表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/52

【19章】Project M

捜査本部の空気は、濃く淀んでいた。

S.Makabe──Project M──そして消えた霧島長官。

パズルのピースは徐々に揃っていくのに、完成図はまだ見えない。



「Project M──それは“AIの神経網を塗り替える”禁忌の構想だった」



佳央莉は深く息を吸い、ファイルを開いた。



「夜桜にプロジェクト名”Project M”と”S.Makabe”の名前を当たらせたら、

あっさり侵入犯の素性が割れたわ。

真壁 俊(まかべ・しゅん)。元・中央管理AI技術開発主任」



「元は、俺たちのお仲間だったってわけですか……それがなぜ……」



「理由はまだわからないわ。ただ、NS-CORE以前のAIを開発管理していて、

突然退職した……という事になってる」



夜桜が補足説明を挟む。



『真壁にはダミー会社を複数運営していた形跡がありました。

西新井の倉庫を保有していた会社から経歴を辿りましたが、

改正NTT法特例条項に基づく国家外郭管理法人の名義を利用した

ダミー会社群に、真壁が代表を務めていたグループ名が重複していました。

彼は現在グループから離れているようになっていますが、

偽装の可能性が高いです。』



夜桜の声には、ほんのわずかだが怒りの色が滲んでいた。



『また、埼玉のNS-CORE予備施設に納品されたサーバー部品も、

真壁のダミー会社が関与していました。

その結果、NS-CORE本体へのアクセスが容易になっていたと推測されます。』



「そこまで用意して国家神経網に入り込んでたわけね……改正NTT法は、

仕組まれた裏口だったって事……」



(通信インフラの再整備と称して新設された“特例法人”……

まるで最初から、国家に潜り込む道を用意するためだったようだ)


優斗が奥歯を噛みしめる。



「国の制度すら“乗っ取りの道具”にしたか……

最初から、全部仕組まれてたって事か……」



『更に……真壁のグループ会社の中にアシストロイドやドローンを

開発・販売している法人を確認しました。先日のAI暴動の際、巧妙に

偽装はされていましたが、未登録機体の多くは最初から最上位命令が

書き換えられており、真壁の会社で製造されたものと判明しました。』



「つまり……違法パッチをばら撒き、さらに未登録のロイドやドローンを

使って暴動を誘発した、という事ね」



「やってくれるな……真壁……」



『そして、霧島長官ですが──』



大型ホログラムには、霧島長官が最後に接続した仮想経路の追跡ログが

映し出されていた。



佳央莉はその中の一つに、微かな違和感を覚えた。



「この経路……明らかに、途中で偽装されてる」



『はい。通常なら踏み台として使われるはずの中継サーバーが、一つだけ

“経路トンネル”化しています。』



「真壁の仕業ですか?」



佳央莉が首を振る。



「わからない。でも、霧島長官が“わざと足跡を残した”ようにも見える。

私たちに何かを託したのかもしれない」



その時──



『解析が終わりました。

……ミスター義体に残されていた通信ログの一部、断片的ですが

復元できました。』



夜桜が通信を開くと、スクリーンに複数の通信IDと断片的な通信ログが

表示される。



「このID群……NS-COREの正規経路じゃない。どこから来てる?」



『──かつて“亡霊通信網”とも呼ばれていた、旧世代の裏回線です。

おそらく、地上のあらゆる監視網の下を通る、旧政府時代の

バックチャンネルです。』



「地下……まさか、真壁は地上じゃなく、“下に”いるっていうのか?」



佳央莉が固唾を飲む。



「まさか……いや、でもそれなら辻褄が合う。ミスター義体の製造元、

兵器の出所、消えた霧島長官。全部、地下で繋がってるとしたら──」



夜桜の声が重くなった。



『真壁瞬の拠点は、地下に存在している可能性が高いと推定されます』




静寂の後──



「どこに潜ってるか知らないが……地の底まで追い詰める……!」



優斗の目が、再び戦いの色を帯びた。



──



霧島は淡々と端末に目を落としていた。

真壁と合流すべく、本アジトへ向かっていた。


(……やはり第4課……佳央莉くんと夜桜が辿り着いたようだな……)


その瞬間、極秘通信端末が振動する。

暗号化された裏ルート──真壁からの通信だった。



『公特第4課が動き始めているようです。彼らは貴方のコード履歴に

接触した』



「そうか……覚悟はしていた」



『まだ貴方には役割がある。合理統治実現の布石を、次の段階へ──』



霧島はわずかに目を伏せる。



「真壁……私は国家を裏切った。だが、この国の秩序を破壊しようとは

思っていない……」



『合理とは、時に“切り捨て”を要する選択です。

……もう一度よく考える事ですな』



嘲笑にも似た笑いと共に、通信は静かに途切れた。



通信を終えた霧島は、誰ともなく呟く。



「堂島よ……私の選択は正しかったと言えるのか……

……もし、君だったらどう動いた? どう背負った? 

俺にはもう、それを問い直す時間すらない」



“合理”の名のもとに切り捨てられたものたちが、今、地の底で

蠢いている──



──【20章 家族】へ続く


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ