【15.5章】遠い日の記憶 ─霧島長官の独白─
内閣特命統合防衛機構──
東京・霞が関の最奥、地下フロアに設けられた長官室。
霧島は、静かにこの部屋へと戻ってきた。
重厚なドアが閉まり、深い静寂が室内を満たす。
彼はゆっくりとソファに腰を下ろし、青白い光を放つモニターを
見つめていた。
画面には工業区画D-3ブロック、旧廃工場跡地での、優斗の
戦闘映像が流れていた。
霧島はその映像を黙って追っている。
「……君はいつも、我が道を行くんだな」
誰に語るでもない、独り言だった。
だがその声音には、かつて戦場に身を投じていた男の
隠しきれない情が滲んでいた。
「昔の俺や、堂島に……本当によく似ている」
霧島はそっと、内ポケットから古びたIDカードを取り出す。
それは、今はもう存在しない“特殊任務課”の証だった。
戦いの最前線にいた頃の、自分の証明。
仲間が次々に前線へと向かい、そして──
帰らぬ者となった仲間を、ただ静かに偲ぶ日々。
「……夜桜。彼を守ってくれ」
そう呟くと、隣の端末に映し出された夜桜のアバターが、
一瞬、静かに頷いたように見えた。
「俺は、自分のやり方でこの国を変える。
今は前線に立たなくともな……」
その声には、若き日の焦燥と責任が混ざっていた。
優斗はまだ知らない。
かつてこの国が抱えた過ちと、霧島自身が背負ってきたものを。
「この国は──かつて敗北を経験した。それはいい。
だが……いつまでも、負け続けていいわけがない
俺は、この国と、自分の信念のために戦ってきた。
……だが──」
彼は語尾を濁したまま、言葉を閉じた。
霧島の目は、ただ静かに優斗のログを追っていた。
彼の瞳に映っていたのは──戦場よりも深く、
そして厳しい“己の在り方”だった。
やがて霧島は指令を下す。
「──ゴム弾による水平射撃を許可する」
──【16章 くまごろう】へ続く




