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【41章】港湾砲撃戦 ―近代化亡霊vs科学―

──ヴヴヴヴヴ……


不気味な重低音が、記念艦《三笠》から立ち上がる。

船首、船尾甲板上に鎮座する新たに追加された二基のレールガンが、

ゆっくりと目を覚ます。

真夜中の三笠公園。潮風はぬるく、月の光だけが甲板を撫でている。


「熱源反応!?」


佳央莉は即座に動きを捉え、息を詰める。



「──予想より早い……!?こちらも急速チャージ30秒開始!」



レールガン自動照準システムが第三海堡遺構へ向けて、無感情に

規則正しく2基同時に首を振り始める。



──ギュイィィィ……カチッ

──ギュイィィィ……カチッ



レールガンが、機械的な音と共に動き出した。

甲板下の金属が軋む音が、不気味に響く。


AI照準システムが第三海堡遺構を捉えた瞬間、レンズが赤く点滅し、

まるで心臓の鼓動が早まるように、徐々に速くなる。

点滅は三笠の甲板を照らしながらカウントダウンのように徐々に早くなり──


光がフッと消えた。



──ズゥゥゥゥン……ッッッ!!



腹に響く衝撃音と共に2発のレールガンが火を噴いた。

公園の噴水に円を描く波紋が広がる。

マッハ4で飛翔する砲弾が吾妻島をわずかに掠め、海面を揺らしながら

闇を切り裂く。



肉眼ではほぼ、追うことは叶わない速度で第三海堡遺構へ向け、真っ直ぐに

光の尾が走る。



──バゴオオォォォン

──バゴオオォォォン



着弾した砲弾は第三海堡遺構上にある構造物のひとつ、探照灯を突き破り、

地中深く突き刺さった。地面が盛り上がり、コンクリートの粉塵が月明かりに

白く舞った。

遺構周辺を囲うフェンスが衝撃で倒される。



「周辺の被害状況は!?」



予めハックしておいた市設防災カメラで遺構周りをチェックする。



「被害なし……海風が弱かったのが幸いして一直線に行ってくれたか。

やっぱり真壁のシステムもまだまだね……」


唇にかすかな笑みを浮かべ、佳央莉は視線を鋭くした。


「──今度はこっちの番!」



佳央莉の手により、第三海堡跡の海神(わだつみ)が再び動き出す。



──グゥオオオオオオオン……



前回同様、不気味な起動音と共に再チャージに入った。

第一砲塔はクールダウン中のため、第二砲塔が起動している。



『照準誤差±0.03──風速補正済み、射線安定──撃てます。』



夜桜から声がかかる。



「チャージ完了、照準合わせよし。目標、記念艦三笠船首レールガン」



海神のレールガンは出力を落としマッハ2で射出される。



吐息のような一瞬の静けさを挟んで――

「──発射(ファイア)!」



──ドゴオォォォ



海神から放たれた砲弾が一直線に三笠の甲板へ飛翔する。


夜桜が弾き出した正確無比な計算により砲弾は軌道を逸れることなく

三笠甲板上の船首レールガンへ吸い込まれるように着弾した。



──グシャアァァァァ



三笠公園に金属の悲鳴が走る。

鼻を刺すような焦げた匂いが潮風に混ざり、船首レールガンが激しく変形し、

砲台が鉄の塊に変わった。


佳央莉は一時的に緊張が解け、すかさず喉を鳴らす。


「上手くいってよかった……

よし次、船尾レールガン!」



三笠は着弾の衝撃で自動照準システムAIが再照準に入り、しばし動きを止める。

即座に砲撃が出来ない。



「クールダウン省略、チャージ30秒、照準合わせ」



海神の第二砲塔がチャージを再開する。



──グゥオオオオオオオン……



息つく暇もないが、周囲に被害が及ぶ前に三笠を止めなければならない。


「チャージ完了、照準合わせよし。目標、記念艦三笠船尾レールガン!」


夜桜の計算が間違う確率は限りなく低いが、実際の結果はそう簡単ではない。


「──発射(ファイア)!」



──ドゴオォォォ



どこか祈るような気持ちで佳央莉は2射目を発射した。


1射目と同じように闇と海面を切り裂き、砲弾が駆け抜ける。


2射目も正確なピンポイント射撃が三笠甲板上のレールガンを襲う。

砲弾はレールガンを寸分違わず貫き、着弾音が公園に響き渡った。



──グシャアァァァァ



船尾レールガンも溶けた金属の塊と化し、原型を留めないほど変形した。


記念艦《三笠》は攻撃能力を完全に削がれた。

船首・船尾から煙が立ち上ってはいるが、艦自体に重大な損傷はない。


「三笠沈黙……」


『三笠周辺状況確認……被害なし。』



夜桜と佳央莉の完璧な計算と砲撃により、三笠は完全に沈黙した。



『やりましたね佳央莉さん!』



「ふぅ……計算通り上手くいったわね、夜桜……」



専用デバイスの小さなモニターで、様子を見ていた優斗も舌を巻いた。



「この“二人”敵じゃなくてよかった……こんな戦い、今の俺じゃ無理だ……」


その事実が、胸の奥に小さな棘のように残った。



──静まり返った海に、何事もなかったように月が映し出されている。

公園には砲撃の余韻だけが漂っていた。船首と船尾から立ち上る硝煙は

潮風に千切られながら──月明かりの中に溶けて行った。




──【42章 暗転】へ続く


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