表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/52

【15.5章】遠い日の記憶 ─霧島長官の独白─

内閣特命統合防衛機構──


東京・霞が関の最奥、地下フロアに設けられた長官室。

霧島は、静かにこの部屋へと戻ってきた。


重厚なドアが閉まり、深い静寂が室内を満たす。


彼はゆっくりとソファに腰を下ろし、青白い光を放つモニターを

見つめていた。


画面には工業区画D-3ブロック、旧廃工場跡地での、優斗の

戦闘映像が流れていた。

霧島はその映像を黙って追っている。


「……君はいつも、我が道を行くんだな」


誰に語るでもない、独り言だった。

だがその声音には、かつて戦場に身を投じていた男の

隠しきれない情が滲んでいた。



「昔の俺や、堂島に……本当によく似ている」



霧島はそっと、内ポケットから古びたIDカードを取り出す。

それは、今はもう存在しない“特殊任務課”の証だった。


戦いの最前線にいた頃の、自分の証明。

仲間が次々に前線へと向かい、そして──

帰らぬ者となった仲間を、ただ静かに偲ぶ日々。


「……夜桜。彼を守ってくれ」



そう呟くと、隣の端末に映し出された夜桜のアバターが、

一瞬、静かに頷いたように見えた。



「俺は、自分のやり方でこの国を変える。

今は前線に立たなくともな……」



その声には、若き日の焦燥と責任が混ざっていた。


優斗はまだ知らない。

かつてこの国が抱えた過ちと、霧島自身が背負ってきたものを。



「この国は──かつて敗北を経験した。それはいい。

だが……いつまでも、負け続けていいわけがない

俺は、この国と、自分の信念のために戦ってきた。

……だが──」



彼は語尾を濁したまま、言葉を閉じた。

霧島の目は、ただ静かに優斗のログを追っていた。



彼の瞳に映っていたのは──戦場よりも深く、

そして厳しい“己の在り方”だった。



やがて霧島は指令を下す。



「──ゴム弾による水平射撃を許可する」



──【16章 くまごろう】へ続く


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ