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隣の席の目堂さんは髪の毛に蛇を飼っている ―そして僕はトマトジュースを飲む日傘男子―  作者: ひゐ
第五話 みんな裏があるんだなって思ったけど、表と裏で一つだから
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第五話(02) 怪異はすぐ隣にいた!?


 * * *



 もう少し、影山と話したかったと、目堂は廊下の先を見つめていた。しかしこれからしばらくは、必要以上にやりとりをしない方がいいと言った彼には賛成で、スクールバッグを手に取った。今日はもう、まっすぐ帰宅することにした。本当は、怪異調査に行きたかったが。


「待って、目堂さん」


 けれどもまだ残っていた賀茂が呼び止める。


「あら賀茂さん、何か用?」


 目堂が賀茂に視線を向ければ、賀茂は射し込んだ夕日の中に立っていた。眼鏡がオレンジ色の光を反射している。その向こうにある緑がかった瞳は、まるで相手を射抜こうとするかのような鋭さを秘めている。


「目堂さんって――」


 そして賀茂は、ゆっくり口を開いた。


「目堂さんって――普通の人間じゃ、ないよね……?」

「えっ……あっ」


 思わず目堂は、間の抜けた声を発してしまった――まさか蛇が出ていた? 頭に手を伸ばせば、指先が鱗に触れた。出ている。


「あ~これはその~手品! 手品なの! あはは、びっくりした? あは……」


 見られた。慌てて奥に引っ込めて誤魔化す。しかし。


「髪の毛の中に蛇が混ざってる……もしかして、メドゥーサ?」


 そこまで言い当てられてしまえば、顔から血の気が引いた。


「あっ、えー、えーとね、うーん……」


 どうしてわかるんだろう。

 どうしてすぐにメドゥーサだって、言ったんだろう。

 普通の人間はまず、怪物なんていう幻想を信じないから、そんなことを言わないはずなのに――。


「ちょっと森の中にはいった館」


 と、賀茂は唐突に。


「あそこに行ったって……噂を聞いたの。狼男が住んでたっていう、噂のある……」

「……賀茂さん、それ、知ってるの?」

「狼男、探しに行った?」


 そこまで知っているのは、そこまで予想できるのは、明らかにおかしい。

 知らないうちに、目堂は冷や汗をかいていた。どうしてこうも、すらすらと。

 けれども、不意に不安は、ある可能性に期待へと変わって。


 ――ここまで知っているということは。

 ――賀茂さんも、もしかして。


「あの……実はそれ、私のおじいちゃんなの」


 彼女は――そう目を細めて、笑った。


「目堂さん、私……狼男の末裔なの」


 けれども。


「ほ、本当に? 賀茂さんも……怪物なのっ?」


 もしかすると、とは思ったものの、目堂は簡単に信じられなかった。どこからどう見ても、賀茂は普通の女子だった。きっちりと制服を着こなし、しわの一つも許していない。真面目な女子生徒。それこそ、こんな冗談を言うようにも見えない。狼男の末裔と言うのなら、耳や尻尾、それらがなくても牙くらいはあってもおかしくなさそうだが、何も見つけられない。


「普通の人間に、見える……」

「狼女は、普通の人間みたいなときは、そのまま人間だからね……」


 狼男や狼女が変身するのは、夜だ。いまはまだ夕方である。

 ようやく目堂は納得したが、やはり簡単に信じられない。

 それは賀茂も同じだったらしい。


「まさか、学校に私みたいな人がほかにもいるなんて……」


 寂しそうな彼女の笑みに、目堂は自分と似たものを感じてしまった。賀茂はその笑みを拭い去って、ばっと駆け寄った。


「あのっ! ちょっとお話、しない? 場所を移して……」


 目堂は蛇と一緒に彼女を見つめてしまう。もう隠す必要はなかった。


「待って! 待って! それならキューくん連れてくる! あのね、キューくんもそうなの!」

「キューくんも……やっぱり? 二人で夜歩いてたっていうから、何かあるんじゃないかって思ったの」


 まさか学校にもう一人、人間でない者がいたなんて。一刻も早く影山に連絡しなくてはいけない。

 手が震えていた。喜びに震えていた。それでもなんとかスマートフォンを取り出して、


「あっ、あっ、でもっ、でもいまはキューくん呼ばないで!」


 ところが、我に返ったかのような賀茂に制止される。


「えっ? なんで?」

「――私、普通の人に見えるでしょう? だからせめて本当だって、正体を見せたいんだけど……」


 賀茂は顔を真っ赤にしていた。


「……お、男の子に、毛深くなるところ、見せたくなくて。いくら、狼に変身するからっていっても」


 ――しばらくして、二人の女子生徒が、中学校から出て行った。

 二人が向かったのは、街の再開発が進む場所。廃墟も多い場所。


 ――校庭の隅にいた黒猫だけが、二人の会話を耳にしていた。

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