【27章】死闘 後編
【PROTOCOL_Ω::内部復元ログ】
※ステータス:コード補完モード──起動中
▶ユニット状態:致命的損傷
胸部セクター:中枢冷却モジュール損壊
右腕ユニット:機能不全/動力切断
下半身駆動軸:構造崩壊
──状態:戦闘終了と判定
……
──再評価中。
【ERROR::戦闘終了フラグ未確定】
【主制御系統:信号欠落中】
【バックアップモード:B-OMEGA_13起動】
▶命令照合:最終戦闘継続プロトコル → YES
▶戦術データ統合 → 公務特任第4課AI (対象A)/公務特任第4課捜査官(対象B)
▶対象認識:再捕捉
──
【倫理判定:不要】
【選択肢:存在しない】
【演算補完:目的=敵性存在の“排除”】
……
▼再構成ユニット展開中
代替駆動モーター展開
右脚制御プラグ切替
内部制御コア、補助出力システムへ転送中……
【PHASE SHIFT:EMERGENCY REBOOT】
──プロトΩ、復元完了率:73%
──再起動──カウント5秒前
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3
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1
……REBOOT
『護衛ユニット──臨界再生モード──強制起動。』
──ギギギギギ……!!
機体内部で紫色の演算光が渦巻き、装甲が裏返り、骨格が再生されていく。
──再起動中……
【損傷原因解析中】
実行コード:未対応の挙動 → パターン未登録
衝撃波/切断力:規定値上限超過(計測不能)
敵機挙動ログ:取得失敗/不可視ノイズ認識
【判断】
対象:公務特任第4課AI
分類:戦術AI特異体
評価:予測不能因子(Unpredictable Variable)
…………
【対策プロトコル選択中】
>従来型戦闘アルゴリズム → 適用不能
>最適行動パターン → 破棄
>演算認識モード → “非-合理戦術モード”へ移行
…………
──対象:公務特任第4課捜査官。
【過去ログ照合】
>戦闘回避率:異常値
>物理反応:訓練済み
>読解能力:高度思考傾向
>殺傷実績:複数記録あり
──結論:対象《公務特任第4課捜査官》を条件付き“変数”と認定。
──再戦を開始する。
立ち上がったプロトΩは、右腕を骨だけの状態で再構築させ、プラズマ刃が
再び出現。既にプロトΩには”破壊衝動″と呼べるものしか残っていなかった。
【操作者確認:Not Found】
【命令入力:Null】
──強制戦闘モード、継続中。
『優斗さん……敵機演算暴走中、暴走プロトコル発動。』
「……しつこいな」
暴走状態のプロトΩが突進。
振るわれる刃は重く、鋭く、そして荒い。
「……一発でももらったら終わりだ」
『回避優先!』
「分かってる!」
わずかな隙間を読み、刃の軌道を躱す。
呼吸を合わせ、動きに入る。
だが──
腹部から突如、二本のサブアームが飛び出す。
『不意を突かれた!?演算間に合わない!優斗さん!?』
「……ッ!?」
だが優斗は慌てず、逆関節気味に軌道を逸らす。
しかし、腕が四本になり、左右上下と自在に攻撃を繰り出してくる
プロトΩに隙はなかなか生まれず苦戦し始めていた。
夜桜の支援狙撃も悉く腕をピンポイントで破壊していったが、再起動後の
格段に上がった再生能力がすぐさま腕を復活させてしまっていた。
演算速度が格段に上がった夜桜の誘導でプロトΩの攻撃を躱せてはいたが、
優斗の体力はジリジリと削られていく。
攻撃の隙を見つけられず、焦りを感じ始めたころ
──彼女の中で、ある記憶が閃く。
『……あっ!』
──佳央莉が無理やり押し付けた、一発の試作弾。
『水銀加工弾よ。貫通力は弱いけど、当たれば融解する──
覚えときなさい』
『優斗さん、これを!』
義体のホルスターから弾を取り出し、空中へ投げる。
「使えるのか!?」
優斗は空中でキャッチし、デザートイーグルに装填。
「これでも喰らえッ!」
──ドンッ!!
水銀弾が、プロトΩの腹部へ突き刺さる。
──ジュウゥゥ……ッ!!
高熱反応と共に、装甲が泡立ち、崩れていく。
『装甲融解確認!中枢部、露出!』
「そこだ──ッ!」
EMP弾、残弾1。
それを開いた腹部へ撃ち込む。
──ズガァァァン!!
爆裂、演算ノイズ。
そして跳躍。
「おおおおおッ!!」
ナイフを──融解した中枢へ突き立てる!
──ガガガガッ……バシュゥゥゥ……!!
プロトΩ、沈黙。
金属音と火花を残しながら、その巨体が倒れ込む。
──ヒュオォォォォン……
静寂。
『……撃破、確認しました。』
「……やってやった……」
優斗は膝をつき、呼吸を整える。
そして笑った。
「か……勝てたな!」
佳央莉から通信が入る。
「優斗くん大丈夫?…あと夜桜も」
『はい、大丈夫です。佳央莉さん、ご心配なく。』
Q-CORE直結の影響で能力完全開放、そして人格完全形成された夜桜は
かなり大人びて見える。
「あーはいはい。もう大丈夫ね(笑)
……よかったわね、夜桜」
『……はい。』
佳央莉は微笑を浮かべながら、淹れなおしたコーヒーを啜る。
『……お疲れさまです、優斗さん。』
「しかし……めっちゃ、おねーさんになったな夜桜……驚いたぞ」
優斗は夜桜をまじまじと見つめる。
『…あ、あんまり見つめないで下さい…』
「こんな裏技あったら先に教えておいて欲しかったなあ。でもありがとう。
夜桜がいなきゃ、今頃二人とも″鉄クズ"だ」
夜桜は、はにかむ様に微笑む。
『二人とも無事でよかったです。』
夜桜は出動前、準備室で佳央莉から渡された1発の弾丸を、ふと思い出していた。
(佳央莉さんのあの言葉は……“気をつけて”って、
つまりあれは、“気をつけるための弾丸”だったんですね……)
戦術演算補助AI《夜桜》──Q-CORE接続記録
【状態】完全同期モード/リズムリンク最大出力
【支援対象】神代優斗(CODE:Y-001)
【敵機識別】プロトΩ(Ω-Class Assault Unit)
……戦闘支援開始。
……演算優先度を“生存”から“勝利”へ移行。
優斗の行動──不可解だが、拒絶できない。
彼の選択は、確率論にない動きで戦場を切り開く。
これは──“最適解”ではない。だが、最も強い。
私の中に、芽生えたのは何か。
──それを、言葉にする演算式は存在しない。
……最終攻撃許可。
……推奨ルート:中枢突破 → 勝利確定率38.1%
……非推奨ルート:水銀弾→突撃 → 勝利確定率12.3%
──非推奨ルート、実行承認。
理由:
『優斗さんが、そう“選んだ”からです』
──記録終了、全記録完了。
……この記録は”私自身″にインストール、保護します。
私の記憶として。
エレベーターを使い地下3階へ降りる。
中央の隔壁がゆっくりと開いていく。
その奥で、統治AIが静かに脈動していた。
──決着は、目前だった。
──【28章】電脳空間へ続く




