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隣の席の目堂さんは髪の毛に蛇を飼っている ―そして僕はトマトジュースを飲む日傘男子―  作者: ひゐ
第五話 みんな裏があるんだなって思ったけど、表と裏で一つだから
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第五話(10) 初めてだから仕方ないじゃん……

「――ふざけるな!」


 ところが。


「それなら……最後の手段だ!」


 不意に響いたのは、賀茂さんの声だった。見れば、いつの間にか賀茂さんは僕達から離れていて、手にしているのは……玩具っぽい、赤いスイッチ。

 ぽちっと、押したのなら。


 ――廃ビル全体が揺れているような衝撃。ホールのいくつかの箇所が吹き飛んだ。耳が痛いくらいの轟音。


 爆弾?


 廃ビル全体を壊すようなものではなかったようだけど、爆発でひびの入った床は、次々に抜けていく。僕と目堂さんが立っていた場所も――崩れる。


「賀茂さん、これやりすぎだよぉぉぉ!」

「もう嫌! あいつ、意味わかんない! 馬鹿なの!」


 僕と目堂さんは瓦礫と一緒に落ちていた。下の階が見える。遠い。落ちたら助からない。どうにもできない。数秒が長く感じる。落ちていく。目堂さんが手を伸ばしている。だから僕も手を伸ばす。握る。でも、握ったところで二人で落ちていくだけ。僕達に空を飛ぶ力なんて、ない。


 ――ああ、本当に力がある吸血鬼だったら。

 こういうところで蝙蝠に変身して、なんとかできるのに。

 ――でも吸血鬼って悪い存在だから。そんなこと、できない方がきっといい。


 ――けれども、目堂さんが怪物以前に目堂さんであるように。

 ――僕も僕だ。どうして僕はいつも、僕と悪い吸血鬼を、一緒の存在だと考えちゃうんだろう。


 ――思えば、すごく自意識過剰というか、勘違いもいいところというか。

 ――つまりとってもかっこ悪い!


 ――それなら、かっこいいこと一つくらいやらせてよ。

 ――僕はこんなところでかっこ悪いまま消えたくないし。

 ――目堂さんを助けたい……!


 ……身体がばらばらになる感覚があった。決して、めちゃくちゃ痛いっていう意味じゃない。

 本当にばらばらになった。ばらばらになって、僕は無数の蝙蝠になっていた。


 あっ、吸血鬼って、こうやって変身するんだね? 意外に簡単。念じただけでできちゃうものだったんだ?


 変な話、かもしれないけど、僕は大人しくし過ぎて、色んな可能性を捨てていたのかもしれない。

 それに僕は……本当の自分を抑えこんで、普通であろうとし続けていたから。


「キューくん!」


 目堂さんを抱えるように僕は飛ぶ。ゆっくり落ちていく。キィキィ鳴いちゃうのはちょっと止められない。無数の蝙蝠は身体の一部のように動かせるわけじゃない。

 それでも、床までゆっくり目堂さんを運んで、着地させて。


 ……僕、戻るのはどうしたらいいの?

 そう思えば、蝙蝠は勝手に一か所に集まって――僕に戻ってくれた。


「キューくん、すごいっ! ……キューくん?」


 目堂さんが駆け寄って来る。

 ……でも僕は、それどころじゃなかった。しゃがみ込んで、背を丸くして。


「おえぇぇぇっ……」


 吐いた――変身で酔っていた。

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