【22章】襲撃
横浜・ふ頭方面 ──夜
ホワイトにブラックのアクセントが入った優斗のクラウンが、街灯の少ない
海沿いの道を静かに滑っていく。
助手席には義体・夜桜が控える。
その外見からは、これから“戦場に向かう者たち”には見えない。
「……後方、ついてきてるな」
『はい。民間偽装型ドローン、6機。照準収束中です。』
「……EMPいこう。後方だけでいい」
夜桜が助手席のサイドコンソールを開き、小型モジュールに指を滑らせる。
『EMPユニット作動──発射まで、3秒。』
パシュッ!
後部下部から青白い光が円状に拡がり、静かに破裂した。
ドローンたちは、制御を失い、火花を散らして次々と墜落していく。
だが、沈黙は長く続かない。
前方──コンテナ群の間から、量産型の警備用アシストロイドたちが現れた。
「前も出てきたか。……夜桜、止めて」
『了解。』
クラウンが急制動をかけ、滑り込むように停止する。
優斗は無言で車外に出ると、後部トランクに回り込んだ。
──「カチリ」──
トランクが静かに開く。
中に格納されていたのは、公特仕様のHK416D。
HK416 "KAMISHIRO Urban Raid Custom"
11インチバレル
マグニファイア付きホロサイト
サプレッサー非装着
前後バーティカルグリップ
高圧スラッグマガジン仕様
優斗はHKを無言で手に取り、肩に担ぐ。
そのままボルト操作、マグチェック、前傾姿勢。
夜桜は反対側からMRADを引き抜き、分解状態からの迅速な組立を開始。
──フレームロック。
──バレル接続。
──スコープ起動。
──.338 Lapua Magnum装填。
音は最小限、動作は精密。
それはまるで、精密機械が二体、同時に稼働したかのようだった。
コンテナの隙間。
無数の金属音。
──動く影。
量産型警備用ロイドが、反応するように姿を現す。
優斗はHKを肩に担ぎ、その場で滑らかに装填・初弾送り込み。
その動作に、無駄な所作は一切なかった。
『優斗さん、前方にロイド8体。中距離に3体、ライフル所持です。』
「任せろ。制圧する」
──ダダダダダッ!
HKが唸る。マズルフラッシュが夜の倉庫街を照らす。
優斗は膝をつき、低姿勢からの速射で正確に1体ずつ潰していく。
反動が肩に食い込むたび、指先の感覚だけが研ぎ澄まされていく。
仕留めきれなかった2体が、なおも突進してくる
夜桜は後方車体横に伏せる。
照準ライン、補正完了。風向きを計算する。
その動作は、もはや機械ではなかった。
──ズドン。
──ズドン。
銃声が波音に吸い込まれ、ロイドが爆ぜるように崩れ落ちる。
『……残存ゼロ。全機、沈黙確認。』
優斗は一度だけ、息を吐いた。
彼らは銃をトランクに戻し、クラウンへ乗り込む。
再び走り出したその背後に残されたのは、残骸になったロイドと砕けた破片の山、
焦げついた鉄と、夜風に漂う硝煙の匂いだけだった。
──【23章 第4課、南へ】へ続く




