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隣の席の目堂さんは髪の毛に蛇を飼っている ―そして僕はトマトジュースを飲む日傘男子―  作者: ひゐ
第二話 僕しか知らない彼女のこと(知ろうと思ったわけではない)
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第二話(01) 怪異調査帳ノートってぇ?

 昼休み、校庭に来てほしい。今朝、僕のスマホに連絡が来ていた――目堂さんから。

 普通の男子だったら、あの目堂さんと仲良くなれたということで喜ぶべきなのかもしれないけれど、僕は事情が違うし、そもそも単に仲良くなったわけでもない。


 ――僕達は、怪物の末裔だった。


「あっ……ごめん、そっか、キューくん傘がいるんだった」


 目堂さんは、教室ではほとんど僕に話しかけてはこなかった。普段通り、他の女子とお喋りして、澄ました様子で授業を受けて、髪の毛の中にいる蛇もひっこめたままで……けれど、昼休みになって僕が校庭のベンチに向かえば、教室では見せないような笑みをぱっと浮かべたのだった。


 僕はといえば、昼休みに校庭に出ることなんてないから、少しひやひやしたし、それ以前に目堂さんが何を考えているのかわからなくて、怖かった。

 僕は、余計なことをしたくないし、変なことにかかわりたくないのだ。


 それにして、昼休みの校庭って賑やかだ。男子達が、誰が剛速球を投げられるか、小学生みたいに競っている。一球が風を裂いてこちらへ飛んできたが、僕はすっと避けた。


「大丈夫……目堂さん、昼休みはよく外でなんか書いてるって聞いてたから……」


 それがまたミステリアスで気になる……なんて、二年の男子だけでなく、一年や三年の男子もよく話している。


「蛇の日光浴させたいのよね~」


 目堂さんが黒髪を流せば、そこに、気持ちよさそうにしている蛇の姿があった……メドゥーサって、そんなことするんだ。吸血鬼の僕とは大違いだ。僕はとにかく、傘をささなくちゃいけないのに。


 目堂さんの膝の上には、ノートが広げられていた。


「それは?」

「――ふふん! これは……怪異調査帳、ナンバーサーティーンよ!」


 よくぞ聞いてくれました! という勢いで、目堂さんがノートを閉じれば『怪異調査帳 No.13』とポップに書かれた表紙が現れる。


「で、これがいままでのノート! はい、キューくん、よろしくね!」

「えっ、なに……これ……うわ……」


 目堂さんは隣に置いてあったノートの山を僕に押し付けてくる。中にはぼろぼろのノートもあった。


「長いこと、仲間を探してたのよ……色々調べたりしてね。これはその記録よ! みてみて結構頑張ったんだから!」

「――これ、噂や都市伝説のまとめ……?」


 抱えながら一冊を開いてみれば……町の南にある小学校の名前が目に飛び込んできた。■■■小学校の七不思議? 『深夜の侵入は怖いため、調査不可』。

 四時四十四分に■■■に電話をかけると死神に繋がる……『ネットの掲示板で作られた作り話。調査終了』。

 ■■■町の図書館にある石像は動く……『昔に地震でずれただけ。調査終了』。

 ■■■島の住人は、妖怪の血をひいている……『どこの島? 検索してもわかんない。情報不足』。


「今日はね、キューくんにこれを渡したかったのよ! 一度読んでもらって……何か気になるところがあれば、教えてほしいの! ほら、情報不足のものもいっぱいあるし……理由あって調査できなかったものも、なんかアイデア出してもらえたら……」


 いったい、目堂さんはいつからこんな活動をしていたんだろう。ぼろぼろのノートの字は幼くて拙い。ていうか、この執念は、なに?


「なんだかわくわくしてきちゃった! 仲間がいるって心強いわね!」


 と、ぱっと明るい声を上げたものだから、僕は我に返る。目堂さんは無邪気ににこにこしていた……髪の毛から蛇が出てきて踊り出している。


「目堂さん、蛇、蛇」

「ああうもう……」


 目堂さんはぎゅっと蛇を掴めば、髪の毛の中に押し込んだ。


「興奮すると出てきちゃうのよ、こいつ」


 僕は一応、誰かに見られていないか辺りをうかがう。僕達が普通の人間でないとばれたら、どうなることか。

 吸血鬼は十字架や聖水や日光で殺されて、メドゥーサは首を切り落とされた。それが今に伝わる怪物退治のお話だ。


 幸い、目堂さんの蛇に気付いた人はいないようだった。男子達はいまだに誰が剛速球を投げられるかやっているし、他の場所では、校庭に迷い込んできた黒猫を、女子達が囲んでいた。あとはみんなそれぞれ、遊んでいる。


「ねえ、目堂さんと話してるあいつって……」

「影山だよ、傘さしてるし間違いないよ……まさかあいつ、仲いいのか?」

「えっ? 影山って……あの暗そうな奴でしょ?」


 けれど、声が聞こえる。まずい。


「えっと、その、とりあえず、じゃあ、これは預かるね……」


 そうだよ、こんな陰キャが学校のアイドルと喋っていたら、目立ってしまうのだ。

 僕は目立ちたくないのに。


「ていうか、教室でよかったんじゃない? なんで昼休みにわざわざこんなところに呼び出して……」

「それも……そうだったわね?」


 きょとんとして、目堂さんは気付く。ノートはそこそこ量があるから、ここまで持ってくる最中に後悔しなかったのだろうか。


「でも、教室だと、目立っちゃうかなぁと思って……あんまり騒ぐと、あたし達の正体が……」

「……」


 もう十分目立ってるんだよ!


 剛速球大会の流れ弾が、またこちらへ飛んできた。クラスで一番運動ができる奴の球で確かに速い方だったけど、僕は思わず片手でキャッチした。

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