{第6話} 大原女咲の属性について
凌三高校校則
其の六、次期頭取は年内に現頭取が指名、もしくは選挙を行うものとする。単一の部に所属する者が生徒の過半数を占める場合、頭取と部長の合意の上、二陣営での一騎打ちも可能とす
ガラガラガラ
「初めまして。私、大原女咲です。諸事情で肆組から転校してきました。これからよろしくお願いします」
嵐の前の静けさとでもいえばいいのだろうか。彼女が発言を終えても、時が止まったようだった。
そこから一転、教室は大騒ぎのお祭り状態。そりゃあ客観的に見てこんだけ整っている奴が来れば嬉しいだろうよ。クラスで一番やかましい女が興奮を抑えきれない様子で口火を切る。
「大原女さんってあの凌三会頭取の大原女暦様の妹さんよね⁉私あの人に憧れてこの学校は行ったの!なんでそんな人がうちのクラスにきたの?」
質問をするやかまし女。
(凌三会?頭取?こいつは銀行かヤクザの話でもしてるのか?)
質問を受け、クラス中の期待と羨望の混ざった眼差しが大原女を刺す。彼女は笑顔で答える。
「はい。姉です。それは諸事情で答えられません」
張り付いた笑み。まるでこれ以上何も聞いてくるなと言わんばかりの威圧感が彼女にはあった。これには流石のやかまし女も少したじろぐが、まだ質問を続ける。
「でもー、よっぽどのことが無きゃ転入なんてしないよね?」
取り巻きに同意を求め、彼らは同意する。
「やっぱり頭取の妹パワーとか使ったのかなって思ったり?」
挑発するような発言をするやかまし女。
(まずい、大原女のツインテールが三〇度ほど上がっているぞ!)
俺は平穏を愛する者。クラス内で軋轢を生まず、こいつを鎮めるためには…
立ち上がる俺。目立ちたくはないが、あいつがあのままキレれば回りまわって多分関係者である俺にも風評被害がいくだろう。そこから発展する陰湿なイジメ、それだけは、それだけは絶対に避けなければ!俺はそこそこ回転する頭を回して最適解を考える。
「おい大原女、お前が昨日忘れた毛布を取りに来たんだろ。転入までする必要なかっただろ」
桜を背景にコーギーがプリントされた毛布を手にあげながら、俺はみんなの意識をこちらに向けることに成功したは良いが、ここからはノープランだった。大原女の行動次第という大博打という訳だ。
目を見開き心底驚いたような大原女は、俺の真意を察したのか、大きく深呼吸をした。
そして、ゆっくりと口を開く。
「ええ、あんたに貸した毛布を返してもらうためにこのクラスに来たのよ。あんた、そのまま借りパクしようとしてたんでしょ」
「ああ、そのつもりだったから驚いた。そこまでするなんてな。取りに来いよ。」
言い訳としては苦しすぎるにもほどがあるが、これで話の肝は凌三会うんたらから、俺とあいつの関係に変わるだろう。それを適当にのらりくらりと躱せば、またいつもの平穏が戻るんだと願っているぞ俺は。
(頼むからこれ以上俺を面倒ごとに巻き込まないでくれよ)
無力な俺には願うことしかできない。
「じゃあ学級長さん。私あの阿保の隣でいいわよね?隣の角刈りの人、譲ってくれるわね?」
こいつの有無をいわないもの言い、やはり恐ろしいな。
「おう!なんだかよくわからんけどいいぞ!歩!お前もあんな美人さんと、にゃんにゃんうふふできるなんて羨ましい奴だぜ!」
なにやらテンションが上がった豪が意味不明なことを口走る。それで教室はまた大混乱。
おーい。俺は地味に耳がいいから「あんな定年間際の枯れたおじさんみたいなやつと…」
や「恋のABCどこまで行ってるんだ」「おそらくAとBの間」、「毛布で一体何を…」とかの意味不明な噂話、全部聞こえちゃってますよ~。
思春期の少年少女の妄想力に甚だあきれ果てる俺。
豪の発言でツインテールがM字になりフリーズしてしまった大原女。これはこれで面倒ごとにならないから楽かもしれんな。と思いつつ、仕方がないので俺の隣の席にこいつをおぶって席に連れていく。
「ヒューヒュー!」
などの歓声を無視しつつ、こいつの暴走を事前に食い止めれたことで、ある種の充足感が俺を満たしていた。あと、こいつ昨日は気付かなかったが身長が一五一センチ位で体重も45キロは余裕で切ってるな。胸もないし。強い態度で隠されていたが少し心配になるぞ。
「はい。じゃあ転入生の大原女咲さんとみなさん仲良くしましょうね。チャイムが鳴ったら学校探検スタートなので、各自で動いてください」
何事もなかったかのように平然と進行させる学級長こと明星葵
朝の会が終わり、当然興味が俺と大原女に注がれるが、こういった場面で桂圭が役に立つのだ。
「おい、圭、何とかしておけ」
「任せろ盟友。俺はすべてを知るものだ」
そういってこの場を圭に任せ、俺は大原女をおんぶした。
(花さんや、俺の望んだ平穏は、この女によってめちゃくちゃにされそうです)
諦めにも似た感情で、この諸悪の根源の重みを感じつつ、俺は保健室へと向かうのであった。
(こいつも、色々抱えているんだな)
保健室に大原女を預けた後、安住の地である図書室に向かう途中で、ふとそんな思いが俺の脳裏をよぎった。彼女を見るクラスメイトの視線は、彼女自体を見るものではなく、凄い姉の妹であるという属性に真の眼が向けられていたように思える。あまり見ていて気持ちの良いものでは無かった。
昨日の彼女の俺が気絶する前に言ったあのセリフや神妙な顔つきのの真意が、少し覗いてきたように感じた。同情はするが、それでも俺を巻き込まないで欲しいというのが本音だ。
まじないのように言うが、俺は平穏を愛するただの人なのだ。青春に美少女も超展開も不要だろう。
ついったしてる@suiren0402desu
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