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世界は僕らに優しくない  作者: 乃東生
〜 爪と牙の意味 〜
16/43

16.シィアの決意


「ところで、ロナーさん後ろの馬なんですけど」

「――え、あっ、うん、あんた今日中には町を出たいって言ったろ。それに、怪我の具合によっては何処かに運ばないといけないって思ったから…」


 

 トーリの発した声にロナーは直ぐに反応する。

 ロナーはシィアと同乗していた馬の他にもう一頭二人の荷物を積んだ馬を引き連れて来ていた。

 扉を閉めた後での出立に散々文句を言われ、逃げるのかという目で見られたがそこは何とか誤魔化して。


 仲間が仕出かしたこととはいえ、自分もその場にいたのに止めれもせずに町へと逃げ帰ってしまった。そのことへの罪悪感と、もしかして亡くなっていたらという負い目、そして極めつけはシィアだ。

 誤魔化すためにと咄嗟に嘘をついたが、自分にも娘がいる、そんな娘よりも幼いこの少女をこのまま一人ぼっちにさせてしまうのか? という思いが結局ロナーを動かした。

 なので自ら拘束を解き普通に立って話してるトーリを確認した時はやはりホッとした。


 だけど、何でもないと言えるような状態ではなかったと思うのだが?


 ロナーの疑惑の視線を避けるようにトーリは馬へと近づく。



「ちょっと荷物を確認しても?」

「あ、ああ、…いやっ、何も取ってはないぞ? 部屋にあったものをそのまま積んできただけだからなっ」



 慌てて言い募るロナーを、シィアは眺める。

 トーリが移動したことで表に出てしまったが、だけどロナーの意識はトーリに向いているしシィアももう落ち着いた。

 そして、今のロナーの言葉に嘘はない。嘘をつかれたのは町での一件だけで、馬に同乗してからこちら、そういったものは一切見当たらない。



「そこは疑ってませんよ」



 鞄の中を探りながらトーリも言う。



「必要なものが荷物に入ってたかどうか確認したかっただけです。それに、さっきの件に関してもロナーさんに悪意がなかったのもわかってます」

「いやしかし…」

「シィアがあなたの馬に同乗したでしょう?」

「え? …ああ、まあ…?」

「シィアには嘘や悪意がわかる。だからそういった感情を抱く人の側には近づかないんですよ」

「は? …え、冗談でなく…」



 驚いた視線がこちらに流れ、ピクリと身を揺らしたシィアはフードの中の耳を少し下げた。

 別に完全に嘘がわかるというわけではない。大まかな感情が感じ取れるというだけだ。ただ悪意は突き刺さるような鋭さがあるため直ぐにわかる。



「ロナーさんは悪人ではないってことですよ、――あ…、あったあった、これでいけるかな」

「?」

「?」



 ガサゴソと鞄を探っていたトーリが取り出したのは片手で掴める程の瓶だ。振ると中が揺れるので液体が入ってる模様。

 シィアとロナー、二人して首を傾げた後ロナーが尋ねる。



「それはお酒か?」

「確かにアルコール(お酒)ですけど、ちょっと用途が違いますかね」

「えっと…じゃあ、それを何に…?」

「出来るかどうかだけど、足止めにはなるかなと。なのですみませんが、ロナーさんはもう一度シィアを町に連れ帰ってもらえませんか?」

「――えっ!?」



 トーリの言葉に驚く声をあげたのはシィアだ。

 直ぐにトーリに駆け寄ると服を掴んで見上げる。



「町に帰るって…、トーリは…? トーリも一緒だよね?」

「僕は足止めをするから」

「足止めって何を?」

「そりゃ当然サーペントだよ」

「じゃあシィアも町には行かない。ここに残る」



 シィアが服を掴む手にぎゅっと力を込めると、トーリは困ったように眉尻を下げた。



「それは駄目だ」

「どうして!」

「そんなの…、危ないからに決まってるだろ?」

「でもそれはトーリも危ないってことだよね!」

「僕は大丈夫だ」

「じゃあシィアも大丈夫、町にはトーリと一緒じゃないと行かない!」

「…シィア…」



 ますます眉を下げるトーリ。だけど今度こそ引かない。引いたことでトーリが怪我を負うハメになったのだ。もしシィアが一緒であれば何かの役にはたったはず。だからこそ、引くわけにはいかない。


 見上げるシィアと見下ろすトーリ。どちらも引かないその均衡状態に、ロナーが「いや、あの…」と割り込んで来た。



「この嬢ちゃんだけを町に帰すなんて…、たぶん無理だと思うぞ」



 その助け舟はシィアへと出た。

 


「確かに嬢ちゃんを連れては来たが、自分で閉まりかけの扉をすり抜けてあっという間に飛び出して行ったからな。その嬢ちゃんを俺が後から回収して連れて来ただけだ。きっと俺が居なくても自力でここまで来てただろうよ」



 顎をポリポリと掻きながらロナーが言い、トーリの下がってた眉が今度はぐっと寄る。



「……シィア、待っててって言ったよね?」

「もしもの場合は、って言った」

「それはシィアに対してだよ、僕にじゃない」

「でも!」

「でもじゃない。シィアはまだ子供だ、危ないことには関わらないでいい」

「でもっ、シィアだって何かは出来るよっ!」

「――シィア」



 いつもより厳しい声に耳を下げるシィア。そこに「まあまあまあ、」と再びロナーが割って入りトーリを見た。



「まぁ、取りあえず二人とも落ち着いて。それより、何か作戦があるんだろ? サーペントは夜行性だって聞いた。日没まで時間はあまりない。手伝えることがあるなら手が多い方がよくないか?」

「それは――、」

「それにこの子獣人だろ?」

「!」

「!!」

「なら子供といっても人の子よりはよっぽど動ける――、………え、何だ、その反応?」



 トーリは軽く目を見開き、シィアは目をまん丸にしてロナーを見る。



「……いや…、ロナーさんはよくシィアが獣人だってわかりましたね」

「は? そりゃ俺の知ってる獣人とは随分と見た目が違うが、その性格はどう見ても獣人だろ」

「性格…?」

「懐き方も一途さも執着も譲らない頑固さも。うん、きっと犬科だな。…何だろう……タヌキとか?」

「――は?」

「……タヌキ…?」



 聞いたことないが、たぶん動物の名前なのだろう。

 シィアを見下ろしたトーリの薄灰色の目が一度瞬きそして不自然に逸れ、片手を口元に当てる。気のせいか肩も震えてる?



「……いや…それは、確かに可愛いですけど…、犬科ときて最初にタヌキ…?」

「いいじゃないか、可愛いだろ? でも小熊猫(レッサーパンダ)の方が似てるか?」

「…既に犬科でもない」


「………」



 『可愛い』は悪口ではないはずだ。なのに何故か腑に落ちないものを感じるのは何でだろう。

 ムッと眉を寄せているシィアに、気づいたトーリが取り繕うようにコホンと一つ咳をして、フードの上から軽く頭に触れた。



「まぁロナーさんの言うように、時間が押してるので人手は必要かな…」



 ため息と共に漏らされた声にシィアは急に目を輝かせ、「シィアも手伝う!」とピンと耳を立てる。たぶんしっぽも立ってることだろう。

 完全に気が削がれたトーリは、仕方ないかと苦笑を零し言う。



「じゃあ、まあ、ちょっと手伝ってもらおうか」




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