表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界は僕らに優しくない  作者: 乃東生
〜 波立つ行く手 〜
50/53

50.海の怪物


 大部屋の入り口から覗き込むと、最奥ど真ん中にグエンダルは陣取っていてその周りがポッカリと空いている。

 それを見てシィアは何とも言えない顔になる。

  やはりというか、当然というか。 


 入り口で躊躇う、そんなシィアにグエンダルが気づいた。そして「よう、シィア」と呼ばれてしまい、仕方なく遠巻きにする人たちの視線をビシビシと受けながら側に寄った。



「…やっぱりグエンダルの顔が怖いんだよ」

「あ? なんだよ唐突に」

「…なんでもない」



 シィアは緩く首を振り、皆んなが近づかないもうひとつの理由に視線を置く。

 それはグエンダルが現在せっせと手入れをしているナイフだ。



「グエンダルでも武器を使うんだね」

「そりゃ当然。いくら爪や牙があるったって一発で仕留めれるもんじゃないからな」

「ふーん…、でも変わったナイフだね」



 グエンダルが持っているナイフは真っ直ぐでなくカクンと曲がっている。突き刺すという攻撃にはどう見ても向きそうにない。



「どうやって使うの?」

「これか、これは投擲用だ。ブーメランの原理でわかるか? 投げても戻ってくるんだよ」

「戻ってくるの?」

「ああ、ちょっとやって見せようか」



 その言葉に部屋の人たちがギョッと息を飲む。それはシィアにもきっちりと正確に伝わり、シィアは慌てて口を開く。



「グエンダル、流石にここではしないよね?」

「別にここでも出来るぞ?」

「――! …ぜ、絶対外でした方がいいと思う!」

「ん、そうか? じゃあ、甲板にでも行くか」



 皆んなの間にホッとした空気が流れシィアもホッと息を吐く。それこそこの大部屋がグエンダル一人の部屋になってしまうとこだった。


 グエンダルを急かし部屋を出ようとすると、入れ替わりに人相の悪い、でも体格は良い男たちが部屋へと入って来る。

 入り口でかち合った彼ら、雰囲気と身に纏っている装備から傭兵か何かだと思われるが、グエンダルを目の前にして一様にビクッと背を跳ねさせた。

 相手の力量を測ることは戦いにおいての必須。なので男たちは当然のようにグエンダルに道を譲り、その中の一人が声をかけてきた。

 


「…もしかして、バインガレエズの人か?」

「あ? ああ、そうだが!」



 「やっぱり…」と零す男。グエンダルは少し自慢げに鼻先をあげる。



「だがバインガレエズはガレーアに行けねぇだろう?」

「ああそれは解消される」

「おお! じゃあ噂は本物だったか!それならアンタもカリブディスの討伐にきたんだな!」

「ん?」



 男の話にグエンダルは怪訝な目を向けた。



「カリブディス?」

「違うのか? ここらへんの海で怪物が出るんだよ、それがカリブディスって呼ばれている。船も何席か沈められたって」

「ああ…、それでこの船の周りにも護衛船がついてるのか」



 グエンダルは納得したと頷き、だけど「どちらにせよオレは関係ないな」と言い放ちシィアを促して部屋を出た。


 狭い通路を抜け再びロビーへと出たところでシィアはグエンダルに問いかける。



「いいの?」

「んー、さっきのか? いいもなにも、オレは手を出せねぇから」

「そうなの?」

「バインガレエズの一員として動けば大きな報酬を発生させることになるからな。下手に手は出せない」

「そうなんだ」



 ふーん…と返事をしてロビーから直接 外通路へと出た。そして手すりに掴まり海へ視線を投げると、確かに少し離れた場所に並走する船がある。

 男たちが『カリブディス』と言っていた怪物、それはどんなものなんだろう?

 シィアは同じように海を眺めるグエンダルを見あげるが、グエンダルも知らなそうな反応ではあった。

 そこに、背後から声がかかる。



「二人ともこんなとこにいたのか」

「トーリ!」



 今二人が出てきた扉からトーリもやって来てシィアの横に並んだ。



「探索するんじゃなかったのかい?」

「そうなんだけど、グエンダルが変わったナイフを持ってて、使い方を見せてくれるって」

「ナイフ?」



 呟いたトーリがグエンダルに視線をやり眉をひそめる。

 そんな危ないものを人の目につくとこに持ち出すな――という視線、それを正確に読み取ってグエンダルは鼻の上にシワを寄せる。



「自分の武器(得物)を手入れするのは当然だろうが」

「別にシィアの目の前でする必要はないだろ」

「逆だぞ、手入れしてたらシィアが来たんだ」

「来るのは知ってたろ?」

「それは――っ」



 割りとどうでもいいことで言い合ってる二人にシィアは呆れた目を向ける。それよりだ。

 シィアはトーリの腕を小さく引いた。



「ね、トーリは『カリブディス』って知ってる?」

「え?」

「カリブディスって言う怪物らしいけど」

「カリブディス?」



 シィアの問いに怪訝な顔をするトーリ。その反応ではトーリも知らないのかと肩を落とすと。



「…確か、古代神話に出てくる怪物の名前だね。元は神様だったけど罰を受けて怪物にされたっていう話だったかな」



 返ってきた答えにシィアが「えっ!」と声をあげる。それに今度はトーリが問いかけた。



「なんで急にそんな話を?」

「出るんだってよ、そいつが」

「は?」

「この海域で何隻か船が沈められたらしい。それで警戒してのアレだ」

 


 シィアに代わり答えたグエンダルが並走する船へと鼻先を向ける。

 怪物の正体が神様だと聞いて衝撃を受けるシィアだが、どうやらそれは喩えの名であることを二人の話の流れで知る。



「ああ…、そう言えばカリブディスは海の怪物で船を丸ごと飲み込むっていう話だったな。それでか」

「そんなとこだろ、船乗りの奴らはそういうのが好きだからな。それで、お前は海の魔獣のこととか知ってんのか?」

「そんなのこっちだって知るわけない。大体海の魔獣はほぼ深海に生息していて滅多に海上には出て来ないって話だ」

「は、だから余計そんな謎めいたことになんのか」



( …魔獣…、なんだ )


 シィアは軽く目を瞬く。いや、だからといって安心出来ることではないけれど、神様よりかはずっと現実を帯びたものになった。要するに戦える相手だってことだ。



「まぁ警戒するには越したことはないが、絶対でもないってことだな」



 片目を眇め鼻を鳴らしたグエンダルにトーリは零す。



「楽観はするなよ。僕の知ってる言葉でこういうのは、『フラグが立つ』って言うんだ」




**




 一通り船の探索を終えて今度は夕食のために食堂へと向かうと、割りと混んでいるのに何故か一部ポッカリと空いてる場所があった。  

 …うん、何だか覚えがある。

 思わず遠い目をしているとそこに座っている人物がシィアたちを呼んだ。



「おい!ここだここ!」



 グエンダルが座席から大きく手を振る。

 別に約束はしていなかったと思うのだけど。



「…うんまあ、見た目が怖いっていうのもある意味役に立つってことか…」



 何とも言えない顔で零すトーリの声は、流石にこの喧騒ではグエンダルには届かないようで。意気揚々と二人を呼ぶグエンダルの元へと、やはり大量の好奇の視線を浴びながら向かった。



「飯は多めに頼んだから適当に食えよ」

「……」



 そう話す机の上は明らかに肉食ばかりが並ぶ。何度も言うが約束はしてない。トーリは呆れたため息を吐きつつも席につきシィアもそれに続いた。



「そう言えばよー」



 と、骨付き肉にかぶり付きながらグエンダルは言う。



「あの男たちにもう少し話を聞いたんだが、あまり要領が得ないんだよな」

「それはカリブディスのことか?」



 ――と、トーリ。グエンダルは軽く頷き新たな肉に手を伸ばし、シィアも負けじと大きな肉を口に頬りこんで二人の会話に耳を傾けた。



「ああ、どんな感じのやつかって。そうしたら白く長い手が海から生えてたとか、鋭い刃を幾つも投げてきたとか、海の中で発光していたとか、麻痺毒を吐くとか色々出てよ」

「…複数いる?」

「いや、それもわからねぇ。だけど出てくるのはいつも夜で、だからこそ曖昧なのかもな」

「夜か…」



 トーリのその声にシィアは窓の方へと視線を向ける。窓枠に囲まれた向こうは既に漆黒の闇。つまりは夜であり、カリブディスが出没するかもしれない時間帯。

 暗い窓にガラスのように反射して映り込んだ自分の顔は、ほんの少しだけ不安げに見えた。

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ