↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

抱きしめた、蒼-episode 蒼葉 美月-

作者: ymsktkshi.jp
掲載日:2026/10/23


ある日…

電話が鳴り、生まれ育った町へ戻ることになった。

なぜ戻ることになったかって?


それは、その…お世話になった方が亡くなって、線香をあげに行くためだよ。


『よ! 美月、あの施設の食堂のおばちゃん亡くなったらしいんだ。だからさ、俺の代わりに葬式に出てきてくれよ』


『別にいいけど、いつ?』


『今週の土曜』


『ちょうど休みだから、行ってくるよ』


『そうか、施設の人たちもお前が来てくれたら喜ぶよ。ありがとな』


『うん。』


『それと…』


俺と兄貴はさ、まだ小さなころに親が死んで身寄りもなくて、施設へ預けられたんだ。お世話になった方って、そこの食堂のおばちゃんのこと。


「人間は腹をすかせていたらダメ! お腹いーっぱい食べて外に出ていくのよ。満たされた心の器は、きっと素敵な未来を選択させてくれるから」


って、よく言ってたな。

高校を卒業して、大学は兄貴が学費を出してくれたから大阪へ。

就職はなんとなく東京へ。

故郷を列車で離れるたびに少し大人になれた気がした。


夢は、たぶんあったと思う。

でも、もう捨てた。


最近は仕事に追われ、会社と家の往復で全然帰っていなかった。

だからこの機会に、何年ぶりかに列車に乗って帰郷することにした。


新幹線を最寄り駅で降り、施設までは各駅停車。1時間に1本しかない列車に乗り、その不便さも懐かしく思いながら窓際の席に座った。


ポケットからイヤホンを取り出した。

急に聴きたくなった兄貴といつも一緒に聴いていた曲。


兄貴はちゃんと夢を叶えて指揮者になった。


列車が走り出すと、昔の記憶が次々と蘇ってくる。


あの駅から乗ってくる女の子をナンパした。

「は?どこがいいんだよ」ってまわりから笑われたな。


この駅から乗ってきた奴とはケンカもした。

「弱いくせに」って肩を叩かれて慰められたな。


晴れ渡った空の下、川が流れ、山がそびえ変わらない風景を窓から眺めているうちに、鼓動が速くなり始めた。


何でもできると思っていた。


何にでもなれると思っていた。


窓に映っているのは変わってしまった、ぼやけた自分。


やがて…列車は…トンネルに入った。


暗い窓に映った顔は、はっきりとした自分。


美月はハッとした。

あの頃の瞳を輝かせた顔が…まだそこにいた。



施設に立ち寄り、おばちゃんがよく作ってくれたオムライスのレシピをもらった。


「これ、これー。」



その夜、マンションへ戻り、また明日からクソ忙しいだけの毎日が始まる。


でも、その前に…


おばちゃんのレシピを見ながらオムライスを作った。


そして、お腹いーっぱい食べた。



翌日…


俺は音楽教師の採用試験を受けることにした。





『それと…な… 来月、子供が産まれるんだ』


『そっか、おめでとう』


『名前はもう決めてあるんだ』


『なんて名前にすんの』




『未來』



完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。