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{第26話} 嵐の前の静けさ

明星葵は、白髪で切れ長の目が特徴の学級長だよね


凌三高校校則


其の六、次期頭取は年内に現頭取が指名、もしくは選挙を行うものとする。単一の部に所属する者が生徒の過半数を占める場合、頭取と部長の合意の上、二陣営での一騎打ちも可能とす




 「歩、帰るわよ」


六時間目の現代文が終わり、明星葵学級長が連絡事項を澄んだ声で読み上げているとき、大原女がそう声をかけてきた。


「俺はRTAを3日も中断してるんだ。今日は何が何でも帰るぞ」


(今まで雨でない日は必ずタイムを計っていたのに、こいつと出会ってからは1回も出来ていない。流石にフラストレーションが溜まってきたぞ)


「あんた、外見なさいよ」


そう言われるがまま外を見ると、曇天からこまやかな雨が滴っていた。


「この天気じゃ、あんたはRTAが出来ないし、自転車も汚れるのを懸念して屋根付き駐輪場から出せないわよね?それにあんた、傘持ってきてないじゃない」


「そう、だが……」


俺の置かれた状況を完璧に理解している大原女は、得意げに折り畳み傘をふらつかせている。


「だから、哀れなあんたの為に、仕方なーく私の傘に入れてやるわよ!」


「つまり、相合傘か」


「ちょ、入れるって言ったって八割は私のスペースなんだからね?」


大原女は急に恥ずかしくなったのか、意味不明なことを言い始める。


「大原女さん。黒木君」


決して声は大きくないのに良く通る声で俺らを名指しする明星学級長。


「あなたたちは、人の話が聞けないのですか」


雪女の愛称にふさわしい、背筋が凍るような明星学級長の注意に俺らはただ黙る事しかできなかった。


  


 春雨を受けた凌三高校は、悲し気な雰囲気を漂わせていた。


桜柄の折り畳み傘をなぜか開こうとしない大原女は、よく見たら手に汗をびっしりかいていた。


「おい、お前大丈夫かよ。さっさと帰るぞ」


「そうよね。これは傘を持っていないあんたへの謂わば慈善活動。慈善活動よ!」


パージして本当に俺に二割ぐらいのスペースしか与えず歩き出した。


(少し妙だぞ)


いつも俺らが一緒にいると冷やかしてくる奴が必ずいるのに、今日は明らかに他の生徒が俺らに関心を示していない。それどころか、何か人だかりで見えないが、正門から誰かが来るぞ。



 男女問わず黄色い歓声を受けていたその人物を初めて見たとき、俺は大原女を初めて見たときと似た感想を抱いた。彫刻品のようだと。


それほどまでに、紅梅色のロングヘアーも、アネモネのような瞳も、シャープで端正な顔つきも、170近くある身長に完成されたプロポーションも、完璧と言わざる負えない。それ以外に言葉が見つからないような、そんな人物だった。大原女より強大な、逆らえない雰囲気を常時纏っていた。


他の生徒たちはそんな彼女と、もう一人のアイドルのセンター級の美貌を持った、薄黄色の髪を水色のシュシュでポニーテールにまとめ、キンセンカの花をそのままガラスに染色させたような大きな瞳に、常に上がった口角が印象的な二人の通る道を、まるでモーセに割られる海の如く、規則正しく作っていた。



 一般生徒は口々に「大原女様!」「天帝様!」と教祖のようにその人物を呼んでいた。彼女は、よどみ無く真っすぐ俺らがいる玄関に向かっていた。


「おい大原女!なんかヤバいぞ!あれお前の姉さんだろ。いったん退いとかないと…!」


俺が大原女に声をかけるが、彼女は傘をさす前にしていた小刻みな震えとは違う、全身が痙攣し、顔を真っ青にしてその場に立ち尽くしていた。


びくともしない大原女に苦戦していると、とうとう二人は俺らの前に来てしまっていた。大原女の姉さんが止まると、鳴りやまなかった歓声も一斉に止まった。


水中に飛び込んだ後のような静寂が、悲し気な凌三高校を包んでいた。






    雨は、まだ止まない。





ついったしてる@suiren0402desu

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