の段』参照)
そもそもの事の始まりは、前日の夜にありました。前日の金曜日の就業後、上司からこんなお達しがあたのです。
「もぃもぃさん、まあ何もないとは思うんやけどね。明日東京へ出張しはる島根県のぃもぃもさんから、朝に連絡あるかも知れへんわ。もしなんかトラブルがあったら新大阪まで行ったって」と。
これに対しわたしは、
「わかりました。ぃもぃもさんからもし連絡があるとしたら、何時ごろですか?」と聞きました。
「せやなあ、6時ごろちゃうかな」
ということだったので、
「じゃあ、携帯電話の電源は今日は切らずに寝ますね」と言ったのです。
このときすべての忌まわしきベクトルは、もぃもぃへと向いていました。
普段は新大阪を通過するだけのぃもぃもさんが、その土曜日に限って新大阪に立寄る用事があったこと。
普段は携帯の電源を切っているもぃもぃが、その土曜日に限っては携帯の電源を入れていたこと。
いずれにせよ、その晩は眠りに就きました。そして翌朝土曜日、6時30分に携帯電話が振動したのです。 き、きた! 何かあったんや! と画面を見ると、知らない番号。けれども、こんな時間に掛かってくるのだから、きっとぃもぃもさんに違いないと思って慌てて通話ボタンを押したのです。
すると。
「あっ! もしもしぃ? さっき番号交換したやんなあ?」
などというアホで呑気この上ない声が耳に流れてきたのです。こういうときって、咄嗟の対応ができないものですね。わたしは優に10秒は沈黙しました。で、ぃもぃもさんには何事もなく、わたしに掛かってきたこの電話は間違い電話であるということを理解したのです。
「あの……。掛け間違いやと思います」
「えっ? 何言ってんのぉ、またまたぁ~。ほらほら、さっき番号交換したやんか」
(アホとちゃうん、コイツ。この明らかに寝起きの声がわからんかぁ?)
「違います。掛け間違いやと思います」
「ええ~? でも、さっき交換した番号に掛けてるでぇ?」
(さっきから馴れ馴れしいやっちゃのう。違う言うとるやんけ)
「違います。掛け間違いです。切っていいですか」
「ええっ、じゃあさぁ、名前教えてよ」
(アホか、お前! なんで見も知らん男にワシの名前言わなアカンねん、頭に虫でも湧いてるんちゃうか、それに何より礼儀も知らんのか、小学校で習ったやろ“名を名乗るときはまず自分から”って!)
「……そっちから言うてください」
「は?」
「だから、そっちから名前言うてください」
「え……? サキ……」
(ア・ホ・かーー!! 誰が相手の女の名前言え言うたんや、お前の名前じゃ、お前の。知りたくもない名前聞くのに、なんでこんな頭痛くなるような会話せなならんねん、お前が名前言ったら、“そんな知り合いはいません、ガチャ”って電話切れるのに、どんだけ会話を引き伸ばさすつもりやねん。しかもなんでそんな声小さなんねん、自信持てや! っていうか土曜日の6時30分やぞ。安眠妨害で損害賠償請求すんぞ、ゴルァア!!)
「……全然違います。わたしはそんな名前じゃありません」
「え? ほんまに……?」
「掛け間違いです。切ります」
「え、じゃあ、間違いですね……」
(最初からそう言うとるやんけ! どんだけ頭の初動が遅いねん)
「間違いです」
「……すみませんでした」
この間、3分ほどでしょうか。切ったあと電話に向かって、
「絶対モテへんわ、コイツ」と悪態をつき、そやつの不幸を願ったわたしに、一切罪はありません。
わたしに向かっていたもっとも忌まわしきベクトルは、こんなアホな男が合コンをしていたということでしょう。アホだから休日の早朝に電話番号を間違え、アホだから電話の相手(=わたし)に無駄な時間を取らせたのです。
何より、電話番号は単に間違えただけでしょうか。合コン相手の女性にわざと違う番号を教えられたのではないでしょうか、だってアホだから。アホだから。アホだから。
あ~あ、アホと話すの疲れるわ、まったく。
相手の女性の名前を聞くというのは、もちろん選択肢にありましたが、一刻も早く会話を終了させたかったので、間違い電話を掛けてきたアホの名前を聞くことにしました。(女性の名前を言えと要求すると、会話がこじれそうだと判断したためです)結果的に、女性の名前をアホが言ったので、アホの名前は記憶に残らずに済みました。