【38章】神の一撃
JSA即応機動部隊、2個分隊──
総勢20名は埋没した地下3階に辿り着けず立ち往生していた。
「瓦礫が多すぎて、これより下に行けません」
「本部からクレイモアを持って来させてくれ」
「この量の瓦礫では通じないんじゃ…」
「我々が下に降りるだけの穴が開けばいい。下にはまだ我々の救援対象がいる」
「了解」
──
同時刻
真壁アジト地下4階
優斗たちは地下4階に閉じ込められた状態になっていた。
脱出口を捜索しているが、未だに見つかっていない。
「夜桜……まだ見つからないか」
『ごめんなさい、ずっと探知はしていますが…』
優斗は焦りを隠せなかった。左肩は応急処置をしてはいるが、
あまり無理が効かない。
しかし、こうしている間にも真壁は先へ逃走してしまう。
突如、夜桜に緊張が走る。
『佳央莉さん!聞こえますか!』
「──こっちも今捉えたわ…まだあんなものがあったのね」
『どこに撃つ気でしょう…』
「今計算したけど──どうやら第二海堡に撃つみたいね」
『佳央莉さんどうしますか?』
「……まずは第三海堡跡のレールガンを何とかしてみる…」
『佳央莉さん……えっと、第三海堡“遺構”と “跡”ってどっちがどっちか
よくわかんなくて……ややこしいですっ!』
「もう……落ち着きなさい。今なんとかするのは海のど真ん中にある”跡”。
真っ赤っかでしょ」
『たしかに……すごい熱源反応です……!
了解しました!こちらも優斗さんのケガの様子を見ながら脱出急ぎます。』
「優斗くんのクラウンそっちに回すから、無理させないようにね!」
──
第三海堡遺構・指令室。
『第一砲塔射出可能まで120秒。』
「よし、いい子だ……第4課……まずはあの女に目にもの見せてやる……!
私の最高傑作の威力を思い知るがいい!」
海神の砲台は臨界を迎えようとしていた。
──
第4課管制ルーム。
「何これ……第二海堡って、アクアラインの供給電力と同じルートなの…?
しかも……第一海堡まで通じてる!?」
佳央莉は、第三海堡遺構に通じるラインを洗っていた。
その過程で、第二海堡の電力ルートに行き着いた。
「第一海堡に異常なし……第三海堡遺構は……やっぱりあったわね、
横須賀地下電力管制線──」
佳央莉の指先が、一本の地中電力ルートを画面上に走らせる。
「戦後封鎖されたはずの旧軍直結線……この国に“戦後”なんて
永遠に来ないのかもね……」
佳央莉はひとつ溜息をついた。
そして椅子に座り直し、管制ルームのコンソールを再度睨む。
「さて、それが分かれば侵入ルート決定ね」
キーボードを忙しく叩き始めた。
やがて──
「……妙ね。横須賀の地下網に、不自然な電圧変動……」
一瞬の違和感を逃さず、彼女は端末の接続プロトコルを切り替える。
ピッ……ピィィィン──
耳障りな起動音とともに、前方のホログラフ・ユニットが青白く点灯。
佳央莉の操作に応じ、地下海底を走る“旧軍電力マップ”がホログラフに
浮かび上がった。
「……やっぱりね。横須賀、まだ腐ってない部分もあるってこと」
通常の民間回線からは遮断された、旧陸軍時代の極秘系統──。
何十年も前に敷設され、今や歴史の奥深く封じられていた回線を
佳央莉は”発掘”した。
軽く舌なめずりをした佳央莉は妖艶な笑顔を浮かべる。
「このルートが生きてるなら──いけるッ!」
──
第三海堡遺構・指令室。
『第三海堡跡《海神》第一砲塔発射臨界到達。』
真壁は間髪入れず命令を下す。
「撃て──」
海神が真っ白に光った──と同時に
音が、消えた。
水煙が海を覆い尽くし、空が一瞬、音を失った。
──グゥアオオオオオオオオオン……
正に”神の一撃”だった。
東京湾の沖合、第二海堡。
海堡はかつて旧日本軍が東京湾を守るために築いた人工島であり
砲台だった。
そこに隠ぺいされ、新たに構築されていた砲台、巨大レールガン《叢雲》が
突如として光に包まれた。
次の瞬間──
爆音と共に海堡の中央が大きく抉れ、叢雲の砲身は空中高く跳ね上がるように
吹き飛び、発射台は炎の塊となって崩れ落ちた。
──ゴオオオォォォォォン…
白煙とも黒煙ともつかない煙が立ち上り、波しぶきを盛大に吹き上げながら、叢雲は
海面にゆっくりと沈んでいった。
第三海堡跡から発射された大質量の火球は海を切り裂き、叢雲を
完全に葬った。後には火球が切り裂いた海上に白いラインのような
波が残り、第一砲台は紅蓮の炎に包まれたような深紅を纏っていた。
──
第4課・管制ルーム。
「……向こうは間に合わなかったか。でも──こっちはこれで終わりよ!
接続ルート確保、第三海堡遺構──侵入完了!」
佳央莉のキーストロークが、ホログラム上の制御ノードを次々に上書きしていく。
「こっちからバックドア・ループ信号を1パケット、0.5秒おきに送信……
送電コントローラ、応答遅延かける。遅延発生と同時に権限上書き!」
佳央莉がキーを叩く音が鳴り響く。
汗が手のひらと額に滲んできていたが、佳央莉はどこまでも冷静さを失わない。
『システム過負荷──オーバーライド発生!』
──
第三海堡遺構・指令室。
『緊急事態。第三海堡遺構全体のシステムコントロールを奪取されました。』
「何だと!?海神は!?」
『アンコントロール。操作自体不能です。』
「……またか……またあの女に私は負けるのか……化け物め……」
真壁は怒りに燃える目で正面ホログラムパネルを睨む
が──
「フンッ……まあいい。腹は立つがこれも一応想定内だ…まだ“奥の手”は
残してある……ここより離脱する」
手元に握った新たなコントローラーを操作しながら第三海堡遺構から
葉山港へ逃走を開始する。
「ひのもと起動──発進シーケンス15番から3番まで省略、自動航行にて
横須賀下水ルートへ進水開始」
──
第4課・管制ルーム。
「いい子ね、もう眠りなさい」
佳央莉は第三海堡遺構のシステムを全て掌握した。
「さて、お次は……優斗くんたちを外へ導いて差し上げますか!」
──【38.5章 夜明け前】へ続く




