表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/52

【17章】サンプル

西新井・旧電機系工場跡地──


錆びた鉄の匂いが鼻をついた。

優斗と夜桜は、ほんの微かな月明りを頼りに、構内へゆっくりと

足を踏み入れた。

瓦礫と鉄骨が散乱する空間。広さの割にどことなく空虚な

雰囲気を感じる。


(──ここも外れか…?)


若干期待外れだったことを残念に思いながら進む。

しかし、決して油断はしていない。



『サーチライト必要ですか?』


「わざわざ敵にこっちの位置を知らせることはないさ」



優斗は周囲に気を配りつつ、夜桜に戦闘指南をしながら進む。


(夜桜が本当のバディになるとはな…)


警戒を深めつつ、二人は倉庫の奥へと進む。

──中は、月明りすら飲み込まれるような暗闇だった。




しばらくの間、慎重に進んだ時──


『…優斗さん、前方10メートルに無機物反応。おそらくアシストロイドと…

ドローンを数体確認です。」


夜桜は静かに解析結果を報告してきた。


「でかした夜桜」


優斗は右腿のホルスターに指をかけ、H&K USPコンパクトを引き抜き

銃口をわずかに下げたまま、静かに構える。


『…来ます』


──その瞬間


ブゥゥゥゥゥン……!


不快なプロペラ音が闇を切り裂く。

夜桜が告げるのと同時に3機のドローンが、上空から円を描くように飛来した。


『上空3時方向、1機接近。』


優斗は一歩前へ踏み出し、

鋭く銃声を鳴らした──


パパンッ──!


1機のドローンが、火花を散らして即座に墜落。

残る2機が一斉に旋回し、閃光弾を放つ構えを取る。


夜桜はいち早くドローンの動きを察知していた。

『閃光弾──!』


優斗はすかさずナイトゴーグルを外す。


バシュッ!


爆ぜた閃光の中からドローン2機が突っ込んできた。


『直上2機接近!』

「オーライ!」


パパパパンッ!


4発撃った内の2発がそれぞれ2機にヒット、火花が舞う。


青白い炎につつまれたドローンが落下し始めた。


『優斗さん、離れて!』


ドローンには発火物が仕込んであった。青白い炎の次は真っ赤に燃え、

撃たれた衝撃で明後日の方向に飛びながら墜落していった。



「子供騙しもいいとこだな…」



ドローンが全て墜落し、空気が再び静まり返る──


だが、沈黙は束の間だった。


ギィ……ギギィ……


鉄を引きずるような異音が、倉庫の奥から響く。


「……来るぞ」


優斗が小さく呟くと、暗闇の中からゆっくりと“それ”が姿を現した。


長身の人型フレームに、光を反射する無機質な装甲。

両腕は異様に太く、手には電磁式の警棒のような機構が備わっている。


──アシストロイド。しかも、警備仕様の強化型。


続けて、もう一体。同型の機体がその後に続く。


『2体とも、旧型JSPD系列警備ユニット。ただし、動きが……

独立制御に見えます。』


「AIか……誰が仕込んだ?」


そう呟いた瞬間、2体のアシストロイドが同時に突進を開始した──


その2体は無言のまま、地響きを立てて迫ってくる。


「下がって!」


優斗は夜桜を制し片膝をついて構えた。


ドォン──!


先頭の機体が異常な速度で突進し、警棒を振りかぶった。

瞬間、優斗は横へ跳び、空振りした一撃が床を抉る。


『右腕の関節部に隙間! 狙って!』


「了解──!」


パパンッ! パパンッ!


関節付近の装甲に2発。だが弾は弾かれ、金属音だけが鳴る。


(装甲、硬すぎるな…!)


2体目が回り込むように動き、挟撃の態勢を取ってくる。


しかし、敵の動きを解析していた夜桜が、今度は──


『優斗さん下がって!』


ブーストをかけ、滑り込むように前に出た。

義体の脚部が唸り、彼女は1体目のアシストロイドに向かって加速した。


ズガァッ!


夜桜の踵が、相手の膝関節に正確にヒット。

体勢を崩したところへ──


「そこだっ!」


優斗が至近距離から、顎下へと撃ち込んだ。


パァン!


煤混じりの煙が舞うと焦げたような匂いが鼻をつく。1体目が

膝から崩れ落ちた。


「1体撃破──夜桜、もう1体!」


『──後方!』


2体目が2人の背後から警棒を振り下ろす。夜桜は体をひねって躱し、

反対側へ滑り込む。

優斗はそのまま横へ跳び、空中で引き金を引いた。


しかし──


ガキンッ!!


「ちっ……!」


優斗の弾はロイドの肩装甲に当たり、軌道を外れる。


『優斗さん、後方接近中!』


振り返ると、もう1体目の機体が、まだかろうじて動いていた。

半壊ながら、這うように夜桜へ近づこうとしている。


(これ以上、夜桜には──)


着地と同時に1体目の頭部めがけ3連射。


パパパンッ!


3発のうち1発が目の位置にヒット、頭部を破壊し1体目は完全に沈黙した。


そこから優斗は一気に距離を詰め、2体目の警棒を躱し、背後へ回り込み

左上腕部からナイフを抜いた。


──ザクッ!


ナイフを逆手に持ち替え、隙間を狙って滑り込ませる。

関節を砕くように捻ると、機体は短く痙攣し、そのまま崩れ落ちた。


『……戦闘ユニット、全機停止確認。』


夜桜の声に、優斗は息を吐いた。


「……アシスト用のわりには、よく動くな」


夜桜がなぜか今の優斗の言葉に反応する。


『私も負けていないと判断しますが……』


優斗は少し驚いたが、


「…そ、そうだね、うん」


(なんか段々人間みたいになってないか…?)


そのときだった。



倉庫の奥、淡い青色に光るロイドが──

2階からゆっくりと姿を現した。


『実に見事な戦闘、コンビネーションでした。そして…前回のD-3ブロックに

続いて、あなた方の戦闘データまで取れた…電波ジャックも完了、これで私の

役目も無事終了です。』


「……俺たちを試すために、これを仕掛けたってのか」

と、歯噛みするように吐き捨てた。


『データ収集はついでといったところでしょうか──我が主は、簡単に居場所を

探知されるような粗は見せません。』


「お前の主人は誰だ!どこのどいつだ!」


優斗の声が鋭くなる。


『そんな事、私が話すと──』


──パパパンッ!


ミスターが告げ終わらないうちに残響のように銃声が響き、

優斗のH&K USPコンパクトが火を噴いた。


ミスターの義体は、一瞬遅れて膝をつき、無言で崩れ落ちた。


『優斗さん…」


「まんまとはめられた。こいつに尋問したところで口を割るはずがない」


倉庫の奥にあった機材類を回収し、優斗たちは倉庫から引き上げた。



焦げた匂いが微かに残る倉庫から出てきた優斗たちは、肩をひとつ落として

息を吐いた。


しばし沈黙が流れる。夜桜の姿が視界の端にある──

月明りを受けて立つそのシルエットは、もう“道具”ではなく、“相棒”としてそこにいた。



(佳央莉さん…どこまで想定してたんだ…)



──【17.5章 小さな祈り】へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ