【25章】Ωシリーズ
【真壁本拠地 B2F 主戦区──優斗側】
目の前に立ちはだかるのは、近接戦闘に特化した戦術制圧型アサルトロイド──《バルバロスΩ-α》。
約2.8メートルの巨体。
強靭な四肢と油圧駆動の腕部、打撃特化のアクティブアーマーを纏っている。
一撃でもまともに食らえば、骨どころか内臓まで潰されかねない。
──だが、優斗は動じなかった。
「……さて。やるか」
右腿からH&K USP Compactを抜き、まずは牽制。
一発、二発、三発──
連射された9mm弾はバルバロスの頭部装甲をかすめるが、通じない。
『──公特戦闘データ照合中。生体戦闘員、警戒ランク:B』
バルバロスの視覚ユニットが青く輝いた次の瞬間、突撃動作。
脚部バーニアで床を削りながら突進、油圧パイル付きの拳を振りかぶる。
「くっ──!」
横跳びで回避。
寸前で左上腕のナイフホルダーからSP48を引き抜き、着地と同時に斬り上げる。
──ガキィィィン!!
金属と金属がぶつかる衝撃。
だが、バルバロスαの装甲は厚い──斬撃すら滑る。
「……まじかよ」
──ズガッ!!
背後からの追撃が襲い、肩を擦る。優斗は受け身で転がり、距離を取る。
『バイタル低下率 3%。戦闘能力、維持可能──再突撃』
バルバロスΩの推進ブースターが咆哮し、一気に距離を詰める。
「──くそ、速ぇ!」
プラズマブレードが疾走し、優斗は咄嗟に逆手抜刀──ナイフで受け止める。
──ガキィィィン!
だが、圧倒的な重量が優斗を弾き飛ばした。
バランスを崩した瞬間──
バルバロスαが腕を伸ばし、優斗を ガシッ! と掴み上げる。
「──ぐっ……!」
『物理拘束完了──壁面投擲。』
ズゥゥン!!
重金属のような衝撃音と共に、優斗の身体が背後のコンクリ壁に叩きつけられた。
ヒビが広がるコンクリ。
背中全体に鈍痛が走り、肺の空気が一気に抜ける。
「──がはっ……!!」
バルバロスαは、拘束したままさらに追撃動作に入ろうとする。
──その刹那、優斗は右腕のナイフを無理やり捻り上げ、関節の隙間に
突き刺した。
「──まだ終わらねえよっ!」
ギギギィィィン……!
関節軸のロックが一瞬緩み、隙間を作る。
優斗は無理やり身体を抜け出し、そのまま距離を取る。息は荒く、呼吸も苦しげだが──
優斗は左腿から、もう一本の銃を取り出した。
──デザートイーグル .50AE
特製マズルブレーキ、ポート付きバレル、ラバーグリップ、
反動低減ユニットを搭載した、“殺るための銃”だ。
──夜桜は左腿から展開式のセミロングライフルを取り出すと、
右腿のユニットと連結。
銃本体とバレルが、内部モーターで“吸い寄せられるように”滑らかに接続され、
即座に支援射撃態勢へと移行する。
──ズガァン!!
支援狙撃。
銃口がわずかに跳ね上がる。
直後、高密度磁界加速弾が放たれた。
強烈な音圧がコンクリ壁に反響し、戦場の空気が揺れる。
バルバロスαの右肩関節部が爆裂、反対側へふっ飛ばされた。
『援護完了。優斗さん、今です。』
「……助かる!」
優斗は跳躍と同時に、上半身を反転させながら、至近距離で引き金を引いた。
──ドゴッ!
【1発目】──外装破壊、胸部外殻が粉砕し内部冷却ユニットが露出する。
──ドゴッ!
【2発目】──冷却系統貫通、機体出力が一気にオーバーヒートする。
──ドゴッ!
【3発目】──中枢コアへ貫通。炸裂弾が火花を散らして爆裂する。
轟音、閃光。
そして──機械の巨体が、膝から崩れ落ちた。
「──機械にしては、いい動きだったよ」
優斗は肩で息をしながら銃を下ろし、静かにデザートイーグルを腿に戻す。
その表情に、微かに安堵の笑み。
【Q-CORE倫理処理ログ──No.056911】
記録対象:戦術補助AI《夜桜》・生体戦闘員《神代優斗》
状況:戦闘終了/対象制圧確認
倫理判定:
■優斗の戦闘スタイルは合理的統制を逸脱しています。
■しかし、結果としては勝利と生存を両立。
■非合理の中に、人間だけが持つ“突破力”がある。
……この行為に、正当性はあるのか?
──記録継続。
『骨格センサー:肋骨に微細亀裂。内臓振動波動過負荷。優斗さん大丈夫ですか?』
優斗は痛む肋骨を包むようにサポーターを巻き、苦笑いしながら
「……あぁ……もう少しで合理的に殺されるとこだったぜ……」
夜桜は苦笑いのような表情を浮かべた。
『……やはり、優斗さんは“普通の人”ではありませんね。』
「じゃあ──“第4課の牙”ってことにしといてよ」
──【26章 死闘 前編】へ続く




