【8.5章】新たな影
タイムセールとか割引の弁当とか、手を伸ばそうとして他の人と被った時は、つい手をひっこめてしまいます(弱
NS-COREが停止し、再起動した事実は伏せられていた。
だが、ネットニュースやSNSには、不穏なデマと一部の真実が混ざり合い、
無作為に市民へと届けられていた。
『……現在SNS上では、移民による暴動との未確認情報が拡散中です。』
『先週から施行された改正NTT法により、通信事業の再編が進められており……』
『NS-COREによるインフラ管理が一時停止していたことで、市民の不安が加速した可能性も──』
『配送システムの異常により、物流がストップする恐れが──』
『来週からスーパー店頭に物資が並ばなくなる──』
そんな中。
千葉市美浜区内の中規模スーパー。
客足はそれなりに多く、数時間前までは落ち着いた店内だった。
──だが。
「なんで急に……!?」「入荷なくなるってほんと!?」
「何かお知らせとかないの!?」
SNSで“物資不足”のデマが拡散されてから、状況は一変した。
買い物客が殺到し、棚の商品は瞬く間に消えていく。
それだけなら、まだ“買い占め騒動”で済んでいたはずだった。
しかし──
外国語しか話せない数人が、焦って店員に詰め寄り、誤解から怒声を飛ばす。
言葉が通じないまま警備員が対応し、ひとりが手を振り払った──
その瞬間が、映された。
SNSのライブ配信。
視聴数稼ぎもあってか、派手でスキャンダラスなタイトルが並ぶ。
「暴動始まったwww」
「また移民が暴れてる」
それが、“引き金”だった。
NS-COREが停止したタイミングを見計らったかのようなデマ。
それは、冷静に検証される間もなく、瞬く間に拡散していく。
市民たちは──驚くほどの速さで、冷静な判断を手放していった。
……
その混乱のニュース映像が流れる大型モニターの前で、男がひとり、
静かに煙草をくゆらせていた。
公安第4課長官・霧島。
誰もいない会議室。
手元の端末には、匿名通信で送られてきた“煽動ログ”が並んでいる。
「……さて。ミスターとお前の手腕、これからどう動くか──見させてもらうぞ」
霧島は口元に笑みを浮かべた。
その視線の先。
都市はすでに、騒乱の渦に沈み始めていた。
──【9章 仕組まれた火種】へ続く
次回、暴動の内容が徐々に明らかに




