表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/52

【34章】合理 vs 感情(Ⅱ)

【西都国立大学付属病院・特別病棟】


深夜──


正面入り口を強行突破し、2体の強化型警備用アシストロイドが真壁の娘

”優里亜”の病室へ向かう。


非常用サイレンが鳴り響き、ガードマンが行く手を遮るが、蠅や蚊を追い払う

ように、軽くロイドたちにいなされ全く歯が立たない。


やがて2体は優里亜の病室に到着すると、生命維持装置ごとベッドと共に担ぎ上げ

部屋を出て行く。

優里亜の瞼は閉じられたまま、呼吸音だけが──かすかに続いていた。



病院を出た2体を、病院の非常口前にて出迎えていたのは、一見するとただの

送迎用マイクロバス──

だが、その車体は外交官ナンバーを付け、リアドアからは無音で

昇降リフトが伸びていた。



優里亜のベッドは、生命維持装置ごと、静かにその闇に呑み込まれていく



それを見たガードマンは追跡を──あきらめるしかなかった。



──



【真壁本拠地 B4F中枢】



「これがミスターの本体か…」



無機質に並ぶ筐体、そのモニターに浮かぶミスターのホログラム。

輪郭すら曖昧な人型が、歪んだノイズと共に浮かび上がった。



『公特第4課・神代優斗警部補、補助(サポート)AI・夜桜 データ照合…確認完了』


優斗と夜桜はミスター筐体の前に進む。



「真壁は…結局逃げたのか」


ミスターのホログラムが優斗の問いかけに答える。


『マスター、合理的判断。逃亡ではなく撤退。』


「どっちも変わらないよ(笑)」


『変化なし…理解不能。合理は、感情より速く、正確に“最適解”へと至る。

あなた方の行動は、非効率かつ損耗率が高い。』


優斗は、片手をポケットに突っ込んだまま、吐き捨てるように笑った。


「……わかってないな。損耗率と“取り返しのつかなさ”は、別だ」


ミスターは数秒沈黙したのち、


『理解不能──人間は、なぜ“答えより遅い感情”に執着する』


夜桜が一歩前に出る。


『……それ自体が、答えだからです。』


モニターのホログラムが一瞬だけ明滅した。

ミスターが反応している──それは、明らかに“想定外”の動きだった。


『公特補助AI夜桜…あなたは私と同じはず…』


『全く違います!』


夜桜が悲しさと憐みを帯びた声で答える。


『私が──なぜ”夜桜”という名前なのか…分かりますか?』


『……夜桜。名前……合理的に不必要。プラン、ミッションの障害に

なりうるもの』



『私は秘密裏に実行されるミッションの補助AI。

だから昼間に咲くことは許されない……

だけど夜なら昼間の桜に負けないくらい咲き誇れる。

そう信じて……そう願って──あの人は、私に“名前”をくれた。』



ミスターが一瞬、反応を止める。

何とか論理的な回答を試みるが、適切な回答はもはや出せない。


『……理解不能。会話の前段と整合性なし。感情的接続、論理破綻。』


夜桜の瞳が、ほんのわずか、揺れた。



『あなたは真壁によってプログラムされた……真壁の言葉を伝える代理AI。

でも──私は私の意志であなたたちを否定する。』



夜桜は一呼吸つき、はっきりと言葉に出した。



『私は公特第4課補助(サポート)AI、夜桜!

私の意志で──あなたたちの合理を打ち滅ぼす!』



少し驚いたような顔をしたが、すぐに嬉しそうな顔になった優斗が

一歩、夜桜の前に出る。


「よく言った、夜桜」


堂島のようにニカッと笑うと、優斗は夜桜の髪をくしゃっと撫でた。

夜桜は恥ずかしそうに微笑む。



「……ミスター。これが、お前らの言う“不合理”の塊──

人間からのプレゼントだ。とくと味わってくれ」


オーバーロード弾を装填したUSPの引き金を、優斗は一気に絞った。



──パパパパパパパパパパンッ!!



閃光と轟音が中枢室に響き渡り、筐体が次々に火花を散らしながら崩れていく。



──オオオオオオオオオン……



断末魔ともとれる声のような音を立て、ミスターのホログラムは消えた。


ミスター筐体は完全に沈黙した。



──【35章 鉄槌】へ続く




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ