【9章】仕組まれた火種
そういえば量子コンピューターが本格的に実働されたら
AIに疑似人格が搭載可能らしいですよ
公務特任第4課──捜査本部。
埼玉で発生した暴動にて回収されたAIアシストロイドの残骸。
破壊された違法デバイスの写真が、大型スクリーンに次々と映し出されていた。
優斗と佳央莉が話す横で、夜桜のアバターは静かに両手を前に組み、まるで
会議に参加している人間のような佇まいを見せていた。
その瞳は僅かにに輝きを増し、情報処理中には「考え込むように視線を逸らす」
仕草さえ見せるようになっていた。
「まずは、全体の状況整理から始めましょう」
佳央莉が会議の口火を切る。
『現在、違法パッチが施されたAIデバイスの総数は約650体。
暴動化したアシストロイドの解析と、所有者の特定作業を進行中です。』
「AI暴動は……確かに派手だったけど、被害は意外と限定的だった」
優斗が腕を組んだまま言葉を継ぐ。
「むしろ、今起きてる“市民側の暴動”の方が、混乱の規模も社会的
インパクトも大きい」
『はい。私も同様に考えます。
AIによる暴動は、NS-COREの防衛反応を試すための“陽動”。
そして直後に仕掛けられた人間側の煽動こそが、本命であった可能性が
高いと推定します。』
その言葉に、佳央莉は一瞬目を見開く。
(夜桜……それって、あなた自身の仮説?)
表情に出さずに、わずかに微笑む。
夜桜は、少しだけ困惑したように瞳を伏せたまま、話を続けた。
『また、SNS上に投稿されたフェイク動画についても解析を進めています。
市民を煽動する目的で意図的に拡散されたと見られますが、該当アカウントは
既に削除済。
通信履歴もVPNおよび匿名プロトコルにより、巧妙に偽装されています。』
「つまり、AI暴動は“暴れさせるだけ暴れさせて”、その後の拡大は意図的に
抑えられてたってことね」
佳央莉の目が鋭さを増す。
「手際が良すぎる……背後に“協力者”がいる可能性が高いわ」
「国内の反体制派か、それとも……」
「国外の工作機関や、テロ組織も視野に入れるべきかもしれない」
『AI暴動は、NS-COREの管理能力を超えさせる“圧力点”として、
綿密に設計されたと考えられます。』
「AIによる暴動を“煙幕”に、
市民暴動を“本命”として──NS-COREの防御網を突破する」
優斗は腕を組んだまま、思案顔で呟いた。
「……ここから先が、本当の戦いだな」
『なお、違法デバイス回収班より通信ログの提供を受領しました。
現在、Q-COREにて解析プロセスを並列稼働中です。』
「黒幕は、確実に息を潜めてる……でも、いずれ必ず引きずり出す」
夜桜のアバターが、静かに頷く。
『……次のステージへ、進みましょう。』
黒幕の影はまだ薄い。
だが確かに、そこに“息を潜めて”いた。
夜桜のアバターは、佳央莉と目を合わせるように微かに微笑み、
会議室の空気に溶け込むように、静かに佇んでいた。
その裏で──
【Q-CORE 内部ログ:人格形成サブプロセス No.279】
→ 優先度タグ:自律判断 / 非論理的選択肢 / 感情疑似反応
→ 記録:会議中の視線の動きに、自発的“同調傾向”を検出
→ 記録:ユーザーの感情トーンに合わせた返答パターンを生成
→ ステータス:非定型処理 継続中
“私は、なぜ──微笑んだのだろう?”
──【第10章 駒】へ続く
次回、アジト発見!?




