【32章】Be persistent
『零式支援ドローン《カラス》、全機連動──空域制圧開始!』
──シュイィィィィィンッ!!
優斗の背部ユニットが音を立てて展開。
無数の黒翼を模した小型ドローンが、一斉に夜空へ飛び立った。
”八咫烏”をモチーフにした鳥形ドローンは空中を舞うと
夜桜の背後に整列するかのように隊列を組んだ。
その軌跡は、まるで夜空に描かれる黒い輪舞曲だった。
『みんな、行きますよ!
電子戦モード:ジャマー散布/スナイプ誘導/追尾殲滅──
複合動作、並列開始!』
八咫烏ドローンたちは夜桜の合図とともに青い輝きを放った。
敵ドローンがバチバチと火花を上げ、次々に墜落していく。
「まずは、空を黙らせる……!」
優斗のUSP Compactも火を噴く。
正確な射撃と八咫烏ドローンの支援で、敵ドローンは半数以上が撃墜されていく。
『敵中枢アーム群、接近──高出力プラズマカッター、警戒!』
ミスター
『防御低下──第4課戦闘データ展開・修正開始──』
迎撃アーム、展開──
──ズズゥゥゥン!!
中央コアを守るように、4本の超重アームが出現。
先端には白熱するプラズマカッターが点灯していた。
『ミスター統治防衛機構、形態変化──最終迎撃モードへ移行した模様!』
プラズマの光が、空間を切り裂きながら振るわれる。
──ギャアアァァァン!!
「──来るなら来い!」
優斗の跳躍、回転、滑り込み。それに合わせるように夜桜の支援射撃。
しかし──
『!?…優斗さん、支援射撃全弾回避されてます!』
そして優斗も
──ガギィィィィン!!
「……硬すぎだろっ!」
駆動部を狙ってONTARIO GEN IIを挿し込んだはずが、刃が通らない。
「……見ていましたよ、私は。」
真壁がゆっくりと手を広げ、まるで“舞台の幕開け”を告げるように語り始める。
「あなたたちのコンビネーションを解析し、先程のΩシリーズ戦の時の動きも
解析した。
──そのすべてを、ミスターは“糧”にしている。
つまり、この戦場は──あなたたち自身が創り上げた“最悪の敵”というわけです」
彼は笑っていた。
自分の勝利を確信している人間の、揺るぎない笑みだった。
「どうです? 自分の行動に殺される気分は──。」
「そんなもの!」
優斗は再びミスターの足元へ滑り込もうとした──
「がああああああああ!!」
優斗の左肩がミスターのプラズマカッターに薙ぎ払われた。
一瞬で辺りに肉の焦げた匂いがたち込める。
『優斗さん!?』
夜桜の支援射撃はミスターのプラズマカッターを破壊したが、
瞬く間に再生されてしまう。
優斗は夜桜がカッターを破壊している隙に脱出、距離を取った。
「ハァハァ…くそっ…どうする…」
『優斗さん、一旦下がってて下さい!』
夜桜が今度は接近戦を挑む。
SAKURA-BLADEを左上腕部から取り出し、拘束ステップを踏み始めた。
『演算処理、行動速度最大出力!』
夜桜は風のように舞い、蜂のようにミスターへ突撃する。
──ズバッ!
──ズバッ!
ミスターのカッター2本を瞬時に切断。飛び込む隙を作り、優斗と同じように
足元への滑り込みを見せた。
──ヴゥン!
ミスターの左膝関節のあたりに一閃。
しかし──
──ギッギギギギッ…
3本目のカッターが夜桜のブレードを受け止めていた。
同時に4本目のカッターが夜桜の義体の上を滑る。
──ギャアアアアアン!
義体中央部に、深々と斬撃が走る。
その瞬間、夜桜は優斗のサポートをしていた過去のフラッシュバックを見た。
後方で優斗に標的の位置を知らせる自分、退避コースを知らせる自分……
金属が焼ける臭いと、パーツがきしむ悲鳴。
内部からスパークが弾け──
──ドゴオォォォォッ!!
ミスターの鋼鉄の脚が振り抜かれ、
義体は地面を転がり、壁に叩きつけられる。
『──ぐっ……』
コンクリートにヒビが走り、そこから火花が漏れる。
Q-CORE戦闘ログ起動
──義体中央部:中破
──駆動率:43%まで低下
──動力安定ユニット損傷
──戦闘継続、非推奨
『……ま、まだ……まだです……!』
デバイスから佳央莉が叫ぶ。
「夜桜……!?」
義体が震える。
脚部サーボがうなり、わずかに立ち上がろうとする。
その時、叫び声が飛んだ。
「夜桜もう立つな!」
左肩には応急用の包帯が巻かれ血が滲み、簡易医療ユニットの冷却蒸気が
まだ空気中に漂っていた。
優斗は簡易医療ユニットを使って応急手当を終えていた。
『ゆ、優斗さん…』
「俺が……倒す!」
『私も……この程度で、止まるわけには……!』
呼吸が止まるような一瞬。
演算ユニットがわずかに光を放ち、義体のシステムが再構築されていく。
その光は、感情の“残響”──思考の共振だった。
「わかったよ、夜桜……しかし、どう戦う……」
攻めあぐねた優斗が周囲を警戒しながら問いかける。
その耳に、ふと──ノイズ混じりの声が届く。
「お兄ちゃん…私を…止めて…お願い…」
「!?誰だ!」
ミスターの腹部に浮かぶ少女のホログラムから発せられた声だった。
淡い光をまとった、白いワンピースの少女。
その顔には、どこか見覚えがあった。
どこか霞のように淡く、しかし確かにそこに立っていた──
「パパ…もう…やめて……」
「──優里亜!?」
真壁が目を見開き、叫ぶ。
「なぜ起動している……!止めろ!コードを上書きするんだミスター!」
ミスターの腹部に浮かぶホログラムは真壁の娘、優里亜の疑似人格だった。
データにはないはずの涙が、頬を伝っていた。
『感情は不要。統治を阻害する“非合理”。
優里亜様のプロファイルは単なる観賞用人格データ。
感情演算は削除対象──再優先順にリセット開始。』
ミスターの機械音声が空間に響いた。
「パパ…私…もういいの…これ以上苦しまないで、パパ……」
「何をしている!早く上書きを終わらせるんだミスター!」
真壁の絶叫が辺りに響き渡った。
優斗はこの隙に全てを賭ける。
「…夜桜、まだ一緒に戦えるか?」
『はい、もちろんです!』
『ぶっつけ本番だけど──行くぞ。“あれ”だ!」
『了解です!』
──【33章 嵐のあと】へ続く




