{第32話} 克明の狼煙
凌三高校校則
其の二、部への所属人数で甲乙丙丁と等級が決まる。
甲・三十人以上で校則審査会での拒否権と血戦の強制開始権
乙・十人以上で部室の所有又校則審査会への校則草案提出権
丙・五人以上で正式な部となり、部活棟使用の優先権を有す
丁・五人未満では前記の権利を有せず
「おい大原女。お前どうしたって言うんだよ。勝つ事にあれだけ拘っていたお前が勝負を捨てるのか?」
「…………」
「そんなの全然お前らしくないぞ」
「……なによ」
大原女は俯きながらぼそりと呟く。
「ん?」
「私らしさってなによ!」
俺の顔を見た大原女は、目に涙をためてそう叫んだ。
「うるさいわお前!ボリューム落とせ」
周りを警戒しながら、俺はまた大原女をお姫様抱っこして移動する。
こうなったらもうバレバレだろう。
「放してよ」
「お、お前、暴れるな」
俺の腕の中で声を潜めて暴れる大原女だったが、流石に少し落ち着いてきたのか徐々に大人しくなっていった。
俺は灯台下暗しということで俺らが撃たれた場所に戻ってきていた。
「答えなさいよ」
俺から離れ大原女が訊ねる。
「何をだよ」
「私らしさって何よ」
(またそれか)
「私、自分が見えなくなっちゃったの」
「手短に頼むぞ」
ゴッ
俺の顎にストレートを食らわす大原女。
「私ね、今じゃ考えられないと思うけど、小学校までは所謂お姉ちゃん子だったんだ。
ずっと姉にくっついて、姉のすることなすこと全部真似て、それで満足してたの。
でもある日クラスの子に言われたの。
「咲ちゃんって全部お姉ちゃんに負けてるね」
って」
大原女は、過去を語りだした。
「それでそこからは姉を越すために血反吐を吐く努力をしてきたわ。でも、結局ぜーんぶ負けちゃった。ピアノもそろばんも陸上も書道も新体操も何から何まで全部。
そこから姉が中三になった時、姉は突然消えたわ。家族もダンマリで、私はそこで思っちゃったの。
何が何でも見つけ出して、姉の全てを否定したいってね。姉を探すのは大変だったけど、ネットで姉に関わりそうな情報はどんなに小さくても拾ったわ。
そしたら凌三のローカルニュースに辿り着いて、名前は伏せられてたんだけど敏腕改革者として扱われたてたわ。その改革を始めたばっかりで全国的にはまだ知られて無かったんだけど、私は確信したの。
これは姉だって。そしたら後は一直線。受験してここに引っ越して、姉を私の力で否定する。
それで全部終わると思ってたんだけどな」
大原女の危うさ、それは大原女暦にも指摘されていたが、こいつの目には姉しか見えていない事だ。
行動指針が姉優位すぎて、こいつ自身の願いが完全に包まれて見えなくなっている。
「姉に指摘されて私もハッとしたわ。私、仮に姉を越せてもそこから何がしたいんだろうって。
今までずっと姉の背を追うだけだったから、私の本当の願いって何なんだろうって」
大原女はこちらを見つめる。すさまじい吸引力のその瞳力から、逃れる術は無い。
「ねえ歩、何度でも聞くわ。私らしさって、何?」
大原女の瞳は、切実に答えを求めていた。
俺は、自分の考えを整理するようにゆっくり言葉を絞り出す。
「俺は、出会って一週間でお前の過去も何も全然知らん。俺の主観でお前らしさを言うならな、後先考えずに困ってる人を助けれて、自分の目的の為なら何でも出来る行動力を持ってて、だけどアホ頭に似合わず自分の事を考えれる。そんなちょっと前向きなだけで普通の女の子ってのが、お前らしさって言うんじゃねーの?」
「普通の女の子…」
「だからさ、そう!初志貫徹だよ。お前はずっと姉を越すために頑張ってきたんだろ?だったら結果はどうであれ自分が満足するまでやり切るのが大事なんじゃないか?」
「でもその後は、私、何を目標に…」
「それはその時で良いんじゃねえの?未来なんて誰にも分からないし。お前ってまあ、何でもできるし、面も良いし、行動力もあるんだからなんか見つかんだろ。
見つからなくっても、それで人生が終わる訳じゃないんだから気長に考えれば良いさ。
そう、お前は何事も焦りすぎなんだよ。もっと俺みたく気楽に生きようぜ」
俺は大原女の頭をなぜか反射的に撫でていた。
俺は負けた方が良いのに、何故こいつに塩を送るようなことを言ったのだろうか。
「なんで、そこまで言ってくれるの。私の事嫌いなんでしょ」
「なんでかは知らんが、その、お前のそういう全部抱え込んで今にも消えそうな顔は見たくないんだよ。俺は、常に前を向いて突っ走るお前が、その」
大原女は顔を真っ赤にしながら俺の言葉を待っている。
心臓の鼓動がはっきりと聞こえてくる。
ここが戦地だということを忘れそうだ。
あいつらは徹底的に待つつもりらしく物音ひとつしない。
(ああ神様。俺の人生になんて子を登場させたんだ。こんなの反則だろう)
「まあ、大っ嫌いではなくなったとだけ言っておこう」
「ぷっ。あんたってホントひねくれてるわよね」
静かにツボる大原女。彼女の瞳は、本来の輝きを取り戻していた。
「とにかくだ。俺は全力でやって負けて、お前とはおさらばするんだ。そうじゃないと寝覚めが悪いんでね」
「あんたはいつも寝覚め最悪みたいな顔してるんだから、関係ないでしょ」
「そうですか」
「ごめん、今の嘘。ありがとう」
「お、おう」
こいつから感謝の言葉が出るとは思わず、俺は若干引いてしまった。
「よし、歩!あいつらぶっ倒して他の全員もぶっ倒して姉をぶっ飛ばすわよ!」
大原女は今まで沈んでいた反動か、いつも以上に元気満タンだった。それが俺にはどうしようもなく嬉しかった。
「さあ、どうするんですか部長」
芝居がかった口調で俺は訊ねる。
「まずは栗田を倒すわ」
そう言うと大原女は、作戦を説明し出した。
ついったしてる@suiren0402desu
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