第一話(05) 僕は普通でありたいと
* * *
どうして、こんなことになったんだろう。
僕はふらふらと家にたどりついた。廊下を歩いていると、足音で気付いたのだろう。
「久太郎、おかえり……どうしたの? 顔色が悪いわ……疲れてるの?」
「ううん、大丈夫だよ母さん」
夕飯を作っていた母さんが、廊下に顔を出す。僕は顔を見せないようにして、急ぎ足で自室に向かう。
学校に、自分と同じ怪物の末裔がいたこと。あまり、母さんに話したくなかった。
僕は何ともない息子でいたかったから。
「……久太郎、そういえば、トマトジュース、最近足りてるかしら。お母さんね、叔父さんに聞いたのよ……ほら、叔父さん、キューと一緒で、血がちょっと濃いそうでしょう? それで、あの人、中学生になったらトマトジュースが足りなくなって、一日に三杯飲んでたんですって……」
「僕は……大丈夫」
――ぱたん、と自室の扉を閉める。
僕は……『普通の人間』だ。
バッグを床に置けば、その中でスマホが光っていた。目堂さんからのメッセージだ、無理矢理連絡先を交換された。
『キューくん! 明日、あたしの「怪異調査帳」持って行くね!』
『仲間を探すのに、色々調べてたんだ!』
『もし、何か思い当たることがあったら、言ってほしいの!』
『ほら、一人より、二人、じゃない?』
『その方が新しい仲間も見つかるだろうし!』
『調べる仲間が増えて、本当に嬉しい!』
……やっぱり僕、変なことに巻き込まれてない?
なに? 怪異調査帳って。
なに? 調べるって。
変なこと、しないよね? 平穏じゃないの、今日だけにしてほしいんだけど。
――残念ながら、僕の平穏な日々は、二度と帰ってこなかった。
【第一話 終】
『目堂さん』第一話を読んでいただき、ありがとうございます。
こういった書き方をするのは自分では珍しいので、ブクマや評価などで応援していただけると安心します。