【39章】冷徹
真壁本拠地・地下4階。
優斗と夜桜は脱出を開始した──はずだった。
「……なぁ、これ動くんじゃなかったっけ?」
『だって……エレベーターが引っかかってるなんて……
思わないじゃないですか……』
中学生ほどの義体に戻っていた夜桜は、不満そうに頬を膨らませる。
扉は開いた。
扉こそ開いたが、崩落の影響でエレベーターは地下3階までしか上がらず──
さらに悪いことに、その停止した箱が真壁の逃走経路を塞いでいた。
「崩落した瓦礫が、上昇途中のシャフトに詰まってんだな……
夜桜、これちゃっちゃとふっ飛ばしてよ」
『ここでそんなことしたら二人とも無事じゃ済まないですよっ!』
「じゃあ、これに穴開けて通れるように出来る?」
『……まあ、それしかないですね。
優斗さん、ちょっと下がっててください。』
夜桜は左腕からSAKURA-BLADEを取り出し、腰を落としながら
跳躍の姿勢を取る。
ほんの一瞬だけ、瞳に優斗の姿を映しながら
『──行きます。』
次の瞬間──夜桜の姿は風のように舞い、鋭く静かに壁を穿った。
──
葉山港・地下水路出口。
原潜ひのもとは国の威信をかけて極秘中の極秘裏に猿島の地下ドックで
製造された潜水艦だった。
国の威信をかけたその艦が、真壁の”合理”の手先になり果てている。
真壁は優里亜を原潜”ひのもと”へ移動させ、出港の準備を完了させていた。
「出航したら速度は抑えろ── 《ゲール》が優里亜の容態を安定させるまで
無理は厳禁だ」
『了解。看護用AI 《ゲール》、優里亜様の容態調整──安定まで約30分。』
艦内に響いたのは、搭載型管制AI《天照》の淡々とした音声だった。
『出力安定。各パラメーター正常範囲内。出航可能。』
「このまま観音崎灯台下まで進行。到達と同時に──
第三海堡跡の《海神》に向けてハープーン発射、殲滅開始」
『了解。』
「よし──出航だ。同時に光学迷彩開始」
ひのもとは静かに波をかき分け、滑り出すように出航する。
真壁はここで新たなコントローラーを取り出した。
「……記念艦三笠──レールガン起動。第三海堡遺構に向けて砲撃準備」
記念艦《三笠》を覆っていたシートがするすると降りる。
そして……甲板に現れたのはまたしてもレールガン。
「これで第三海堡遺構に砲撃を仕掛ける。こいつもここで使う予定は
なかったが……
まあ、時間稼ぎくらいにはなるだろう」
真壁は口角を上げてニヤリと笑った。
そして──
胸ポケットから最後のコントローラーを抜き、無造作にスイッチを撫でる。
「本拠地爆破も準備完了──」
真壁は冷徹なオーラを醸し出しながらメガネの右端をつまみ、クイッと
かけ直したあと、カチリ、とスイッチカバーを開く音が艦内に響いた。
「あらゆる証拠は──」
ゆっくりと、真壁の親指が起爆スイッチのボタンを撫でる。
「……隠滅しないとなァ」
再びニヤリと笑った。
──【40章 目覚める亡霊】へ続く




