【43章】偽りの守護神
原潜ひのもと・観音崎灯台下
優斗たちが本拠地脱出に成功した頃、ひのもとは気づかれることなく
観音崎灯台下まで進行していた。
「三笠の時間稼ぎは成功のようだな……
よし──ハープーン発射。目標、海神」
『了解。UGM-84ハープーン、魚雷発射管より装填開始。
目標第三海堡跡、海神。』
真壁は艦長席に深く腰を沈める。背後のターミナルが淡く点灯していた。
ただ機器の駆動音と、AI《天照》の応答音だけが響く。
──
第4課・管制ルーム
「今度はなに!?」
優斗を搬送中の夜桜が異変をキャッチしていた。
『観音崎灯台付近に単艦艦影あり。これは……未登録潜水艦のようです。
識別不能。』
「次から次に……また真壁ね……」
佳央莉は観音崎灯台のカメラを素早くジャック、周辺を注意深く見渡す。
「このあたりよね……倍率変更、っと──
──!?なにあれ!……まさか軍用潜水艦!?」
佳央莉は慌てて海神を起動した。
「なんであんなものが出て来るのよ……」
──
原潜ひのもと・管制室
『ハープーン魚雷発射管装填完了。発射シーケンスに移行します。』
真壁の眼鏡に光が反射する。
その口元に、ふっと笑みが浮かぶ。
「私の最高傑作だった……だが、敵の手に渡すくらいなら。
──“神”にも、弔いは必要だろう」
──
第4課・管制ルーム
「海神チャージ30秒完了、威嚇になればいいわ。
照準合わせ、正確さは後回し!速さで勝負よ!」
──
原潜ひのもと・管制室
『ハープーンミサイル発射チューブ加圧──
燃焼剤安定──安全ロック解除。
ハープーンロックオン完了。発射許可待ちです。』
真壁はすかさず指示を下す。
「撃て──」
──ゴゥン……
──バシュウウウッ!!
亜音速ミサイル”ハープーン”が魚雷発射管から発射された。
その“鋼の死神”は、水面を切り裂き低空で海神へ向け一直線に進む。
──
第4課・管制ルーム
「先に撃たれた!?こっちも発射よ!」
──ドゴオォォォ
海神からもチャージ30秒に短縮された砲撃が放たれた。
「真壁のやつ……ハープーンなんかどこから……!
海神への到達時間、15秒後!」
──
原潜ひのもと・管制室
「フッ……光学迷彩開始。同時に急速潜航」
『了解。光学迷彩、急速潜航共に開始。』
ひのもとは一瞬で姿を消した。同時に水中へ潜航を開始する。
「よし、次は……」
次の標的を第三海堡遺構に設定し、トマホークを叩きこもうと画策するはず
だったが──
──
第4課・管制ルーム
「消えた!?」
佳央莉はひのもとが一瞬で消えるのを目撃していた。
「光学迷彩……真壁の技術力じゃ、あんなもの造れないはず……」
佳央莉が呟くと同時にひのもとから放たれたハープーンが海神に
到達、砲台底部から爆発を起こした。海面が火柱に包まれ、施設全体が
一瞬で沈黙した。
一方、海神からの威嚇射撃は明後日の方向へ飛翔していった。
紅蓮の炎となり、燃え滾る火柱となった海神を、佳央莉はモニターで越しに
見つめる事しかできなかった。
その炎は、夜空を押し返すように立ち上り、やがて崩れるように海面へと
吸い込まれていく。
「今回は、してやられたわね……」
砲台の輪郭が海の闇に溶けていくと、管制室には冷却ファンの低い唸りと
機器が時折吐く短い電子音だけが残った。
──
原潜ひのもと・管制室
「キャッチされた…あの大佐め、余計なことを…」
真壁は天照を通じて、ひのもとが何者かに存在をキャッチされたことに
気づいた。
「ここまでか。現海域を離脱、外洋へ向けて出航」
『了解。ひのもと外洋へ向けて出航。』
真壁は艦長席へ座り直す。
「今回は私の負けだ……しかし!Project Mは……私の合理は終わってはいない!
そして……
神代優斗を葬れたか、この目で確かめられないのが心残りだが、
公特第4課……必ずこの手で叩き潰す!」
──
──真壁の原潜“ひのもと”が、光学迷彩で海中へと消えた。
モニターには、何も映らない。
ただ、遠くで波が崩れる音がマイクに拾われ、かすかにスピーカーから漏れていた。
佳央莉はしばらく、穏やかに月明りを反射する海を画面越しに見つめていた。
爆炎の余熱がまだ残るような気がする。
――そんな錯覚の中で
やがて、誰に言うでもなく──ぽつりと呟く。
「……私たち──あんなのと戦って……勝てるの?」
その声には、皮肉も、怒りもなかった。
ただ、圧倒的な戦力差を見せつけられた“現実”だけが、そこにあった。
──【44章 目覚めたら】へ続く




