1 夢から覚めて
ここは何処だ? 目を開けると俺は、オレンジ色の液体でいっぱいになっている透明な筒の中にいた。筒の外側には、白衣を着たニヤニヤした顔のおじさん達が俺を見ていて、「実験は成功だ!」だとか訳の分からない事を口にしている。
首を動かして辺りを見てみる。置いてあるのはどれもこれも、よくわからない物ばかりで、壁にはこの部屋に似つかわしくない沢山の足のある馬に跨った槍を持ったおじさんの絵が飾ってあった。
次に自分の身体を見た。俺は身体が小さくて何も着ておらず、右手には変わった紋章のような痣?があって、それを眺めていると不思議な気持ちになった。
最後に左右を見てみると、俺が入っているのと同じ筒が幾つか並んでいて、オレンジ色の液体も入っていた。だけど、俺みたいな形をした人は入っていなかった。白衣のおじさん達は「他は失敗したが一人いれば十分だ」とも言っている。他?俺の他にもいたって意味の他?
少なくとも分かる。俺は、外のおじさん達とは違う。全く違う存在だという事が感覚で分かる。だからなのか?俺の他に誰もいないと知った時、物凄く胸の奥が苦しくなって、俺の中の何かが爆発しそうになった。
おじさん達が急に慌てだした。「早く鎮静剤を!」と言っている。なんだか段々と眠くなってきた。眠るのは嫌だな……なんで嫌何だろう?何故かとても嫌な感じがして、そのまま眠ってしまった。
次に目を開けると、そこは戦場だった。目の前には沢山の巨人がいた。ちなみに、巨人って言ったけど、身体が鉄みたいなので出来てる。
巨人達は俺の方へ歩いてきてる。俺の右手には槍が握られていて、丁度いいから巨人達の方に投げてみた。すると、巨人達は跡形もなく消し飛んでいって、投げた槍は俺の手元に戻ってきた。
俺はなんとなく、同じ事を何度もやった。楽しくはなかった。だけどこうする事で、俺の胸の中の苦しいのが無くなると思った。だから何度もやった。
そうしていると頭の中に「もう止めて!」って声が響いた。何だかとても懐かしく感じる声。それを聞くと頭痛がして、胸もどんどん苦しくなっていって、痛みと苦しみが限界にまで達した時、プツンと意識が途絶えた。
次に目を開けたら、女の子が怪しい男達に連れ去られようとしてた。女の子は俺に「助けて!」と言って手を伸ばしている。俺は、何故だか助けなきゃいけないと思った。それで、動こうとしたが足が動かなかった。
女の子が遠くへ行ってしまう。俺は必死に手を伸ばしたけど、手が届く事はなかった。俺は、すごく、すごく、悲しくなった。
「また、この夢か」
目を覚ますと俺はそう口にしていた。
ベッドから降りて、俺はいつも通り朝のごく普通のルーティンを始める。歯磨き、朝食、着替え、その他もろもろ。妙な夢ではあるが、この夢を見るのは初めてではない。
知らない場所、知らない景色、知らない人達、俺の知らないモノが表れるそんな夢。定期的に、あと少しで忘れそうって時に決まって見る。まるで「忘れるな」って言われてるみたいに。忘れるも何も俺に昔の記憶なんて無いのに。
しかし、あの夢は見るたびに気にしてしまう。特に夢の最後、俺に「助けて!」と言った女の子。あの子はどうなってしまったのか、手を取ろうとしたけど手が届かなかったあの子。夢はいつもここで終わるから、毎度の事もどかしくなってしまう。もしも、手が届いたら……そう考えてしまう。
そうしていると、窓側からコンコンと音がした。その方を見てみるとカラスが窓をクチバシでつついていた。どうやらお帰りのようだ。窓を開けるとカラスが入って来た。
「遅ーよティオ、とうとう締め出されたのかと思っちまったぜ」
「ごめん、少し考え事をしてたんだ。おやつに木の実があるから、それで機嫌直してよ」
「そうか、なら許す」
このカラスの名前はフリン。俺がここリーン村に来たばかりの時に、リリルエの森で傷ついていた所を見つけて、家で看病していたらそのまま居ついたよく喋る同居人だ。何で喋れるのかは知らない。フリン曰く誰にも言えない秘密らしい。その事について何度も聞いてみたけど、一度も口を割らなかった。お喋りな性格だけど、見かけによらず意外と口は堅いようだ。
「それで、夜の散歩はどうだった?」
「ああ、今日は隣町まで行ってきたぜ。もう羽がクタクタだ」
「隣町!もしかしてイガノーか?どんな所だった?」
隣町と聞いて興味深々に聞く。この村は好きだけど娯楽が少ない。故にフリンの話をいつも楽しみにしているが、隣町と言えばイガノー。イガノーと言えば都会だ。面白い物もここ以上にあるだろうし当然気になる。
「あ?別にここと変わんねえぞ。人間がいて、建物があって、そんなもんだろ」
「あ……そう……」
落胆する。忘れていたが、フリンは人や人の作った物には興味を示さないんだった。
「あーでも、ここにはいない変な人間達はいたな。鎧を着てて、腰に剣をぶら下げてて。兵士って奴か?お前が好きな」
「兵士!いたのか!?」
兵士という単語を聞いて、俺はフリンに詰め寄る。
「お、おう、結構な数いたぞ。多分、エリアスんとこのだと思う。そこらにいた人間達の話では城の近くを移動しているらしいぜ。何でかは知らんが、ここにも来るんじゃないか?」
「本当か!」
落胆していた気分が高揚するのを感じる。兵士が来るだって!?国を守り、国民を守る皆の英雄が!?引き気味のフリンを気にせず、俺は思う存分興奮した。だって兵士が来るんだぞ!?こうしちゃいられない!
俺はボロボロのクローゼットにしまってあるお手製の木の槍を手に取り、玄関に向かう。
「おい、まだ朝っぱらだぞ!どこ行く気だ!」
「兵士が来るんだぞ、だらしない姿は見せたくない。ちょっと鍛錬してくる!」
そう言って俺は興奮による情熱に身を委ねて、玄関から外へ駆け出していった。




