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{第1話} 桜舞う出会い

凌三高校校則


其の一、部活動の作成、活動、所属は、公序良俗に反しない限り、原則自由であること。また、部活動に関する請願又血戦の異議申し立てに関する審判は凌三会に帰属し、その他部活動も凌三会に連なる。凌三会の頭取は人事権、校則立案権から成る大権を有す


二十五歳で死のう。








 俺はいつからこの思考に支配されたのだろうか。




 もう、その過去もぼやけて見えない。




 過去を悔やみ、過去にすがる日々。




 この物語は、そんな俺の、不変だと思い込んでいた日々がひび割れていく、そんな話になっている。君に出会わなかったら、俺は…






 


{第一話}




 舗装路と自転車の車輪がこすれる音が、西日に照らされた散り桜を背景に響いている。俺は六限目が終わり次第すぐに軽量化カスタム済みのロードバイクにまたがり帰路についていた。


俺は中学校入学から高校生になった今でも、毎日欠かさず帰宅RTAに勤しんでいる。これは競技人口三十万人を越すスポーツ競技として今日の日本で発達しており、俺はこの競技で通称ブラックツリーとしてトップランカーの一員となっている。


(今日は最高記録より2秒も速いな…)


心の内でガッツポーズをし、左に小川と、それを利用して程よく回転している風車を横目に、交差点を曲がり軽快にペダルを回していた。


ガリ、バリバリバリ、ザザザァ


(なんだ?)


異音の正体を探るべく自転車本体に目けると、チェーンとペダルを繋げるフロントディレイラーにチェーンが食い込んでいたのだった。今日のタイムが絶望的になったことを確信して自転車を降り血涙が出るほどの絶望感を感じていると、左の小さな噴水広場から


「ウェー―――――ン!!ウェーン!」


と年長か、小1ぐらいの女児の泣き声と


「どうしたの?なにか嫌なことでもあった?飴ちゃん食べる?」


(飴ちゃんっておばあちゃんかよ…)


同じ高校の生徒らしい白を基調とした桜の刺繍を施した制服と、桜色のツインテールに桜の花びらのヘア止めで髪を分け、薄紫色の意志の強そうな大きいネコ目の、二次元から出てきたような、有体に言えば美少女と言女がかがんで女児に話しかけていた。




「グス...」


少し落ち着いてきたのか、肩で息をしながらの女児が口を開く。


「お母さんにね、お使い頼まれたの」


「そうなんだ!それでお母さんがいなくて寂しくなっちゃったのかな?」


首を振る女児


「じゃあお財布忘れてきちゃったとか?」


またもや首を振る女児


ピンクの女が少し困ったような気配を出していると


「あのね」


肩での息も収まり、落ち着いたらしい女児がようやく口を開いた。


「買うものをかいてくれたメモを、無くしちゃったの」


一瞬流れる沈黙。


そりゃ無理だと俺が帰ろうとしたとき、ピンクの女が口を開いた。


「ねえ、そこの凌三のあんた、ちょっと協力しなさいよ」


自分だけでは手に負えないと判断したのか同校の俺に協力を依頼してきやがった。


「やだね。俺は今すぐにでも帰りたくてたまらないんだ。この自転車を直さなきゃならんのでね」


面倒に巻き込まれまいとぶっきらぼうに依頼を拒否し立ち去ろうと信号を渡ろうとする俺の視界は、なぜか次の瞬間まぶしい青空を捉えていた。


どさっ


状況が呑み込めないまま地面に押し付けられた俺の目に、桜色の髪がかかっていた。


「あんたの都合なんてどうでもいいわよ。そんなことより困った人がいたら助けるって習わなかったの?曲がりなりにも同じ凌三に所属してるんだから自覚をもって人に接しなさいよ!」


(な、なんだこの女。いきなりマウントとって襟つかみながらマジ説教とかそっちのほうが自覚ないだろ!)


と、冷静にツッコミしてる場合じゃないことにようやく気付いた俺は、本日が厄日なことを確信しながら口を開く。


「自覚がないのはどっちだよ。人にも事情があるんだ。それに俺にもおまえにもこの子を助ける義理なんてないだろ。なんでそこまでいい人間であることを自他に強要するんだピンク女。それにおm」


途中で言葉が途切れたのは、話しているうちに女のツインテールが怒りで上がっていくサイヤ人現象を目の当たりにしたからである。


(まずい…)


冷や汗を流しながら周りを包み込むような怒気にビビり、最悪自転車を置いて逃げることも視野に入れ始めた時、ピンク女の後ろで再び目が潤んできた女児の姿が見えた。そのつぶらで空のように澄んだ瞳には、俺が自分を見捨てることを恐れているような、そんな感情をはらんでいた。


(大人に裏切られる経験をするには、まだ早すぎるか)


「分かった。解決すればいいんだろ。あとピンク女、近い」


俺は諦め交じりに、三割は女児の涙の訴え、七割は今にも爆発しそうなピンク女への恐怖から協力することにした。この間コンマ数秒である。


「あんたってほんと礼儀って概念を持ち合わせてないのね。私はピンク女じゃなくて咲ってれっきとしたなまえがあるんだけど?」


髪が元通りになった咲が、こぶしを挙げながらため息交じりに言うので、


「苗字を教えてくれよ。そっちで呼ぶから。あと俺は黒木歩な」


と普通のことを言うと


「………」


長い沈黙の後


「…大原女」


と教えてくれた。


今までの勢いが嘘のようにしおらしくなったピンク女は、立ち上がり、髪から金木犀の香りを振りまいてなぜか黙ってしまった。


「うお」


黙ったままのピンク女に押し出されて女児の前に立たされた俺は、気まずさを振り切るべく、最大限の笑顔で挨拶を試みたのだが、女児は何か感じたのかピンク女の後ろ隠れて、こちらの様子を伺っているようだった。


(俺ってやっぱ、不審者に見えるのかな…)


と、俺が落ち込んでいるとさっきまでの調子を取り戻したピンク女が尊大な身振りで話し始めた。


「やっぱあんたって性根が体から漏れちゃってるのよ!あー愉快愉快。その社会に絶望した会社員みたいな目つき直せたら少しは子供もなついてくれるかもね?」


笑いをこらえつつ罵倒してくるピンク女


「よし、早く終わらそう」


反論して帰宅時間が更に遅くなって精神的にまずい事態になるのを避けるべく、これからこいつの煽りはすべて無視する決心の元、話を進めるのであった。春風に囁かれるように心地良い日の、昼下がりであった。






 こうして、最悪に近い形で俺こと黒木歩とピンク女こと大原女咲は出会ったのであった。

ついったしてる@suiren0402desu

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