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{第27話} 転換点③

血戦規則


其の一、血戦とは部活同士の紛争解決手段として本校に設置された絶対の規範である。すべての部活動が対象であり、双方合意の上でルール、日取りを決め、血戦三日前迄に生徒会に「血戦申込書」を提出す



 ザザザ、ザーザー、ザーーザー


 小雨だけがこの世界に音の存在を知らしめている。姉さんの隣にいるアイドル女が傘から顔を出し、大原女に向けていた。


「あれれ?咲ちゃんじゃん!この前はどーもー」


良く通る明るい声でアイドル女は話しかける。


「音香、こいつと知り合いなのか」


宝〇歌劇団にいても違和感のない、両性を魅了する声の姉さんが音香に尋ねる。


「そうなんだよ暦れき。体操着を一新することになったじゃない?広報誌にそれを載せるために咲ちゃんをモデルとして採用してみたんだ!」


(竹馬部と翼賛会が血戦をしたあの昼休みに大原女が体操着でいたのはそのためか)


「そうか」


暦というらしい大原女の姉さんは、大原女を見下ろし、言葉を紡ぐ。


「お前は一体、何をしているんだ」


「わ、わたしは……」


「お前は何故、この学校に足を踏み入れた」


「……」


黙り、俯く大原女。普段場を制圧するのは大原女なのに、今は完全に立場が逆になっている。大原女以上の制圧力、呼吸すら彼女にコントロールされているようだった。


「お前がこの学校で何をしようとも、無駄だということが分からないのか」


「わ、私は!姉さんを越すためにこの学校で…」


「何故私を越さなければいけないのだ」


「そ、それは姉さんを越すことが私の…」


(こんな大原女は初めて見たぞ)


「ならば万が一にでもお前が私を越したとしたならば、その後、お前はどうする」


「……」


「お前は、昔から私を疎ましく見ていたな。私という存在が無ければお前は」


「ちょっと待ってくれよ大原女さん」


大原女暦の紡ごうとした言葉が、大原女の精神を著しく損耗する類の物であると俺は直観的に感じた。


「何者だ。お前は」


圧倒的なプレッシャー。足がすくんで動けない。


(大原女はこれを、生まれてからずっと喰らってたのか。正気の沙汰とは思えないなホント)


「俺は一年壱組、こいつと同じクラスで同じ部活の黒木歩だ。」


「黒木、お前があの黒木なのか」


大原女暦は俺の素性に心当たりがあるようだった。流石トップ、何でもお見通しという訳か。


「ああ、その黒木だよ。あんた、大原女、ああややこしいな。咲を壊そうとしただろ。あんたが言おうとした事は、はっきり言えば終わってるね」


「あ、あなたね!暦になんて口の利き方をしてるのよ」


「今はお前に話していない」


「あなた…!」


俺を諫める一ノ瀬音香は、今は邪魔だ。


「こいつの事は私が一番知っている。お前に口をはさむ権利は無い」


「いいやあるね。俺は凌三ぶっ壊し部の副部長兼参謀だ。しかも、お前は咲について何も知らない。咲はな…」


更に啖呵を切ろうとする俺を、後ろから大原女が抱き留めて制止する。


「やめて。もう良いから。やめて」


大原女の心の底からの嘆願。頭に上った血がスーと抜けていくようだった。


「ああ、悪い。こんなのはやめだ」


俺は大原女暦に、何を言おうとしたのだろうか。こいつを庇う義理なんてどうせ部活を辞める俺には、無いはずなのに。


大原女暦は俺らを怜悧な眼差しで一瞥した後、何も言わずに玄関に入っていった。それに一ノ瀬音香が続く。一ノ瀬音香は俺に何か言いたげな様子だったが、言葉を飲み込み去っていった。


残された俺らは、大原女暦が受けた視線とは逆の、侮蔑と怨嗟の籠った目線を左右両方向に散った生徒たちから浴びながら、正門を後にした。


 


 俺は大原女の傘を8割どころかほぼ全てを大原女に差しながら、無言で帰宅する。


小雨だったはずの春雨は、いつの間にか激しさを増していた。


「私の酷い姿見て、幻滅したでしょ」


大原女が自嘲気味に話し始める。


「幻滅なら出会って速攻暴力振るわれたときにしてる」


これは本当。そして大原女のマンションに着く。


「ごめんね」


 そう一言言い残し、大原女はエレベーターに乗り込んでいった。今までのしおらしモードとは違う、意志の強い瞳の輝きを失っていた。


俺は、何も言う事が出来ず、その後姿を見ることしか出来なかった。



ついったしてる@suiren0402desu

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