2 よく似た少女
家を飛び出して村を走る。憧れの兵士達が来るかもしれないんだ。少しでも強くなってお墨付きを貰いたい。守れる力があると証明したい。俺はその思いで、いつもの修行場へと向かっていた。
「おう、ティオ!朝早くから鍛錬か?」
「ガルさん!うん、そんなとこ!」
近所のガルさんが声を掛けてきた。還暦が過ぎて仕事を引退した元大工のおじさんだ。現在は家で野菜を作るのが趣味らしい。朝の準備運動中だったのだろう。俺はその場で駆け足をしながら返事をした。
「殊勝なこったな!ほらよ!」
おじさんがトマトを投げてきて、俺はそれをキャッチした。
「ウチで採れた野菜だ!弁当代わりに食ってくれ!」
トマトは正直あんまり好きじゃないけど、くれた好意はすごく嬉しい。
「ありがとう!行ってきます!」
そう言って俺はその場を後にする。その後も色んな人に声を掛けられた。
「あら、ティオじゃない。朝からお出かけ?」
「ティオじゃねーか。まさか朝から鍛錬か?だるくねーか?」
「ティオー!たんれんがんばってねー!」
パン屋のルルエおばさん、鍛冶屋の息子のセス、家のお手伝い中のエミちゃん。その他にも何人かに声を掛けられた。みんな朝早いし、みんな良い人だ。やっぱり、いつもの修行場に行くまでのこの時間が好きだ。いつも元気を貰える。
俺は走った。みんなの応援が嬉しくて、足が弾むように、まるでスキップするかのような感覚で、とにかく走った。兵士に良いとこ見せたいとか、早く鍛錬したいとか、そういうのは今は忘れてて、みんなの応援が嬉し過ぎて、とにかく走りまくった。
「走り過ぎちゃったな……」
気付くと俺は、村の近くにある森の奥の方まで行ってしまっていた。いつもの修行場とは、ここリリルエの森の事ではあるのだが、普段はもっと森の入り口近くで鍛錬しており、こんな奥深くまでは行かない。完全に興奮し過ぎた。元々あった”兵士が来るかも”という事により生じた興奮と、”みんなの応援”による興奮による相乗効果だろう。多分、走ってる時すごい顔してたと思う。
「まぁいいか。ここで鍛錬しよう」
俺は、ガルさんから貰ったトマトを近くにある岩の上に置いて、槍を両手に構えて鍛錬を開始した。
突き、払い、守り、といった槍の基本的な動作に加えて、あらゆる状況に対応できるように、色々な構えも試した。村では槍を教えてくれる人がいなかったから、鍛錬は全部自己流でやってる。
鍛錬を始めたばかりの頃は何もかもが覚束なくて、昔は村の空き地で鍛錬をしていたんだけど、よく勢い余って村の物を壊しちゃって、それで今は、森で鍛錬するようになったって訳。
鍛錬を始めてから一時間ぐらい経過した所で、少しお腹が空いた。森のこんな奥まで走ったからか、お腹の減りも早かった。それで、少し早いけどガルさんから貰ったトマトを食べようと、トマトを置いた岩の方を見てみると……カラスがトマトをついばんでいた。
「俺のトマトー!」
俺が叫ぶとカラスはトマトを足で掴んで飛んで行った。
「あっ!おい、待てー!」
飛んで行くカラスを俺は追いかけた。何でカラスってみんなこうなんだ。フリンも俺の食事を盗み食いした事あったし、お腹が空いてても人の物は取っちゃダメだろ!畜生!折角ガルさんから貰ったトマト!別に好きではないけど好意でくれて嬉しかったトマト!絶対に取り返す!そう思い、俺は更に足を回転させ、全身全霊で走った。
「それにしても、随分遠くまで飛ぶな…そんなに取り返されたくないのか?」
そう言った直後、カラスは俺の方をチラッと見た。何だか小バカにされてる気がする。以前、ルルエおばさんから貰ったパイを、フリンとどっちが多く食べるかを駆けっこで決めた際、フリンにリードされた時アイツに、今みたいにチラッと見られた事がある。最も、その時の顔はもっとムカつく顔だったけど。
そんな事を考えていると、カラスは何故か飛ぶ速度を緩めた。そして徐々に飛ぶ高度を下げて行き、ついには、俺の頭ぐらいの高さで飛びながら止まり、目前の地面を見つめた。
俺はカラスにつられて走るのを止めた。このカラスどうしたんだ?と思い、カラスの見ている方を見やると、そこには長い黒髪の少女が倒れていた。
「あれは!」
俺は声を上げる。何でこんな所に女の子が……?すると、カラスは俺の方をチラっと見た後、トマトをその場に置いて飛び去っていった。もしかして、あのカラスは俺をこの女の子の所に案内したかったのか?
「いや、それよりも!」
俺は女の子に駆け寄った。こんな森の奥に女の子一人なんて普通じゃない。もしも熱や怪我があったら大変だ。早く村に連れて行かないと!そう思い、女の子を見た……が、何か、懐かしい感じがする。
「あれ?この子……何処かで……?」
そう、何処かで見た事がある。何かとても懐かしいような、そんな感じがする。記憶を巡らせる。今までの思い出、今までの出来事、その中にこの子はいたのか。何故か大事な事である気がするから。だけど、見つからない。俺の中に、この子はいない。
「いや、違う……もしかして、この子は……」
「助けて!」そう、頭の中で響いた。思い出にない、出来事として経験もしていない。だけど、確かに知っている。何度も見た事がある。何度も聞いた事がある。何度も助けを求められて、何度も手を伸ばして届かなかったあの……
「夢のあの子に……似ている……」




