第1話 突然のハプニングは恋の始まり (改)
春の風が、制服の裾をふわりと揺らした。
放課後の商店街は、学生たちのざわめきと、どこか懐かしい焼きたてパンの匂いが混ざっていた。
俺――藍新 凛は、お気に入りの本屋で買った宇宙特集の雑誌を胸に抱え、満足げに歩いていた。
「はあ、今月号のインタビュー、ISSの元船長とか最高じゃん……」
にやけ顔を隠しながらアスファルトの道を歩いていると、ふと前方に見慣れた姿が視界に入った。
――あれ、日野方 麗奈……?
桜並木の下、木陰にひとりで立っていたのは、学校でも有名な美少女。
学年一の人気者、成績も運動も完璧、だけど男子にはほとんど興味を示さない、「高嶺の花」のような存在だ。――そんな噂ばかりの彼女が、なぜか商店街の端にぽつんと立っていた。
「なんでこんなとこに……? まぁ。俺には、関係ないからいいんだけど。てか、俺もはやく宇宙に行けないかなぁー」
そう思ったその瞬間。
ガタッ……バタン!
鈍い音と共に、目の前の歩道に立てかけられていた工事中の金属製看板が、彼女のすぐ後ろに向かって倒れ始めた。
「っ危ないっ!」
体が勝手に動いた。
自分でもびっくりするくらいのスピードで駆け出して、彼女の肩を引き寄せるようにして、間一髪で回避する。
看板は、ドンッと音を立ててアスファルトにぶつかった。
「……っ!」
数秒の沈黙のあと、俺はようやく息をついた。
「ケガ……ない?」
見上げると、麗奈は目を見開いたまま、言葉を失っていた。
顔が、赤い。ものすごく。
「……えぇ。あなたこそ、大丈夫ですか?……!」
心臓の鼓動がまだバクバクしていた俺は、苦笑いしかできなかった。
「……俺は、大丈夫ですよ。ケガしてなくて良かったです……」
そう言ってその場を離れようとした瞬間、後ろからかすかに声が聞こえた。
「……ありがとう。……その……助けてくれて」
聞き間違いじゃなければ、それはいつも強気な彼女には似合わないほど、小さくて震えた声だった。
これが、俺(凛)と麗奈の恋の始まりだった…