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隣の席の目堂さんは髪の毛に蛇を飼っている ―そして僕はトマトジュースを飲む日傘男子―  作者: ひゐ
第二話 僕しか知らない彼女のこと(知ろうと思ったわけではない)
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第二話(04) 心の目!


 * * *



「目堂さん!」


 叫べば、僕の声が虚しく山に響く。返事はない。動物が驚いて走り去る音もしない。僕の声は、冷たい風に巻かれて消えていってしまった。


 よくないことが起きている。心臓がばくばくいっている。

 急に目堂さんが消えるわけが、ない。


 ――それでも僕は、深呼吸して、バッグからトマトジュースを取り出した。補給して、落ち着く。


 嫌な汗が流れている。手で拭って、来た道を歩き出す。

 目堂さん、意外に子供っぽかったから、道中に何か気になるものを見つけて立ち止まっているんじゃないか――そうまずは考えた。


 が、いくらか進んだところで、僕は目を見開く。間違いない。

 僕は来た道を戻って来たはずだった。坂道を下っているはずだった。


 ――目の前の道は、上り坂になっていた。さっき見た、枝の折れた樹が、そこにある。


 引き返した記憶は一つもない。どうして戻っている。

 思い切って、僕は走ってみる。頂上へと向かって。湿って少し滑りやすくなった道を、土を飛ばしながら走る。


 大分走ったつもりだった。立ち止まった。

 枝の折れた、あの樹がそこにあった。


 迷っている、というよりも、とどめられている、というか。

 そして目堂さんの姿は未だにどこにもなく、冷たい空気ばかりが足に絡みつく。


「――まさか本当だったなんて……」


 『狐月山(こげつやま)の迷い道』。

 いままでみんな、普通に肝試ししてきたじゃないか。本当だった、なんて話は、一つも聞いたことがない。


 いったいどういう仕組みで? そしていったい誰が?

 それよりも目堂さんはどこに。この迷い道から出るにはどうしたら……。


『心の目で見るって奴さ!』


 不意に、声を思い出す。先日『狐月山の迷い道』の話をした際の、井伊の言葉だ。

 確か、目を瞑って辺りに注意するといい、って。


 本当にそんなことでこの状況を打破できるとは、正直思えない。だってきっとそれは……冷静になるおまじないのようなものじゃないか。

 断言できる、僕はいま『怪異』に出会ってしまった、と。だから冷静になったところで――。


 ……。

 そこまで考えて、僕は自分がいま、冷静でないことにようやく気付く。こんなにもごちゃごちゃ考えて。


 ようやく目を瞑った。自然と呼吸が落ち着いた。

 研ぎ澄まされた聴覚。動物の声や足音、一つも聞こえない。目堂さんのものらしき声や足音だって。


 冷たい風が肌を撫でていく。それが少し気持ち悪くて。

 ……妙な流れがあるようで。


 ゆっくりと目を開ける。先程と変わらない風景がそこにあった。『迷い道』のど真ん中。


 けれども僕の目は気付く。道から外れて木々の間に入ったところが、何か、妙だと。

 そこだけ遠近感がおかしいというか。歪んでいるというか。


 もう一度、目を瞑って。

 ――風の流れは、その場所に向かっているような気がした。


 僕は道を外れて、茂みを分け、木々の枝を折りながら、その場所へ向かっていった。道なき道は、歩きにくい。

 と、にゃあ、と声がして。


「……猫?」


 ひどく久しぶりに、動物を見たような気がした。黒猫が、茂みの中に丸くなっていた。

 多分、ただの猫だと思う。僕の直感がそう告げている。黒猫は僕に気付けば、先へと走って行った。


 思わず追いかければ、急に開けた場所に出て。


「猫……お、落ちたのか……」


 そこは、高い崖の上だった。

 明らかにおかしい。狐月山は小さな山で、こんなに高い崖があるなんて聞いたことないし、見渡す限り森が広がっている。

 そしてここに走っていった猫の姿がなかった。


 ところが、崖の先、空中に妙な気配を感じた。

 ()()だ。


 僕は一瞬迷った。でも、息を呑んで、崖の先、空へと足を踏み出した。


 ――地面を、踏む。

 冷たい空気が散るように消え去って、僕は山道の真ん中に立っていた。

 鳥の声が聞こえる。木々の茂りが薄くて、日差しがちょっと辛かった。慌てて日傘をさす。


 そして気付く。先に、ぼろぼろの鳥居があることに。それから。


「――キューくんっ!」


 背後に人の気配があることにも、気付く。

 振り返れば、半泣きの目堂さんがいた。


「こ、こわ、怖かったぁぁぁ……」


 両手はぎゅっと、髪の毛の蛇を握っていた。結構な力で握られているのだろう、蛇はぐったりとしていて、ちょっとかわいそうに思えた。

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