{第22話} 交×渉②
凌三高校校則
其の二、部への所属人数で甲乙丙丁と等級が決まる。
甲・三十人以上で校則審査会での拒否権と血戦の強制開始権
乙・十人以上で部室の所有又校則審査会への校則草案提出権
丙・五人以上で正式な部となり、部活棟使用の優先権を有す
丁・五人未満では前記の権利を有せず
松本部長は、静かに語り始める。
「一旦お前らの話を鵜吞みにするとだな。俺らが勝った場合、確かにメリットが大きい。ただし、負けた場合はどうだ。こんな反抗すると言っているような部に俺らが入ってしまったら、負けた時点で終わり。そうじゃないのか」
それは、俺も感じていた。そして大原女も多分知っていた。だから丙への進級じゃなく乙への進級という大きすぎる釣り針でカモフラージュして釣ろうとしてたんだろう。だが、松本部長はそれに引っかかからなかった。こうなると、難航するぞ。
「でも、このままじゃリストに入っているあなたの部は血戦を仕掛けられることになるのよ?それを受け入れるという訳?」
「そもそも、お前はそのリストをどうやって入手したんだ」
「っ!」
(ご尤もです)
「入手経路は恐らく非合法、そしてそのリストが存在しているのかすら疑い深い。だから、受けずにこのまま活動を続ける」
もう一度、きっぱりとした拒絶。
ここまでの展開を彼女は想定していなかったのだろう。恐らくリストは本物。それを得た時点で誰もが血戦をすると思い込んでいたに違いない。だがその目論見は外れた。彼女ですら見誤っていたのだ。姉が支配するこの学校の、厳格すぎる上下関係を。いくら知識をつけようと、一日の長がある相手にとってそれは机上の空論、ということだ。
悔しさからか歯ぎしりをする彼女の横顔は、“打つ手なし“と言っているようだった。だがここまで来たのだ。あとは参謀の俺がなんとかしよう。と大原女の肩に手を置き、話し始める。
「部長さんの言いたいことは分かりました。じゃあ、栗田はどう思うんだ。血戦を受けるべきかそうでないか」
部長の後ろに隠れていた栗田は、おずおずと出てきながら何を言おうか迷っているようだった。
「確かに血戦を受けた時点でマークはされる。しかしお前らが仮に負けて俺らの部に入ることになって、俺らが問題行動を起こしたとしても、こう言えばいい。「私たちは、脅されて仕方なく入るしか無かったんです」とね」
部長が懸念しているのは、そもそも血戦を受けるリスクその物。ならば、それを無くせると部長ではなく、あまり頭が回らないこいつに思わせればいい。
「それを聞いた甲、はたまた他の生徒はどう思う?栗田」
「ええと、可哀想、かな?」
「そうだ。この血戦は一見負ければ危機的状況に陥るように見えるが、その後俺らを悪者に仕立てて被害者ぶれば、結果的に反抗の意志無しとみなされてリストから外される。勝てば公的な地位が、負ければ凌三ぶっ壊し部を悪者に仕立てることで、どちらも身を守れるんだ。なら、血戦を受けるデメリット以上のものがあると思えないか?」
俺はひとしきり話し終える。栗田は、部長の顔を伺っているが、部長は栗田の意思を尊重してか、目をつぶって佇んでいるだけだった。
「確かに、もしリストが本当なら受けて、マークから外された方が良いのかも…」
「部長さんはどうお考えですか」
身内が俺らの考えに賛同し始めたのなら、もう一考せざるを得ない。それが人という生き物だ。他人を完全に排することなんてできやしない。
「………」
なお、険しい顔を続ける松本部長。
「これでも納得できないなら、俺にも考えがあります」
(こんなすぐに使う時が来るなんてな)
俺は最後の切り札を出す。大原女、お前には悪いことをするがな。
「部長さん、あなた相当二次元キャラへの含蓄が深いですよね」
松のカサで作られた精巧な制服二次元キャラのフィギュアの群れを指しながら俺は言う。
「それが、どうした」
唐突な質問に真意をくみ取れずにいる松本部長。
「あなた、この女、大原女咲を一目見たときどう思いました?」
「何も思わなかったが」
「ちょっと歩、これはどういう」
「いいから見ててくれ」
俺の恐らく初めて見る真剣な眼差しに、大原女は目を見開き頷いた。
「あなたがなんて思ったか当ててあげましょうか」
無言を貫く松本部長。あくまで答えないつもりだろう。
「初めて見てこう思ったはずです。「二次元から出てきたようだ」と」
「……!どう、して」
「俺と同じ、ネットの世界に生きる者独特のこだわりをあなたに感じたからです。ここまで松のカサであらゆるもの作れる、そしてその熱意は自分の好きなキャラにまで向く。俺も気持ちは良く分かります」
俺は、中学時代にラノベを書き始め、とにかく理想のヒロインを完成させようとのめりこんでいた頃を思い出す。
「俺も、こいつを初めて見たとき、悔しいですが可愛いと思いました。現実にこんな人がいるのかと。」
(大原女の表情は、あまり考えたくないな。終わったら煮るなり焼くなりすきにしてくれ)
「だからこその条件です。もしあなたの部が勝ったら、大原女の、大原女の、」
言い淀む俺。大原女が手を握ってくる。なんて、安心するんだろう。でも、怒られるだろう。
「オフショット写真集をあなたに贈呈します!」
ゴンっ
鈍い衝撃が後頭部に走る。三半規管が揺れ動き、俺の脳が活動をゆっくりと停止していく。
(大原女に、回し蹴りでもされたのか。そりゃあんなこと言ったら当然だよな。じゃあ、後の事はまか、s)
俺は、今月二度目の気絶をした。気絶の原因は常に大原女にあるんだが。
今回のは、自業自得か。
ついったしてる@suiren0402desu
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