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{第29話} 大原女咲は大原女咲だ

血戦規則


其の三 、血戦で敗れた部は勝利した部が提示した条件を遵守し、加えて一か月の部活動停止とす



 ピンポンピンポンピンポンピンポン


(う、うるさいなぁ、誰なんだ)


まどろみの中、玄関で気絶していた俺は徐々に覚醒し、ドアノブに手をかけようとする直前に思いとどまる。そしてインターホンからこの騒音の主の顔を確認する。


 そこには、俺の幼馴染で実家が花屋の藤野花がいた。


「どうしたんだよ」


「あ!歩ちゃん!私何回もピンポンしても出てこないから心配したんだからね?ちょっと外出てきてよ」


「ああ、今行く。ちょっと寝てたみたいだ」


ご飯を作ってくれたのだろう。ウキウキで俺は玄関に向かいドアを開ける。


「歩ちゃんこんばんは!」


「ああ、ご飯作ってくれたんだろ?ありがとな」


花が手に提げていた袋を俺が受け取ろうとすと、花はなぜかその手を引っ込めてしまった。


「歩ちゃん、すっごく悲しそうな顔してるけど何かあった?」


心配そうにおさげの花は見つめてくる。


「俺が悲しい?お前の飯食べれると思って嬉しかったけどな」


無意識に顔が強張っていたのだろうか。スマホで確認すると、確かに悲壮感溢れる俺が写っていた。


「歩ちゃんの自転車、ここ最近見かけないし。もしかして、咲ちゃんにまたなにか付き合わされてるの?」


(幼馴染には全部お見通しって訳ですかね)


隠しても無駄だと悟った俺は、かいつまんで今日までの出来事を話した。花はただ黙って、優しい顔つきで聞いてくれた。



 「そっか。咲ちゃんにそんなことがあったんだね」


「ああ、俺はどうしていいか分からんくてな」


「咲ちゃんって一人暮らしだよね?」


「ああ。良いマンションに住んでるよ」


そう尋ねると花は意を決したようにご飯が入った袋を俺に渡し、去ろうとした。


「お、おい!どういう事だよ!」


「ピーマンの肉詰めとかその他諸々‼作りすぎちゃったから歩ちゃん一人じゃ食べれないかも!じゃあね!」


そうやって手を振ると、花は家に帰っていった。これは流石の俺でもわかる。飯を大原女に届けてやれってことだろう。


(いつになく遠回しな花の行動は少し疑問だが、行ってやるか。)


そう思い立ち俺は、夜の凌三で自転車のペダルを回し始めた。




 大原女の部屋番号を押し、あいつを呼び出す。


「はい」


「俺だ、花が飯余らせたから持ってきてやったぞ。出て来いよ」


「歩か、じゃあそこに置いといて」


「お前、大丈夫か。飯ちゃんと食ってるか」


疲弊が声だけでも伝わる大原女に、俺はついお節介を焼いてしまう。


「大丈夫だから心配しなくていいわ。ありがとね」


「月曜!」


そう言って切ろうとする大原女に待ったをかけるように俺は叫ぶ。


「何が何でも来い。お前が来なくて不戦敗にでもなって、それでお前が不戦敗だから無効とか言って俺を更にこき使う恐れがあるからな。あとお前の家庭事情はどうでも良いけど、今度はちゃんと姉さんに言い返せよ。じゃあ、良く寝るんだぞ」


一方的に伝えたいことを伝えて俺からインターホンを切る。大原女は常に前を向いている頭のおかしなポジティブ馬鹿だと思っていたが、あいつも一人の、傷つくこともある女の子だったんだ。それに俺はようやく気付いた。信じてみよう、あいつを。




 4月22日月曜日。青空と雲がせめぎ合っている空の下、放課後になった。なのに大原女はまだ学校に来ていない。俺は血戦が執り行われる本棟屋上に向かっていたが、焦りは募るばかりだった。信じるといっても、ここまで来ないということは勝負を放棄したのではないかと邪推もしてしまう。


と、俺が屋上へ出るドアへ手をかけようとした時、誰かと手が重なってしまった。


「ああ、すまんすまんお先どうぞ」


「なによあんた、気持ち悪いわね」


すっかり耳に馴染んだアニメ声に金木犀の香り。そこにいたのは、正真正銘、大原女咲だった。


「お前!来ないかと思ってたぞ!」


「ちょっと色々することがあったのよ。私が来ないわけないじゃない」


いつものように憎まれ口をたたく大原女だが、まだ元気いっぱいという訳では無かった。


「まあ、来てくれたならいいや。とにかく行くぞ」


「ええ、勝つわよ。この血戦」


そういい合い俺らは一緒にドアを開け、決戦の地への一歩を踏み出した。




ついったしてる@suiren0402desu

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