【24章】一閃
【真壁本拠地 B2F】
──ブオォォォォン!!
鉄と空気を裂くような轟音と共に、巨大な鉄球が壁を抉る勢いで飛来した。
優斗と夜桜がエレベーターの昇降ゲートを出た、まさにその瞬間だった。
『退避!』
夜桜が優斗を横に突き飛ばしながら、身を捻る。
──ドゴオォォォン!!
鉄球が背後の壁へ衝突。
コンクリートが粉砕され、破片と火花が炸裂する。
一瞬、視界が粉塵に包まれ、白く濁った。
『大丈夫ですか優斗さん!』
「助かった……サンキュー、夜桜」
──ズシィィィィン!!
闇の奥、鉄球が飛んできた方向から、巨影が二体、姿を現す。
約2.8メートルの巨体。冷徹な青色の視覚ユニット。全身重装甲。
真壁のグループ会社、ロジカルインダストリー社製、最強量産AI自律戦闘兵器──
《戦術制圧型アサルトロイド バルバロスΩ》
大型ゲートが強制開放され、暗闇からせり上がるように現れる。
『──公特記録未登録の強化型です。完全戦闘特化モデル!』
会話する間もなく、二体のバルバロスが同時に襲いかかってきた。
「夜桜!」
『こちらは仕留めます!』
夜桜の前に立ちはだかるのは、中距離戦特化型《γタイプ》。
狙撃・射撃を主戦力とし、装備は支援用ライフル、自動対応型シールド。
夜桜は一旦距離を取りながら左上腕部に収納してある
《SAKURA-BLADE ver.α》
を取り出した。
薄桃色のプラズマブレードが美しい。
「任せた!」
優斗はSPASに徹甲スラッグ弾装填を済ませ、もう一体──
近接特化の《αタイプ》と正面から向き合った。
金属の床に鋼鉄の爪が滑り、青いモニター兼センサーが獲物を視界に
捕らえたように輝きを増した。咆哮のような駆動音が地下フロアに響き渡る。
──戦闘、開始。
夜桜の前に立ちはだかる、中距離戦用に特化したバルバロスγタイプ。
対する夜桜は、耐性強化モードに切り替えてしなやかに移動を開始する。
互いのセンサーが、相手を敵と認識した瞬間、夜桜の感情演算領域に
小さい、それでいて明確な闘志の炎が灯った。
バルバロスの正確な射撃が夜桜を襲う。だが夜桜は半身を数センチずらすだけで
何なく躱す。
ライフルの射撃は0.5秒間隔で迫り来るが、夜桜にとって0.5秒は処理時間の
隙間にもならない“無意味な刻み”だった。
夜桜は、バルバロスの狙撃を視覚ではなく『リズムリンク』で刻んだ形により、
完璧に捉えていた。操作線を、気配を、一切を、定義の可視化により分析する。
そして自分は一切の無駄を掛けず、優雅に歩を進めるように最短線を抜ける。
強化ブーストの出力はフル出力の30%程度だ。
絶対的空間の判断、体躲の解析、動作パターンの割り出し。
バルバロスの狙撃が夜桜の次の展開を検知する前に──
軽やかなステップで足元へ滑り込んだ。
ブレード一閃。
夜桜のステップが巻き起こした風は、バルバロスのセンサーに
”ノイズ″としてしか映っていない。
バルバロスΩの右足を、斜め下から──
続けざまに胴を、そして首を。
視線の先に残るのは、閃光の残像と、風の軌跡だけだった。
無音。
数秒過ぎて、バルバロスγの身体が3分割され、ずるずると下方へと
倒れ込んだ。
夜桜はその様をただ静かに見つめていた。
夜桜は一度も全力を出していない。
一切がデータであり、それはすでに『勝利』の結論を出していた。
それは、力の差ではない。
“想い”のある演算か、無機の計算か──
その違いだった。
──【25章 Ωシリーズ】へ続く




