【6章】静かなる侵入
埼玉には大きいデータセンターが実際にあったと記憶してます・・・
埼玉第3エリア──
暴動の混乱に乗じ、闇の作戦が静かに動き出していた。
政府直轄のNS-CORE予備管理データセンター。
その地下施設で、誰にも知られぬまま、別の動きが進行していた。
夜の闇に紛れて、黒い影が防護柵を越える。
高度なハッキングスーツをまとった数名の男たちが、音もなく施設内部へと侵入していく。
「外周監視システム、ハッキング完了。
内部監視カメラ──ダミーフィード注入完了」
「ドローン警備網、誘導完了。“事前情報”通りだ。
セーフティユニットへ急げ」
侵入は完璧だった。
混乱する暴動区域では、もはや通常の監視網は機能停止寸前。
誰ひとりとして、その静かな侵入に気づく者はいなかった。
施設の最奥部──
セーフティ制御室前。分厚い隔壁の前で、リーダー格の男が小型端末を起動する。
「暗号キー照合──内部コード、承認。
進入、許可」
封鎖扉が、低い唸りとともにゆっくりと開いていく。
本来、国家中枢AI《NS-CORE》の最終セーフティは、外部から直接アクセスできない。
解除には、ごく限られた高官レベルの物理認証が必要とされる。
──だが今回は違った。
何者か──政府中枢の“深層”で動く者の手引きにより、内部認証コードが密かに渡されていた。
男たちはその“裏口”を使い、正式なプロトコルに従って、合法的にセーフティを一段階解除していく。
「……よし、成功だ。指示通りだが、思ったよりあっけなかったな」
「俺たちは言われた通りやるだけだ──次のフェーズに入る。撤収する」
男たちは再び闇の中へと消えていった。
その頃──
公安第4課、ブリーフィングルーム。
夜桜の監視モニターが、一瞬だけ微弱な異常値を捉えた。
『……警告:NS-CORE内セーフティ解除処理を一時検出──。』
直後、カウンターコード散布作業を続けていた篠原佳央莉が、その通知を受け取る。
薄暗い部屋。
夜桜のアバターがホログラム画面に浮かぶ。
ポニーテールを揺らしながら、表情には以前よりも微細な動きが宿っていた。
『解析中です。』と返すその直前──一瞬、唇を軽く噛むような仕草さえ見せる。
その様子を見た佳央莉の目元が、ほんのわずかに揺れた。
(……また、人間っぽくなった?)
だが、すぐに表情を引き締めた。
「……またか。夜桜、──ログ詳細を」
『カウンターウイルス散布過程における、内部プロトコルとの交差反応と推測されます。』
佳央莉は、わずかに目を細める。
「誤検知……ね。散布優先で、継続して」
『了解しました。』
──その判断は、今回ばかりはほんのわずかに“外れて”いた。
そして、そのわずかなズレが──
後の重大な事態へと繋がっていくことを、
このときまだ誰も知らない。
──【7章 沈黙する中枢】へ続く
次回、やっぱり中央一か所で集中管理って怖いですよね・・・というお話




