【5.5章】いつかの場所
誰にでも一人で思い出に浸りたい時ってありますよね
優斗は、人気のない道をゆっくりと歩いていた。
足音だけが、コツコツと乾いた音を立てている。
倒したのは人間じゃない。
中身は金属と回路。心なんて存在しない──
……はず、だった。
でも、あの瞬間──ほんの一瞬。
目が合った気がした。
こちらを見て、何かを伝えようとしていたような……そんな錯覚。
「……気のせい、だよな」
誰に言うでもなく、ひとり呟いた。
だがその声は、思った以上に乾いていた。
胸の奥には、まだざわつきが残っていた。
通路を抜け、川沿いの土手へ出る。
そこは、かつて堂島から訓練を受けていた場所──
人殺しに必要なことを叩き込まれ、煙草の吸い方さえ教わった。
今はもう、誰もいない。
ただ、川の流れだけが、変わらずに音を立てていた。
優斗はポケットからタバコを取り出し、火を点けた。
紫煙が空へと消えていくのを見ながら、
かつて何度も堂島に転がされたときと同じように、星の瞬く空を見上げた。
「……いないんだよな、もう」
吐き出した言葉は、風にさらわれた。
だが、胸のざわつきは──少しだけ、和らいだ気がした。
──【6章 静かなる侵入】へ続く
次回はとうとう中央管理AIが・・・
──2025.0705
すっごい未来の話だけど、これを読んで「おっ?」って思ってくれる人、何人いるかな(笑)
(読んでくれてありがとうございます。こういう“地味な回”も好きって人、ぜひ仲間です)




