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【46章】─進化する機械に揺らぎと花束を─

──数日後


西都国立大学付属病院・中庭



夕陽が綺麗に輝く夕方。

優斗はリハビリ訓練後、中庭のベンチに腰掛け、静かに休んでいた。

右目の義眼はすでに日常に馴染み、頭と左腕の包帯も取れている。


夜桜が義体Mk.Ⅱの姿で優斗に駆け寄ってきた。



『優斗さーん、買ってきましたよー。』



「おぉ、悪いな」



夜桜も優斗の横に座る。



『もう……《喉乾いたなー……夜桜、水買ってきてよ》とか思考で伝えるの

やめてくださいっ。』



「これ、めっちゃ便利だな(笑)」



『そういう使い方するために手術したんじゃないんですからねっ!』



夜桜が不機嫌そうに話してるように見えるが、回復してきている様子を見て

喜んでいることが、優斗にはしっかり思考で伝わっている。






そんなおだやかな二人の前に



「……お邪魔していいかしら?」



「もちろんです、夕子さん」



霧島の妻、夕子が現れた。



「お久しぶりですね、具合はどうですか?」



「ええ、最近は調子も悪くないの」



「それはよかった……」



「神代さんは、大変だったみたいね」



「いえ、これくらいなんとも」



夕子との間に少しの静寂が訪れる。





やがて夕子は話を切り出した



「……あの人(霧島)には会ったのかしら?」



「……はい」



「そう……最後は……立派に旅立てたのかしら」



「はい。最後は自らケジメをつけていました。もっと他の方法で

つけてほしかったのですが……」



俯き加減だった優斗は顔を上げ、はっきりと告げた。



「霧島長官は──立派な最後でした」



優斗の目に光るもの見つけた夕子は、気遣うように続けた。



「あの人ね……神代さんがこちらに見える前に来てたのよ」



「そうでしたか……」



「それでね……私に言ってきたの。

《今まで済まなかった。ありがとう》ってね。

それで分かったの。ああ、この人はもう覚悟を決めたんだ、って」



「そんな……」



「だからね──神代さんが気に病むことはないのよ」



夕子は遠くを見つめながら優斗に優しく語り掛けた。



「長官は──霧島さんは最後に……夕子さんの名前を呼んでいました」




夕子の顔が一瞬強張る。



「そう……そうでしたか……」



夕子は嬉し泣きのような表情を優斗に向け、手元のハンカチで

そっと目頭を押さえた。


その仕草を、優斗も夜桜も黙って見守る。



やがて夕子は、少し笑みを取り戻して立ち上がった。



「……ありがとう、神代さん。あなたも、どうか無理をなさらないで」



「はい……ありがとうございます」





夕子が去っていく背中を見送りながら、夜桜が小さく囁く。



『……あの方も、きっと霧島さんと同じで……あなたを信じています。』



優斗は静かに頷き、静かに立ち上がった。



「──行こう、夜桜」



『はい、優斗さん。』



夜桜は、立ち上がった優斗の横顔をそっと見つめる。

その鼻梁には、いつも優斗が大事そうにしている細身の赤いメガネが

掛かっていた。



『……メガネ……』



夜桜の中に、ごく自然に“情報解析”が流れ込む。

優斗の記憶──過去の風景──彼が、誰かと過ごした日々。

“その人”が、同じ形のメガネをかけていた。


……夜桜は、それ以上、何も言わなかった。

優斗の横顔には、あの時と同じ、どこか遠くを見据える光が宿っていたから。



──



すっかり陽も落ち、夜の帳が降りた病院の屋上。

眼下には幾千もの光が波間に揺れ、星の光も夜空に煌めいていた。


優斗と夜桜は、並んで東京湾の灯りを眺めている。

あの時と変わらぬ夜だったが──吹き抜ける風だけが

確かに優しくなっていた。



『この風景を……私たち、守れたんですね。』



「ああ。だけど、まだ終わりじゃない」



『はい。私たちには、まだやることが残されています。』



「必ず守る。この風景も、みんなも……

”死課”と呼ばれようが関係ない」



『私も──優斗さんと一緒に。』



優斗は東京湾の向こうを睨み据える。



『で、優斗さん、その花束は?』



「……ああ、これはさっき″お礼”ってことで夕子さんからもらった」



『そうなんですね。』



「もらったのは俺だけど……これはみんなに、

そして──これから俺たちが守っていく”誰か"にも」



夜桜は風に髪を揺らしながら、柔らかく微笑んだ。



『……はい。』



「真壁……必ずお前を──止めてみせる」



今は嵐の前の静けさ──その静けさを守り抜くと、優斗は固く誓った。




牙を授かりし者たちの詩 ─進化する機械に揺らぎと花束を─

暴動編


――完――

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