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{第21話} 交×渉①

凌三高校校則


其の一、部活動の作成、活動、所属は、公序良俗に反しない限り、原則自由であること。また、部活動に関する請願又血戦の異議申し立てに関する審判は凌三会に帰属し、その他部活動も凌三会に連なる。凌三会の頭取は人事権、校則立案権から成る大権を有す



 放課後になった。結局大原女は六時間目も戻って来なかったので帰ろうとしたところ、俺の自転車に跨る小さい影が見えた。影はこちらに気づくや否や猛ダッシュでこちらに向かって全力疾走してくる。


「あんた!何帰ろうとしてるのよ!放課後は‼宣戦布告って言ってたでしょ⁉あんたの脳みそって本当に容量が圧迫されてるのね!」


いつものハイテンションな大原女が戻っていた。


「お前こそ体育の後どこに消えてたんだよ」


「私は、私のことはどうでも良いでしょ!はい!もう行くわよ!」


「ぷっ」


俺は少し吹き出してしまう。


「あんた!何がおかしいのよ」


真っ赤になりながら俺に詰め寄る大原女。


「いや、朝といい身体測定といい今日のお前なんかおかしかったからさ、こういう怒ってるお前の方が自然ってか、良いと思うぞ」


不意を突かれたのか、後ずさっていく大原女。


「あ、あんたのそういうとこが…いや、何でもないわ」


「なんだよ」


「何でもないの!というか、あんたは今の私の方がす、すきってことなの?」


(なんか話が逸れてないか?早く帰りたいんだが)


「まあ好きか嫌いかの二択ならそうなるかもな。それより行くなら早く行くぞ」


「ちょ、ちょっと!ちゃんと答えなさいよ!」


(めんどくせー!)


「少しは自分で考えろよ。お前のその前向きな思考で固まった頭でも考えれるだろ」


「あ、あんたね!今はとりあえず良いけど、あとでちゃんと答えて貰うからね!さあ、行くわよ!」


逃がさないように俺の手を握りながら、大原女は勇み足で歩き出すのだった。彼女は なにか、吹っ切れたようだった。何からは良く分からんが。





 夕焼けが、空を覆い夜の始まりを告げようとしている。


俺等は、部室棟にある松ぼっくり解体部の部室の前に立っていた。


「私が話をつけるわ。あんたはこの紙とペンを持っといて。相手が書いたら、それを生徒会室に持ってって頂戴。地図は公式アプリについてるわ。迷ったらナビ機能もあるから」


血戦申込書なるものを渡され、既に凌三ぶっ壊し部と俺と大原女の名前は記してある。もう大原女にとって説得できることは既定路線らしい。恐ろしい自己肯定感だ。


「俺はすぐに帰りたいんだが」


「私、あんたと位置情報共有してるから」


「……はい」


神は彼女に百物を与えたのに、倫理観だけは完全に奪い去ってしまったらしい。


「じゃあ行くわよ」


ノックもせず、彼女は部室に入っていった。



 「……」


俺は部室を見て、呆気に取られる。恐らく松ぼっくりで作られたであろう、サブマシンガンやハンドガンなどの現代武器や、机、椅子、はたまた美少女フィギュアなど部屋に置かれてあるほぼ全ての物が松ぼっくりのカサでできていた。そこにいた二人の男女が何事かとこちらに視線を向けていた。


「私、凌三ぶっ壊し部の大原女咲って言うの。単刀直入に言うわ。私の部と、血戦をしなさい」


こいつの独断専行見下し具合に頭をやられる俺。こいつはなんでこうもこうなんだ。というかタオルを頭に巻き付けたいかにも職人のような恰好をしている男は年上だろ。敬語じゃなくていいのか。


「あの、もしかして大原女さんと黒木君ですか?」


頭上で髪を結んだ薄いオレンジ髪の女が、おどおどしながら話しかけてきた。


「歩」


「知らんぞ」


二人とも知らないことを確認しつつ、俺の記憶データベースを捜索すると、入学時、空に向いた結んだ髪が目に入ったような無いような。


「わ、私は栗田ユメ。あなたたちと同じ壱組なんだけど…知らないよね」


伏し目がちに大原女と大差のない身長の栗田が呟く。


「も、もちろん知ってるわよね?」


(俺に振るな)


「ああ、入学式で俺の前だっただろ」


「そうだったんです。それで何の用でしたっけ」


栗田が話の軌道を戻す。


「そうよ、私の部と血戦してくれるわよね?」


「ええと私は部長じゃないから。部長、どうしますか」


「しない」


はっきりと明瞭な拒否。見た目通り寡黙だ。


「あなたが部長の二年松本康太ね。どうしてできないの」


「デメリットが、多い」


「でしょうね。それに二年生なら頭取とその取り巻きの強さは十分に分かってるものね」


「でもこの部はこの血戦を受けなきゃ、そう長くもたないわよ」


大原女は挑発するように部室に並べられた武器たちを撫でる。


「ちょっと大原女さん!なんでそういうこと言うの?」


栗田が反論し、場の空気は悪くなる。


「だって危険だもの」


「危険?」


栗田はいちいち大原女の言動に反応する。大原女からしたら話の誘導にこれほど最適な人間はいないだろう。


「明らかに丁が持つには過剰すぎるほどの武力。この武器たち、かなりの改造を施しているわよね?」


「そ、それは」


「だから翼賛会の血戦リストに載ってるの」


どこからその情報を仕入れたんだこいつ。大原女の事だからデマという線もあるか。


「情報の真偽は」


松本部長もそれが気になったのか、聞いてくる。


「そうだと思って証拠を持ってきたわ。これよ」


そこにはモザイク処理された部分がほとんどだが、血戦リストと松ぼっくり解体部の文字はその処理が施されていない紙があった。


「そ、そんな」


「あなたに謀反を起こす意思が無くても、向こうは知ったこっちゃじゃないわ」


「……」


部長は作業の手を止めずに話を聞いている。


「でも、このリストから逃れる方法が一つあるわ」


大原女は元いた位置に戻り口を開く。


「丁から丙に昇格、つまり部員を五人に増やせばいいのよ」


「それだけで変わるとは思えん」


松本部長は反論する。俺も同意だ。


「いいえ、あなたたちはこの学校の厳正な階層構造を理解できてないわ。この学校は丙から正式な部として認めているわよね。ここをあなたたちが使えているのも、丙が部室棟の数より少ないから。それだけだわ」


止まらない大原女のマシンガントークに、松本部長も作業の手を止め、静かに聞いていた。


「翼賛会が属している甲が血戦の強制開始権を有しているのは知っていると思うけど、あれはその後に正当な理由であることを書面で証明しなければいけないの」


(なるほど、だから昼休みに起こったあの血戦は、ある程度騒ぎを大きくして、治安維持の名目として翼賛会が出てきてたのか)


「だけど、その証明が必要な階層に、丁は含まれていないわ」


松本部長が大原女の目を凝視する。まるで、「本当か」と驚愕しているように。それに対し栗田はあまり理解できていないようだ。


「ええと、つまりどういうこと?」


「要するにだ、お前らの部はいつ強制的に血戦を申し込まれるか分からんってことだ。でも部員を増やせば大人しくしている限り手出しはされない。そうだろ?」


俺の頭の整理を兼ねて、説明する。


「ええ、そうよ。これからが本題。私の部と血戦をするデメリットを上回るメリットがあるわ。それはね、もし私の部に血戦で勝てたら、私とこいつ、そしてその他六人を集めてこの部を丁から乙の二段階アップさせてあげるわ。乙になれば、本棟にある部室を改造する正式な予算が出るし、よほどの事じゃない限り甲も手は出してこないわ」


「………」


部長は、考えているようだった。もし俺が部長の立場でもすぐに結論は出ないだろう。血戦を受けた時点でどちみち甲にはマークされるのだ。勝てばリターンが大きいが、


「お前らが勝ったら、俺等はどうするのだ」


当然そこが気になるだろう。


「理由は言えないけど、私の部に二人とも兼部してほしいの」


「け、兼部?」


「ええ、そうよ。勝てば二階級特進、負けても兼部だけ。悪くない条件だと思うけど」


ひとしきり話し終えた大原女は、俺の手を少し握ってきた。小刻みに揺れた手は自信家な彼女らしくない不安を表しているようだったが、俺は握り返せなかった。


「ぶ、部長、どうしましょう」


不安そうに松本部長に駆け寄る栗田も、突然の出来事にすっかり脳が追い付いていないようだった。




 そして、数分の沈黙の後、松本部長は口を開く。



「駄目だ。俺らは血戦をしない」



 それは、4人しかいない部室棟に、強く、響いた。




ついったしてる@suiren0402desu

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